短編2
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裁きを待つ間 二人目

オレは死んだ。

何故死んだかは分からない。

気がつけば知らない部屋にいた。

部屋は壁、天上、床までもが真っ白に塗られている。

部屋の中央に椅子があるだけで他に物は何もない。

そしてこの部屋には黒猫が一匹いる。

しかもこの黒猫、驚くべき事に人間の言葉を話すのだ。

黒猫は

「お前は死んだ。そして今お前が天国へ行くか、地獄へ行くかの裁きがおこなわれている。まぁすぐには決まらないから、退屈しのぎにオレの話でも聞いててくれ」

といった。

「これはある若い男の話だ。」

ある日、男は住んでいるマンションのごみ捨て場で大きなアタッシュケースを見つけた。

男は軽い気持ちでそれを開けてみた。

腰を抜かした。

中には札束がぎっしりと詰め込まれていたのだ。

今まで見た事のない大金に目まいがした。

男は震える足で立ち上がり思った。

警察に届けないと……。

しかし男は警察には届けなかった。

絶対に考えてはいけない事を考えてしまったからだ。

気がつけば男は部屋の中にも立っていた。手にアタッシュケースを持って。

その日から男は部屋から出なくなった。

逃げてしまおうとも思った。

しかしこんな大きなアタッシュケースを持っていたら絶対に怪しまれる。

それで職務質問なんかされたらお終いだ。

そんな根拠のない事を考えながらアタッシュケースを抱きかかえ、何処からか聞こえてくるパトカーのサイレンの音に身を震わせる日々を過ごした。

気がつけば男はおかしくなっていた。

あれだけ恐れていた警察の事が気にならなくなり、毎日同じ事を繰り返し考えるだけになった。

この金はオレの物だ……。

誰にも渡さない……。

そして男は思い付く。誰にも金を渡さない方法を。

男は……。

「どうなったんだ?」

と尋ねてみた。

「自殺したのさ。部屋に火をつけてな。金と一緒に燃えちまったんだよ」

と黒猫はいい、不思議そうに

「オレには理解できねぇんだよ。人間てのは、なんであんな紙切れにそこまで執着心出来るのかがな」

と続けた。

音が聞こえた。

いつの間にか壁に扉ができていて、それが開いていた。

「お。裁きが終わったみたいだ。行ってきな」

と黒猫はいった。

扉の向こうへ行く途中、黒猫の声が聞こえてきた。

「後な。男が拾った金ってのは全部偽札だったらしいぜ」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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