中編3
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トンネル

トンネルで不思議な出来事に出遭った。そんな話をよく聞くのだが、実は私にもそんな経験がある。

ちょうど冬休みに入った日のこと。当時、私はまだ小6だった。

そのトンネルは高速道路の下をまっすぐ横切る、細くて短いトンネルだった。

左右1車線ずつ、片側にしか歩行者用の区切りがない、そんなところだった。

今はアスファルト舗装されているが、この当時はまだ舗装もされていなかった。

場所は伏せた方がいいと思うので書かないが、ある県の農村部とだけ申し上げておく。

とにかく田舎のトンネルだ。

その日、私は友人宅に行くためにそのトンネルを通った。

まだ午後の1時過ぎ。子供の足でも数十秒で通り抜けられる短いトンネル。

向こう側の出口がトンネルの外からだって見える、そんなトンネルに入った途端だった。

目の前が急に真っ暗になった。

見えるはずの向こう側が見えない。

何が起きたのかわからなかったが、とにかくおかしいぞ、と思った。

とにかく一度外に出ようと振り向いたら、そこにはあるはずがない壁が。

丁度、トンネルの横壁と同じようなコンクリートの壁があった。

入ったばかりの入り口が壁で全部塞がっていた。

怖くなり外に出ようとトンネルの反対側出口に向かって走ったが、いくら走っても外に出なかった。

先にも書いたがそもそも出口が見えない。

いつもなら、あっという間に出られるはずなのに。

そこでもう一度反対に戻ると、やはり壁に突き当たって出られなかった。

丁度、長い袋小路に押し込められたような感じだった。

当然、パニックを起こして「うわー」とか「おおー」とか叫んでいたと思う。

壁も叩いたり蹴ったりした。

しかし、壁に変化などあろうはずもなかった。

しかたなく、もう一度向こうに出ようと歩き始めた。

依然として出口は見えないままだったが、しばらくして妙な音のしている事に気がついた。

横壁の向こうから、車の走る音がしていた。

普通に道路を歩いている時にしている車の音。舗装していない道を走るジャリジャリという音。

その時に判った。「壁の向こう側にほんとのトンネルがあるんだ」って。

じゃあ、今いるここは?と考えても答えは出なかった(というよりも未だに答えが出ない)が、

とにかく、ここはあのトンネルではない、それだけは確かのようだった。

横壁を触りながら前へ進んで行った。

横壁のどこかから、トンネルに帰るのではないかと思ったのだ。

聞こえるからには繋がっている所がある、と思うしかなかった。

丁度、パントマイムでよくやってる「壁」って奴。

あれのような恰好で壁を触りながら進んで行ったら、突然、本当に突然明るい所に出た。

辺りを見ると、20mくらいうしろにトンネルの入り口が見えた。道端に立っていた。いつもの見慣れた場所。

「こちら」に戻ってきたらしかった。

戻る事の出来た理由は判らない。

この後、急いで友人宅へ行き、これこれこうだ、と説明したのだが、当然信じてもらえなかった。

無理やりトンネルまで連れてきたが変わった点はなく、

「嘘ばっかり言ってるんじゃない」と言いながらトンネルに入っていった友人も、

何のこともなくトンネルを通りぬけてまた普通に戻ってきた。

話はこれだけですが、ひとつだけ今でもどうなっただろう、と思うことがある。

あの時、私は1つしかない歩行者用の区切りに沿って中に入り、

その後も、この区切りの中で奥にいったり、戻ったり壁を触ったりしていた。

もし、あそこで区切りの向こう側、つまり奥に向かってではなく、車道にむかって横にずっと歩いていたら、

向こうはどうなっていたのか、それが判らない。

壁があったのか空間が続いていたのか。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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