中編4
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榛葉紀旅館

私は3年前のあの出来事が起こるまでは、一人旅が大好きだった。

月に1度は何処か地方へ出かけていた。

あれは紅葉が綺麗な秋の何とも言えない気持ちの良い日だった。

前日の晩から支度をして興奮しすぎて余り寝れなかった。

どこに行くかは、すでに決まっていた。

北陸に有名な秘湯があると噂で聞きつけ、早速行く事に。

車で約8時間かけて漸く、それらしき山に着いた。

時刻は昼の2時、ヒンヤリと冷たい風が流れていた。

辺りには人の気配がまるでなく、村や町も全く見当たらない。

本当に在るのかと少し不安になったが、ここまで来たのに引き返す奴なんていない。

くねくねした山道をゆっくりと登っていく。

対向車が来たらどうやって避けるんだと思うくらい道が狭い。

舗装はしっかりされていて綺麗なアスファルトが続いていた。

山を30分程のぼると、分かれ道が出てきた。

右に行けば獣道、左に行けば何とかトンネル(はっきり見ていないので覚えてない)

そのトンネルの方に行けば、榛葉紀旅館とかかれた看板があった。

ここだな、と思いトンネルの方へ進んで行く。

トンネルの前に着いた。

辺りの雰囲気が何故か変わったような気がした。

トンネルの前で車を止めた。

外からトンネルの中を見ると、明らかに電気が通っていない…。

これはおかしい…そう思いながらもUターンする場所も無く、引き返す訳も無く進む事にした。

トンネルの中は異様に寒い。そして暗い。

車のライトを付けていても暗い。

水が溜まっているのか、水溜まりの上を走っているようだ。

300㍍ぐらい走っただろうか、出口が見えてきた。

安心した私は、少しスピードを上げて出口に向かった。

出口を出る瞬間一瞬変な感覚に襲われた。

ゼリーの中に入る感じだ。ぶよっとした感覚が体を通り過ぎた。

別に気にしなかった私は、何事も無かったかのようにトンネルを抜けた。

そこは…奇跡だった。

広い草原の真ん中に旅館があり、山々に囲まれていた。

今までの苦労が一気にぶっ飛んだ気がした。

旅館はかなり古く、昔からある木造の学校のような作りになっていた。

使われているかわからないくらい寂れていた。

すいません。すいません。

玄関に誰も居なかったので、少し大きめの声で誰かいるのかを確かめた。

すると奥から人が出てきた。

身長が高く、かなり細い体の綺麗な紫色の着物を着た女の人だ。多分女将だ。

顔にはファンデーションをかなり塗っているのか、凄く白く見えた。

真赤な口がより顔を白くさせていた。

ようお越し。

軽く会釈すると、それだけ言って奥へ案内された。

スースーと床を流れるように進んでいく女将に違和感を覚えていた。

泊まり客は居ないんですか?

私は女将に質問した。

いません。

あなただけですよ。

少し笑いながら答えた。

その笑いに足の先から鳥肌が立った。

部屋に着いてびっくりした。

テレビが無い。

電波が無いらしい。

携帯も繋がらない。

まぁいいか、と軽い気持ちで考えていた。

スッと女将がお茶を入れてくれた。

近くで顔を見ると、怖い。

狐のような目と、顔の白さが怖い。

ありがとうとお茶を飲むとなんだが眠くなってきた。

コトン、と意識が無くなった。

目が覚めると、辺りは真っ暗だった。

時計を見ると午前1時を回った辺りだ。

部屋の電気は着かない。 旅館の電気事態着いていない。

ここで漸く、やばいと気付いた。

秘湯どころでは無い。

帰りたくても、真っ暗で部屋から出れない。

怖すぎて出れるわけがない。

その時、外から妙な音が聞こえた。

ズルズル…ズルズル

なんの音だ。

ズルズル…ズルズル

窓を開けて外を見た。

!!!!

外を覗くと何故か部屋は4階にある、階段を登った記憶は無い。

ズルズル…ズルズル

音の方に視線を向けた。

音の正体が分かった瞬間、絶望した。

女将の首から上が、下の庭をズルズルと動いていたのだ。

瞬時に、ぎゃっと声を出してしまった。

その瞬間、女将の顔が、バッとこちらを向いた。

私は窓から覗いている体勢で金縛りにあってしまった。

ズルズル…ズルズルと向かってくる。

しかしここは4階、首だけじゃ登ってはこれない。

そう思っていたが違った。

壁を登ってくる。

まるで壁から首が生えているかのように。

ズルズル…ズルズル

顔は無表情だ。

怖い怖い、助けて、助けて。

心の中で何度も叫んだ。

しかしまるで意味がなかった。

その顔から逸らすことも目を瞑る事も出来ない。

とうとう3階を過ぎた。

ズルズル…ズルズル。

目の前に来た。

女将が私に向かって何かを呟いた。

その瞬間、私は意識を失った。

気付いたら、トンネルの前にいた。

しかも帰りの方向を向いていた。

私は泣きながら帰った。

あの時女将は、こう言ったのだ。

無いんだよ、体が。

何が何だか分からなかったが、その言葉が頭から離れない。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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