短編2
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Anything s

抽象画だったか、何だったか。細かい粒子で全体を形創る技法。あるいは何重にも絵の具を塗り重ね、塗り付けられた油絵にも似てるかもしれない。

遠くで見ればはっきり形を成すのに、近づけばぼんやり滲んで、何がなにやら分からない。

私が、『何か』を見る時は、いつもそう。急に街中の景色がぼやけて、色と色、線と線との境界が曖昧に、混じり合って、マズイ。マズイって、見ちゃうから。グチャグチャな景色の中、はっきり形を持つのは『何か』だけ。はっきり形を持ってるから、周囲から浮かび上がって、嫌でも目に入っちゃう。交差点の向こう側、コンビニの駐車場、遠くのビルの窓、どこにあろうと。

グチャグチャは前兆、だから、ああいるんだなって、これから見ちゃうんだなって思うのも、辛い。

『何か』って、なんて言い表したらいいんだろう?

例えば、食事中、他人の口からごはんツブか肉のかけらか、食いカスがこぼれ落ちて、もっと悪いと自分のテーブルまで吹き飛んできた、それに自分だけ気付いていて、不快で、でもなんか注意出来なくて、拭いてくれなんて言ったら神経質だしイジワルな奴かな、きっと嫌な顔で注意しちゃうだろうな私、でも何でもない普通の顔を整えて言うのもわざとらしいなんて変に遠慮して、唾液に濡れ細かく引きちぎられたあるいはすり潰されてブヨブヨのぐにゃぐにゃ、歯形の跡、見たくないのに妙に食いカスだけ意識しちゃって、その存在感、吐き気しながら食事を続ける。きっと『何か』はそんな感じ。

『何か』は、うねっている。丸くなったりへこんだり細くなったり長くなったり、毛が生えていたりツルツルだったり、軽そうだったり重そうだったり。

色だって、『何か』は定まってない。暗い極彩色みたい、何色も何色も色を混ぜ合わせたら汚い暗い色になる感じ、それなのに色、混ざってないみたい。

そんな変なもの、何にも決まってないくせに、周囲の何よりもハッキリしてるなんて気持ち悪い。見たくない。

そう思ってたらね、景色のグチャグチャする症状、軽くなってきた、線と線、色と色、次第に形を保つようになって、景色がグチャグチャした時にはっきり見える『何か』は、逆にぼんやりグチャグチャして見えてくるようになった。前より嫌悪感が無くなっちゃった、安心、安心。

そのかわり、私を見る周りの目、変わった、なんだろう? 『何か』を見る私の感情を、表情に表したら、きっとあんな目、あんな顔をするんだろう。汚い、触れたくない、そして怖い。雑誌で叩きつけ潰れたゴキブリを確かめる気持ち?

そういえば、『何か』は結局、何なんだろう?

近くで見たらぼんやり見えて、遠くから見たらはっきり見える。

近づけば、ぼんやり、遠くからは、はっきり。

怖い話投稿:ホラーテラー 菊地☆トミーさん  

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