鈴の音が聞こえる―クロ―2

中編3
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鈴の音が聞こえる―クロ―2

俺達は 時々休みながらも、かなりのハイペースで歩いて行った。

腹が減れば魚屋でこっそり魚をいただき、眠くなればどこかの軒下で丸くなった。

今夜で二回星空を見た。

だから明日には、あの空き家に着くはずだ。

『なぁ クロ。あの空き家にいるって噂の幽霊って、本当にあの人間だと思うか?』

寝そべりながら、ポウが聞いてきた。

『……さぁな。』

死んでなおこの世に留まっていると言う事は、理由はどうであれ 心残りがあるからだ。

もしくは……。

この世に縛り付けるような何かが邪魔しているか、だ。

『とにかく行ってみるまではわからないな。』

俺の言葉にポウは頷き、そのまま目を閉じた。

星空を眺めながら 俺も目をつぶった。

風が 少し懐かしい匂いがしたような、そんな気がした。

目が覚めると すでに眩しい日差しが差し込んでいた。

『おい、ポウ!朝だぞ、起きろよ!』

全くこいつは!昔からこいつは、一度寝るとなかなか起きないんだ。

顔にパンチを三回程叩き込んで、やっと片目を開けた。

『……起きました……』

ポウは呟きながら必死に片目を開けたが、完全に白目だ。

なるほどな。刺激が足りなかったと見える。

俺は、四回目のパンチをお見舞いする態勢に入った。

『起きた!もう起きたよ〜。暴力反対ー!』

慌ててポウが飛び起きる。

『これは暴力じゃないぜ?愛の鞭だ。お前限定のな。

そもそも俺達猫は、夜中に行動する方が楽なのに。

お前に合わせて寝たり起きたりしてるとなぁ』

『あ〜、はいはい。文句は後でな〜。さぁ出発!』

ポウは逃げるように歩き出した。

ため息を一つついてから、俺もポウに続いた。

赤い屋根の空き家は、俺達がいた頃よりさらに荒れていた。

窓ガラスは全て割られ、あちこちの落書きもひどくなっていた。

よく人間のガキが『肝試し』なんて夜中にやってきては、この家を荒らしていった。

霊なんて何もいないのに、『あそこに霊が!』だの『こっち見てた!』だの、揚句の果てには『追いかけてくるー!』なんて勝手に逃げ出す人間達を見て、俺達はよく笑ったもんだ。

それが今は、本物の幽霊屋敷になっちまったというのか……?

俺達は静かに中へと入って行った。

荒れてはいるが、そこは懐かしい物で溢れている。

キョロキョロと辺りを見回しながら奥へ進むと、空気がよどみ もやもやと霧のようなのがあるのを見つけた。

そこは 俺達が食い物をよくもらっていた場所だった。

ポウと目を合わすと、奴も静かに頷いた。

確かに幽霊はいた。

しかしこれでは、鈴の音の女なのかはわからない。

もう少し近づいてみようか。

そう考えた時霧は突然形を作り出し、みるみる人間になっていった。

それはあの、鈴の音の女に間違いなかった。

『あんた……一体なんでこんな所にいるんだ?』

ポウが問い掛けると、女は顔を手で覆い泣き出した。

少しずつ、霊の体に変化が現れ始める。

全身から血が吹き出し、床に血だまりを作っていく……。

そして突然、弾けるように消えてしまった。

血のむせ返るような匂いだけを残し、床の血だまりはもうない。

こうして鈴の音の女は、日に何度も現れては消えるというのを繰り返しているんだろう。

誰かに 何かを 伝える為に……。

しばらく辺りの匂いを嗅ぎ回った後、

『ここには体はないみたいだ。』

と ポウが言った。

『なぁ、クロ。あの人間は……。』

『あぁ。ただ死んだわけじゃない。

……殺されたんだ。』

俺がそう言うと、ポウは少し悲しい顔をした。

『落ち込んでいる暇はないぞ?これから情報を集めるからな。』

『情報?』

『そうだ。俺とお前で二手に別れて、できるだけたくさんの猫達にこの事を伝えるんだ。』

『……わかった。』

『必ず、殺した奴を探しだす。』

俺達は目を合わせ力強く頷くと、別々の方向へと走り出した。

次で最終話です

怖い話投稿:ホラーテラー 桜雪さん  

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