中編5
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動物園(幸運)

気づくと俺は、動物園らしき所に居た

辺りにはいくつかの檻があり

そこには『猿』やら、『兎』やら、『鼠』やらと書かれた

プレートが掛けられているが

動物の姿は見えない

早朝なのだろうか

客らしき姿も全く見えず

若干、霧がたちこめているその光景は

幻想的で神聖ですらあるように見えた

暫く歩くとベンチを見つけた俺は

そこに腰を掛けた

少し感傷的な気分になっているのだろうか

俺は今までの人生を振り返った

俺が初めて盗みをやったのは

小学2年生ぐらいの事だ

その頃、お菓子に付いてくるシールを集めることが

学校中で流行っていた

もう名前も忘れたが同級生がわざわざ学校にまで持ってきて

見せびらかしていたのを俺は盗んだ

犯人が誰なのか、クラス中で話題になったが

誰も、俺が犯人だなんて疑わなかった

結局、クラスの中で家が貧乏だと噂されて居る奴が

犯人扱いされた挙句、苛めの対象となった

それが全ての始まりだった

「癖になる」と、世間の人間は言うが

まさにその通りだった

俺はその後、幾度と無く盗みを繰り返すようになった

知人、友人、親、兄弟、対象は選ばなかった

そして不思議な事に

俺は疑われる事が無かった

もともと本人が意識してなかったモノだったり

俺以外の人間が疑われる事が多かった

俺は単純にそれを『運』が良いからだと考えた

理由や原因などはどうでもよく

俺がやる盗みは、なぜか許される

俺はそう考えるようになった

そうして大人になった俺は

定職を持つ事を放棄した

金が無くなれば

人の家に入り込み、金目の物を盗むだけで解決した

まともに働く事が馬鹿馬鹿しく思えてしょうがなかった

そうした生活を続けていくうちに

存外、自分以外にもこういう生活をしている人間が

少なくない事に俺は気づいた

そして自然と、俺は彼らと付き合うようになった

ただ彼らは決して『運』は良くなかった

事実、警察に捕まったことがある者が多かった

一度も捕まっていなかったのは俺だけであった

俺は本当に『運』が良いと思うようになった

ある日、仲間の一人が

「ある財産家の家を狙う

 一人では手が余るので手伝ってくれる仲間を募集している」

と言い出した

俺はそれに参加した

俺は丁度その時、この生活に飽き飽きしていた

まとまった金を手に入れて

海外にでも行き

暫くはそこで悠々自適な生活を送ろう

そう考えていたのだ

やはり俺は『運』が良かった

計画は成功し

仲間同士で山分けしても

それなりの金額になるようだった

引き上げの際

俺たちは車の中ではしゃぎまくった

自然と車のスピードは上がっていた

そこで、運転していた仲間の一人がハンドル操作を誤り

対向車と正面衝突をし…

そして…

「隣いいですか?」

その一声は

物思いにふけっている俺を現実へと呼び戻した

「ああ」

俺は短く答えた

声の主は俺の隣に座り、腰を掛けるとこう切り出した

「私、実はこの動物園の園長なのですよ」

「そうか」

「貴方はここでなにをしているのですか?」

「さぁな」

俺はそう短く、答えてからさらに言葉を続けた

「ここはひょっとしてあの世って奴なのか?」

「ええ、一般的にはそう呼ばれているところだと思いますよ」

「俺は死んだのか?」

「いえ、貴方はまだ死んでいません」

「……?」

「意識不明の重態といったところでしょうか

 何も無ければ、そのうち眼を覚ますとお医者様は仰ってましたよ」

「つまり、これはあれか?

 テレビとかでよく見る、幽体離脱がどうとかっていう…」

「そうです、そうです。

 テレビとか良くやっているそれですよ

 でも、ああいうの見て不思議に思った事がありませんか?」

「なにを?」

「幽体離脱の話って大体が……あ!」

園長と名乗った男は、何か思い出したのか言葉を途中で区切って

目の前の檻を指差した

その檻のプレートには『虎』と書かれている

「そんな事より、これから面白い物が見れますよ」

「なにが始まるんだ?」

「偽善者が悪人を懲らしめるのです」

そういうと園長と名乗った男はニコリと笑った

それから間もなくして

手足を縛られた全裸の男が飼育部屋らしきところから引きずり出されてきた

引きずっているのは飼育員らしき男だ

男の手にはカギヅメのような物が握られている

「一応行っておきますが、あの飼育員が偽善者で、縛られている男が悪人ですよ」

そういうと園長はいっそう笑顔になった

おもむろに偽善者は、カギヅメで悪人の皮膚を斑に剥ぎ始めた

手足を縛られた男の絶叫が園内にこだまする

時間にして5分ぐらいだろうが

俺にはやたら長い間そうしていたように思えた

やがて、終盤になると

悪人は声も出なくなり

なにを考えているのか偽善者は泣き出し

その嗚咽だけが静に聞こえていた

偽善者は皮膚の剥ぎとりが終わると

近くにある、水溜りに男を投げ込んだ

耳を劈くような悪人の悲鳴が再びこだました

「あれは、薄めた塩酸です

 ああやって、引っかいた直後に身を沈めると

 引っかいた場所だけ黒ずんで

 やがて、虎模様のようになるのですよ」

 

園長の言葉は、ほとんど耳に入って来なかった

なぜなら、その悪人を俺は知っていたからだ

あの財産家の家を狙ったときのメンバーの一人だ

「なぜ、アイツはあんな目に遭っている…」

「うすうす、気づいているんでしょう?

 あの人は罪を犯したのでああなっているのです」

「つまり、あの世でもここは地獄…ということか?」

「ええ、そうです」

俺はそれを聞いたとき

自然と笑ってしまった

「なにが可笑しいんですか?」

「いや、俺は本当に『運』がいい」

「だから何故です?」

「俺は、もう少ししたら、目を覚ますんだろう?

 さすがの俺もこんな目に遭うのはごめんだ

 これからは、罪償う人生を送るよ」

「残念ですが…貴方は二つの勘違いしていらっしゃるようだ」

「……なにを……?」

「いいですか?

 この世に…いや、失礼、今はここがこの世で

 あなたがいた所があの世なんですが

 解り易い様にこの世と言います。

 とにかく、この世に貴方の考えるような善行なんて存在しませんよ

 あるのは罪だけです

 罪というのは、貴方の考えるように足し引きできるモノではないのです

 罪とは『行った』か、『行わなかった』かそれだけなのです」

 

「……」

「それともう一つは、先ほど言おうとしたテレビの話です」

「テレビ…?」

「ええ、テレビとかで幽体離脱の体験談とか紹介してますよね?

 曰く、お花畑のような場所に行ったとか

 曰く、祖父に逢えただとか

 不思議に思いませんか?」

「……」

「つまりですね…テレビで紹介されているのは

 みな天国に行った人たちなのですよ

 という事はつまり…

 地獄に来てしまった者は帰れないのですよ」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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