オレは死んだ。
何故死んだかは分からない。
気がつけば知らない部屋にいた。
部屋は壁、天上、床までもが真っ白に塗られている。
部屋の中央に椅子があるだけで他に物は何もない。
そしてこの部屋には黒猫が一匹いる。
しかもこの黒猫、驚くべき事に人間の言葉を話すのだ。
黒猫は
「お前は死んだ。そして今お前が天国へ行くか、地獄へ行くかの裁きがおこなわれている。まぁすぐには決まらないから、退屈しのぎにオレの話でも聞いててくれ」
といった。
「これはある若い男の話だ。」
ある日、男は住んでいるマンションのごみ捨て場で大きなアタッシュケースを見つけた。
男は軽い気持ちでそれを開けてみた。
腰を抜かした。
中には札束がぎっしりと詰め込まれていたのだ。
今まで見た事のない大金に目まいがした。
男は震える足で立ち上がり思った。
警察に届けないと……。
しかし男は警察には届けなかった。
絶対に考えてはいけない事を考えてしまったからだ。
気がつけば男は部屋の中にも立っていた。手にアタッシュケースを持って。
その日から男は部屋から出なくなった。
逃げてしまおうとも思った。
しかしこんな大きなアタッシュケースを持っていたら絶対に怪しまれる。
それで職務質問なんかされたらお終いだ。
そんな根拠のない事を考えながらアタッシュケースを抱きかかえ、何処からか聞こえてくるパトカーのサイレンの音に身を震わせる日々を過ごした。
気がつけば男はおかしくなっていた。
あれだけ恐れていた警察の事が気にならなくなり、毎日同じ事を繰り返し考えるだけになった。
この金はオレの物だ……。
誰にも渡さない……。
そして男は思い付く。誰にも金を渡さない方法を。
男は……。
「どうなったんだ?」
と尋ねてみた。
「自殺したのさ。部屋に火をつけてな。金と一緒に燃えちまったんだよ」
と黒猫はいい、不思議そうに
「オレには理解できねぇんだよ。人間てのは、なんであんな紙切れにそこまで執着心出来るのかがな」
と続けた。
音が聞こえた。
いつの間にか壁に扉ができていて、それが開いていた。
「お。裁きが終わったみたいだ。行ってきな」
と黒猫はいった。
扉の向こうへ行く途中、黒猫の声が聞こえてきた。
「後な。男が拾った金ってのは全部偽札だったらしいぜ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話