中編4
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のどが渇いた

実家からどぶろくをもらっていた。

公然の秘密で自家製のどぶろく。

飲み口は意外に軽いからするするイケる、しかし上半身はまだ酔いが回っていないのに腰にくる。

酒に強いオヤジさんが二階でどぶろくを飲んでいて、トイレが一階にあるので階段を下りようとしたら腰が抜けて正座したまま下りてきたことがある。これには驚いた。

月見酒と楽しみにしておいて開栓したら天井まで酒が勢いよく飛び出た。

一升びんの中身半分以上無くなった。

まるで天井に向けてビールかけしたようだ。発酵しすぎ。

天井からポタポタ落ちてくる酒のしずくを掃除しながら、昔あった不思議な話を思い出した。

子供の頃、東北で育った。

そこではどの家でもお盆には仏壇に『鏡』を置く。鏡と言っても本当の鏡ではなくて、寒天を煮て溶かし、専用の陶器に冷やし固めたもの。

それは盆に帰る仏様の顔が映ると言い伝えがある。

それから仏壇には、左右対称に青いイガの実がたくさんついた栗の枝を飾る。栗の枝には経文の書かれた五色の短冊がくくりつけてある。

これは黄泉の国の入口に栗があり、盆に帰る仏様の目印になるらしい。

そして、盆中は仏壇へ精進料理を漆塗りの立派なお膳を二膳ずつ1日三度の食事として供える。

ひとつは御先祖様用でもう一つは無縁仏様用としてだ。

昔の飢饉、地元では「けかつ(飢渇)」と呼び、その時に大量の餓死者、また生きるため人買い達に泣く泣く家族を金で売った時代の犠牲者を手厚く供養するためだと聞いた。

当時小学生の俺の役割として、寺から火をもらって仏壇のろうそくに火を移す仕事があった。

菩提寺の本堂のデカいろうそくから、持参したろうそくに火をもらって家紋の入ったちょうちんで家まで真剣に運んだ。

その火に仏様達がいると教えてもらっていた。歩くたび火がゆらゆらして、火が消えてしまう気がして緊張した。

迎え火と送り火もそのもらってきた炎を使うため家では仏壇のろうそくが消えてしまわないように誰かがついて見守っていなければならなかった。

これも昼間の子供の仕事とされて本家と分家の子供達で順番を決めて見張りをした。いつも親戚の大人が見守り、ふざけた真似をするとゲンコツが飛んだ。

そんな盆の最中に、事件が起きた。

幼稚園の年少の妹が誰もいない空間を見ながら誰かと会話していた。

「どうした?」と俺は妹に声をかけた。

妹は「あのね、のどが渇いて水が欲しいって。」と空間を見た。

妹は「あ…あっち。」と指差した。

指差した方向には壁ではなく、物入れ(ふすま一枚が金具を付けたドアになっていて開け閉めする)があった。

オヤジさんが農家の改築工事や廃船の解体があれば飛んで行って使えそうな材料をもらってきては、家の中改造していた。

農家からもらってきたふすまで物入れをこしらえたのは最近で、じいちゃんの「危険なおみやげ」を入れるためだった。

それは、生きたマムシが入った麻袋や蜂の巣(蜂の子やさなぎがまだうごめいているもの)。

じいちゃんは地主から依頼され山の管理をしていた。

時々山から危険なおみやげを家庭に持ち込む。

オヤジさんは子供達に危険がないように考えて作ったと思う。

その物入れのふすま一枚にトンボのような虫達がびっしり止まっていた。トンボのように羽が細長いが、羽をたたんでいる。羽は透明だが、頭と胴体は黒い。

「うわ…何これ」と俺は見たことない光景に驚いた。

同時に金縛り状態になって、声も身動きも出来なくて仕方なく見入っていた。

トンボのような虫達はゆっくりと、顔(目のある方)を俺に向けた。

そして、虫達は口を大きく開けたり閉じたりパクパク繰り返したこっちを虫達が全員で何かを訴えかけている感じがした。

しばらくして、俺はやっと動けるようになった。

「もしかして、あの虫達が水欲しいって言った?」と妹に聞いた。

妹「わかんない。…なんか声がしたの。」と震えながら答えた。

その瞬間、ドガァッとデカい音がした。

親戚の大人やいとこ達が「なんだぁ~。何したかぁ。」と集まって来て、絶句していた。

音の正体はお盆の来客用に買い置きして積み上げてあったビールケースやサイダーのケースのフタがいっせいに開栓し吹き飛ばした音だった。

フタはまるで、おもちゃのメンコみたいに真平らになっていた。

いくつかが、手裏剣のようにふすまに半円形ほど深く突き刺さっていた。

ケースは崩れて、ビールやサイダーの瓶は割れたり、転がっていた。

天井からポタポタ飲料のしずくが落ちてる。ピンポイントの地震が起きたようだった。

じいちゃんもオヤジさんも何事も無かったように掃除し始めた。

「お盆だから仏様もたまにはビールやサイダーも飲んでみたかったんだなぁ。」って、大人達は言ってお終い。

メンコみたいなフタはオヤジさんが先祖の回忌に一緒に何度も供養している。

実話で説明のつかない不思議な話です。

終わり

怖い話投稿:ホラーテラー 十六夜さん  

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