私には結婚を約束した彼女がいました。
名前は紗也。
自分で言うのはなんですが、今時珍しいくらいの出来た人でした。
勝気で負けず嫌いな部分もあり、変なとこにこだわる頑固な性格がたまに傷でしたが、そこも含めて愛していました。
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紗也との出会いは会社の近くのカフェでした。
当時、紗也はそのカフェで働いており、私は客として昼食やら打合わせなんかで良く利用していました。
始めて彼女を見た時から気にはなっていましたが、元来奥手で恋愛下手な私は連絡先すら聞けずにいました。
会社の同僚であり、友人でもある山本が間に入ってくれ、ようやく連絡先の交換をした程です。
連絡先を交換し、デートを重ね、交際を申し込んだ時には出会いから一年以上の月日が流れていました。
交際の申し出を受けてくれた時は天に昇る程、舞い上がってしまったものです。
ただ山本には御礼として寿司を奢らされましたけれど、、、
交際をしてからは順調で、時折ケンカはしましたが上手くやっていました。
紗也が私を気遣って合わせていてくれた部分が多いと思いますが。
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交際から二年経った頃、同棲を始めました。
1DKの小さいマンションでしたが、不自由無く幸せに過ごしていました。
そんなある日、紗也が体調を崩し、仕事を休みました。
私は二、三日休めば治るだろうと、心配はしていませんでした。
ところが、一週間経っても紗也の体調は良くなりませんでした。
むしろ日に日に体調は悪くなっていました。
これはおかしいと思い、寝ていれば大丈夫だと言う紗也を説得して近くの大学病院まで連れて行きました。
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その日は点滴やらなんやらで、紗也も少し良くなった様子でした。
しかし大事を取って、しばらくの間、検査入院する事になりました。
それから私は仕事が終わると毎日お見舞いに行きました。
面会時間は夜の八時までですが、仕事が終わるのが遅い私の為に、主治医の先生が目を瞑って下さり、いつも九時過ぎまで一緒にいれました。
その日もお見舞いに行き、次の日も早いので帰宅しようとすると主治医の先生に呼び止められました。
先生は病室と廊下の間のスペースで私にこう言いました。
「紗也さんは急性白血病です。」
私はわけがわかりませんでした。
そんな私に先生は優しく慰める様に、その病気について説得して下さりました。
その日から紗也の命を救う為、骨髄液のドナー探しに心血を注ぎました。
しかし私は勿論、紗也のご両親や妹さんも骨髄液は適合しませんでした。
そして先生や家族の思いは通じる事なく、紗也は逝きました。
二月二十五日。
外は雪がちらついており、とても寒い夜でした。
このまま朝が来なければと願いましたが、やはり陽は昇りました。
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昨夜の雪が嘘の様な、冬晴れでした。
私は葬儀やらなんやらで一週間程、会社を休ませて頂きました。
しかし失った物が大き過ぎて、仕事に復帰してからも上の空だったと思います。
家に帰っても当たり前ですが、紗也はおらず虚無感だけが私を包んでいました。
いっそ紗也の後を追ってしまおうとも本気で考えていました。
紗也が亡くなってから一ヶ月程経った日、偶然街で大学時代の友人の東田と会いました。
そして東田はおかしな事を私に言います。
「よぉ、久しぶりだな。実は先週もお前を見かけたんだけどよー、お前彼女連れだったからさぁ。気遣って声掛けなかったんだぜ。」
そんなはずはありません。
私は女性と一緒に出歩いてなどいないのです。
東田は紗也と面識もなかったですし、亡くなった事も知りません。
しかし私はもしかしたら紗也が亡くなっても私の側にいてくれているのでは、と嬉しくなりました。
全く怖いと言う感情はありませんでした。
更に紗也が側にいると確信したのは、東田にどう言う女性だったか聞いた時でした。
「確か、茶髪でストレートのロングヘアーで白いコート着てなかったっけかな?」
やはり紗也でした。
白いコートは付き合って始めてのクリスマスに私がプレゼントしたものでした。
東田を怖がらせるのは嫌でしたので、紗也が亡くなった事は言わずに別れました。
その日から紗也が側にいてくれる気がして少し元気が出ましたが、やはり実際にはもう紗也に会えないとわかっていましたので、部屋で一人になる度、涙が溢れてきました。
部屋のクローゼットから白いハーフコートを取り出し、それを抱いて眠る日が続きました。
またある日の事です。
同僚の山本が、飲み会に誘ってくれました。
どうやら名目は私を元気づける会のようでした。
「紗也ちゃんが亡くなって辛いのは良くわかる。でもないつまでもお前がそんなんじゃ紗也ちゃんも悲しむぞ。たまにはドンチャン騒いでみるのもいいもんだぜ。女の子もたくさん呼んだしさ、なぁ。」
私は正直、気乗りしませんでしたが、山本の顔を潰すわけにもいかず飲み会に参加する事にしました。
飲み会の会場は山本がホテルのジュニアスイートを取ってくれていました。
山本なりの気配りだったと思います。
飲み会当日、いざとなるとやはり気乗りせず少し遅れてホテルに着きました。
エレベーターで20階に上がり、部屋のドアを開けました。
すると私の視界に三名の女性が入りました。
その真ん中の女性。
白いコートを羽織ったその女性はどこか紗也に似た雰囲気を持っていました。
私は一瞬でその女性に目を奪われました。
すると私の耳元で声が聞こえました。
「綺麗な子ね。頑張ってみなよ。」
すごく穏やかで優しい紗也の声でした。
追記
私は来月にホテルで出会った女性と結婚します。
紗也には本当に感謝しています。
怖い話投稿:ホラーテラー スパイさん
作者怖話
この話が漫画化されました。漫画版はこちら comic19
この話がストリエでストーリー化されました。http://storie.jp/episodes/view/12677