中編5
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レイコさん

うちの家族は霊感一家だ。

一家と言っても父だけはまったくのノーマルで、父を除いた母、6つ上の兄、3つ上の姉、

そして末娘の私と、有り体に言えば普通に「見える」。

あまりにも普通に「見え」すぎて、私なんかは時々区別がつかなくなるときさえある。

そんな霊感一家だが、今回はレイコさんについて話をしたいと思う。

うちは二階建ての普通の住まいだが、土間から上がると台所で、

ちゃんとした玄関から上がると目の前に私の部屋、そのすぐ横に二階へと続く階段がある。

二階は二部屋しかなく、階段を上がった左が兄、そして右が一番霊力が強い姉の部屋。

私は二人共と仲が良いのでよく二階へと足を向けるのだが、

あるとき階段の明かりを点けると、レイコさん(名前は後から知る)がいた。

レイコさんは階段の8段目に座っていた。

レイコさんは見事に首が右に90度に曲がっており、

右側の腕と膝をあらぬ方向に向けたまま、静かに座っていた。

多分年齢は20代後半。

青白い顔に肩までの髪を左手で撫でており、表情はなかった。

長年の勘で害はなさそうなのはわかるのだが、なんせ階段のど真ん中に座っているため

なるべく触れないように体を縦にして通っていった。

とりあえず姉の部屋に行くと、ちょうどいいことに兄もいた。

「・・・で、誰が連れて来たん?」

開口一番聞くと、

「すんまへん」と姉が頭を下げた。

「でも連れて来たんちゃうで。勝手にレイコさんがついて来たんやもん。」

「あの人レイコさん言うの?」

「いや、名前まではわからへんかったから、勝手に名前つけた。」

レイコさんねぇ。まぁ「麗しい」でないことは一目瞭然だし、かなり安易な名付け親ではある。

「まぁ、よくあることやし、ええやろ」と兄が取り持ってくれた。

確かによくあることだし、別に私も気にしてはない。

そんなレイコさんは、しばらく我が家に滞在(?)していた。

慣れてしまえば何ということはないのだが、それまではたまにびっくりさせられることがあった。

何も考えずにただ階段を上ってて、ふと目の前に体がいびつに曲がったレイコさんがいる。

階段の明かりを点けると青白い顔のレイコさんがこっちを見ている。

「ああ、びっくりしたなぁ」と何度か大きな独り言を繰り返していた。

一番被害を被ったのは母だ。

先ほど二階の構造を説明したが、階段を上がった先には扉があり、そこを開けるとベランダになる。

ベランダは右側の姉の部屋に続く形で設計されており、そこに洗濯物を干していた。

専業主婦の母ではあるがなんせ大人5人の所帯。

そのときは私も大学を卒業して働き始めていたため、ほぼ毎日母が一人で洗濯。

朝干すために階段を上がるとレイコさんがいる。

干し終わるって下りるときまたレイコさん。

洗濯物を取り入れるときまたレイコさん。

洗濯も時にはシーツやら何やらで一回で済まないときもあり、

またレイコさんの横を通っていかなければならない。

「なんかだんだん愛着湧いてきたわー」

と、母が言い出すのにさほど時間はかからなかった。

姉は、「あの子全然しゃべらへんけど、多分どっかの階段から落っこちて死んでしもうたんやろうな」と推測していた。

詳細はわからないが、おそらく見た目からしてあたっていたと思う。

それからしばらくして、私は仕事で1週間ほど泊まりで出張に行くことになった。

出張の前日、夜トイレに行ったとき母がレイコさんにぶつぶつ話しかけてるのを目にした。

眠かったので大して気にもしなかったのだが、おそらく「成仏せんとあかんよ」

みたいなことを言ってたのではないかと思われる。

うちら一家(父以外)は基本的に霊の安息を常に願っているので・・・。

一週間の出張を終え、夜遅く23時過ぎに自宅に帰り着いた。

玄関の鍵を開け部屋に入ろうとしたとき、階段の一番下にレイコさんがいた。

「ひっ」

思わず声が出た。

「なんでここにおるのん?」

心なしかレイコさんはちょっと悲しげで、それでいてどこか満足げに見えた。

とりあえず疲れていたのと眠かったのとでそのまま部屋に行って爆睡し、

翌朝母から事情を聞いた。

「あんなかっこでずっとおったら可哀想やん。そやから色々説得したんよ。」

聞くところによると、母の説得の後レイコさんは一日置きに階段を一段ずつ下りてきたらしい。

母がレイコさんのことを不憫だと思っていたように、レイコさんも母に対して申し訳ないと思っていたんだろうか。

レイコさんは全くしゃべらなかったので、詳しいことはよくわからない。

でも昨夜階段の一番下まで下りてきていたので、近くこの家を去ることは間違いなさそうだ。

その日の夜。

家族全員で談笑しながら晩御飯を食べていた。

家族の笑い声の中で、ふと気付くと

ズル・・・ズル・・・

と何かを引きずるような音がする。

顔を上げると父以外全員が階段の方に耳をかたむけていた。

食事をとる台所の扉をあけると、階段と私の部屋、玄関に続く廊下に出るのだが、

母はためらいもなくそのドアを開けた。

皆で廊下に出ると、レイコさんがいた。

レイコさんはいびつに曲がった右手と右足を宙に浮かせ、

体の左側面を床にしながら、這って玄関へと向かっていた。

ズル・・・ズル・・・

這いながら玄関へと向かい、この家を出ようとしていた。

「レイコさん・・・」

母がつぶやき、それで我に返った兄が玄関のドアを開けた。

レイコさんは自分の体をひきずりながら玄関までたどり着き、そして消えていなくなった。

なんとなく、「お邪魔しました」というか細い声が聞こえた気がした。

母と子供三人何とも言えない切ないような安心したような気持ちを味わいながら佇んでいたとき、

ほろ酔い気味の父が玄関までやって来た。

「ん?お前ら何やってんねん?なんやでっかいゴキブリでもおったんかい?」

私は小柄な母がジャンプして父の鼻面に頭突きをくらわすのを初めてみた。

私は今でも階段の8段目では体を縦にして通ってしまう。

怖い話投稿:ホラーテラー 末娘さん  

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すごく切ない、又感動しました。涙が出ました。
レイコさん、無事に成仏し安らかに眠れるよう祈ります。

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