短編2
  • 表示切替
  • 使い方

オマエモ…

口減らしがあった頃の、とある農村でのお話です。

菊という名の女性は女の子2人に男の子1人と、合わせて3人の子供を産みました。

赤子のうちは父親の稼ぎもあって、何とか3人とも養えていましたが、成長し食べ盛りの時期になってくると家計が厳しくなり、仕方なく子供を手離すことにしました。

ちょうどその頃、菊の家に人さらいが来ていました。

「あんたのトコの娘はなかなかの玉だ。これなら商品になるぜ」

人さらいの男は次女を見るなり、そう妖しく笑いました。

「長女の方はどうだい?」

「ありゃァ駄目だ。とてもじゃないが、あんなツラじゃ売れないねェ」

長女は産まれて間もなく病にかかり、顔に大きな水疱ができてしまったのです。

人さらいは少しのお金を置いて、次女を連れていきました。

残ったのは長男と長女。それでもまだ、家計は厳しいままです。

悩んだ挙げ句、病弱な長女を川に沈めることにしました。

まともに働ける体ではないので、引き取り手もいないのです。

夜、菊は眠った長女に重石を縛り付けると家の裏の川に運び、投げ入れました。

川面に叩きつけられた瞬間、長女は目を見開き、叫びながら必死で菊に手を伸ばしました。

しかし、すぐさま川の急流に飲まれ、底へと沈んでいきました。

それから10年ほど経ち、遠くの町に出稼ぎに行っていた長男が久々に家に帰ってきた時のことです。

「父さん母さん、町の土産だよ。綺麗な人形が安く売られてたんだ」

そう言って長男が箱を開けると、中から綺麗に飾り付けられた日本人形が現れました。

切りそろえられた黒髪に、白い肌。片方の目は少しばかり腫れていました。

「あれ?おかしいな…これ俺が買った人形じゃない」

長男が首をひねると同時に菊は、悲鳴をあげました。

「こっこれ…人形じゃない…あの子…川に流したあの子よっ…!」

すると箱の中の彼女はかっと目を見開き、笑って言い放ちました。

「オマエモ カワニ ナガサレロ」

次の瞬間、菊は引きずられるようにして家を出て、裏の川に身を投げたのでした。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

Concrete
コメント怖い
10
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

まったく、人に聞かせてあげるにはちょうどいいですね

返信