中編3
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失恋 そして出会い

その日、明かに彼女の様子がおかしかった。

そわそわして 何度も窓から外を覗いたり、いつもより格段に手の込んだ料理のチェックをしたりしていた。

嫌な予感がする……。

まさか、また彼女の浮気癖が出たんじゃないだろうな?

俺がこの部屋で暮らし始めてすぐの頃、彼女が男を連れてきた事があった。

ひょろひょろとした、なよっちい変な顔の臭い奴!

こんな奴を連れてくるなんて、当て付けにしてもひど過ぎると思った。

たぶん前の晩に、我慢できずに彼女の布団におもらししたのを怒っての事だろう。

俺 たくさん謝ったのに。

その男は俺を見て、露骨に嫌な顔をした。

もちろん俺も睨み返したさ。

負ける気はしなかった。

昔の悪かった頃の血が、沸々と甦る。

俺は思いつく限りの嫌がらせをしてやった。

まず、男が履いてきた靴に毛玉を吐いてやった。

次に毛虫がたくさんくっついてるみたいな頭を、爪でバリバリ研いでやった。

爪が引っ掛かり俺自信も痛かったが、そんなのかまいやしない。

さらに奴のそばで、体中をガリガリと掻きむしった。

奴の服も食べようとしていた料理も、全て俺の毛にまみれてたよ。

いい気味だ!

男は涙を目に一杯ためて、鼻をグズグズさせて一目散に部屋を出て行った。

俺の女にちょっかい出すなんて100万年はえーっつの!

それからその男は、二度と家に来る事はなかった。

今回も俺が追い払ってやるぜ!

しばらくして、玄関が騒がしくなった。

見に行くとそこには、見上げる程の大男がいた。

なんだ、こいつは!

前に彼女と見た、テレビの中のゴリラって奴にそっくりだ。

……まぁ、いいさ。

図体ばかりでかくても 俺の敵じゃねえ。

さて どうしてやろうか。

今度は足の上に 直に毛玉を吐いてやろうか……。

そう考えた直後、俺の体がふわりと宙に浮いた。

な、何!? 一体何が!?

『か〜わいいでちゅね〜!ん〜?あーフワフワでちゅねー!』

あろう事か、男は俺を抱き上げ、腹にすりすりと顔をなすりつけてきた!

やめろーーーー!気持ち悪い!

俺は必死に暴れ男の手から逃れたが、その後も嫌がらせをしようと近づくたびに捕まり、顔をなすりつけられた。

チクショウ!

俺の完璧な負けだ……。

後ろを振り向き二人を見ると、楽しそうに寄り添い微笑みあっている。

潔く出て行こう……。そう決めて歩き出した時

『待って!行かないで……?』

と俺を呼び止める声がした。

見るとそこには、白く美しい女が立たずんでいる。

『お前は……?』

『今日あの人に、ここへ連れて来られたの。

たぶん、あなたに会わせる為に。』

『そうか……。せっかく会えたのに残念だが、俺はもうここを出て行くんだ。』

『どうして!?彼女に恋人ができたから?』

『……………………。』

『あなたにあの人は合わないと思う。』

『わかってるさ俺だって!さっきも聞こえてきてたろう?

28歳、おめめとー!って、さ……。

俺は5歳。歳の差がありすぎる……よな。だけど俺は!』

『あたしが!あなたのそばにいてあげる…。』

『えっ!?』

『あのね…一目惚れって、信じる?』

そう言いながら俺を見上げる彼女の目はキラキラと輝き、華奢なその体はかすかに震えていた。

なんだ、この気持ちは?

胸がドキドキして苦しい……。

今まで感じた事のない感情だった。

『あ、あの……なんて言うか、お前の目凄く綺麗だ…』

『あなたも……。』

そして俺達は、さっきの二人がしていたように 寄り添い微笑みあっていた。

我ながら惚れっぽいとは思う。

でも俺は今、確かな幸せに包まれていた。

『ねぇ、ちょっと見て!

あなたがプレゼントしてくれたハムスターと、うちのクロが寄り添ってるわ!

こんな事ってあるのね〜。』

『本当だ。可愛いな〜!』

彼女は嬉しそうに、二匹を見ている。

男は気づかれないように、小さな声で呟いた。

『餌用に買ってきたんだがな……。

まぁ、結果オーライって事で。』

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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