短編2
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遊ばれている男

―――ザク…ザク…。

いつものように野菜を切る音が耳に障る。

俺はこの音が嫌いだ。

俺は、ぼんやりと彩子の顔を思い浮かべていた。

今年の春、俺のところに配属された彩子は28歳。

飾り気はないが、笑うと八重歯が覗き、年齢以上に若く感じる。

二回り近く歳の離れたこの女に、俺は情けないことに心を奪われていた。

一部の友人にはこのことを打ち明けたのだが…案の定みんなの物笑いの種と化している。

「お前、遊ばれてるだけだぞ。」

俺だって馬鹿じゃない。

この歳で真剣に愛だの恋だの口にすること自体、確かに笑われて当然だろう。

彼女にとっては、俺なんて所詮その他大勢の一人に過ぎないことも分かっている。

―――ザク…ザク…

―――バリ…バリ…

ああ、全く耳障りな音だ。

そばで野菜を切りながら、光子(一応、俺の妻)が俺を睨んでいる。

こいつはさっきから野菜を切っては、元に戻し再び切るという奇行を、楽しそうに繰り返している。

そこに「料理する」という意思は全く感じない。

むしろ「切る」行為そのものを楽しんでいるかのようだ…。

「…あなた…。

 またあの女のこと考えてたでしょ…?」

光子が言う。

鋭い女だ。

「あの女…許せない…。」

おいおい、何を言ってんだ?

光子は、何とそのまま…包丁を握りしめて飛び出して行ってしまった。

あいつ…何をする気だ?

まさか…。

「彩子っ!危ない!」

――――――――

ポカッ!

「…ぁ痛っ!

 コラ!みっちゃん!

 オモチャで人を叩いたらダメでしょ?!

 ほら、けんちゃんとおままごとの続きしておいで?

 あー、けんちゃん!

 今、先生のことまた呼び捨てしたでしょー?」

怖い話投稿:ホラーテラー 海星さん  

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