深夜、帰宅の為に車を走らせていた時のこと。
アパートのすぐ手前の横断歩道で、赤信号に引っかかった。
誰か横断するのかな?
それは、押しボタン式の信号機。
なので当然、誰かがそのボタンを押さなければ、信号が赤に変わることはない。
が、周囲を見渡しても、どこにも人影は見当たらず……。
誤作動か?
その時は、さして気にせずそのまま帰宅した。
が、その後も深夜にそこを通ると、誰もいないのに信号が赤になることが屡々あった。
何故あの押しボタン式信号機は、深夜になると誤作動を起こすのか?
不思議に思いながら、考えついた結論。
それは、
『夜になると自動式に切り替わる信号機』
昼間は押しボタン式で、夜になると、定期的に赤になる信号機。
実際そんな信号機もあるし、あの信号機もそうなのだろう、そう考えた。
で、たまたま赤になるタイミングで、私の車ばかりが引っかかる……何とも運の悪い話だ。
その信号機は、アパートの窓から見える位置にある。
仕事が休みの夜、私は自分の推理を確かめるべく、窓からその信号機を観察してみた。
夜になれば自動的に赤に変わる筈、そう考えながら。
が……。
いつまで待っても、信号機はずっと青のまま。
時刻は夜の10時過ぎ。もしも夜間、自動式に切り替わるなら、とっくにそうなっていてもおかしくない時間帯。
なのに、その日に限っては、ずっと青のままで。。。
自動式になるのは、もっと深夜になってからなのか?
私がいつも赤信号に引っかかるのは、仕事が遅くなった、残業帰りの午前1時前後。
もしもその時間帯に自動式に切り替わるとしたら、その目的とは一体何なのか。
信号機を管理する公安委員会は、一体何を考えてそんな設定にしたのか。
様々な憶測を頭に浮かべながら、遂に迎えた、午前1時。
じっと見つめる視線の先、あの信号機は……。
赤に変わった!
やはりあの信号機が自動式に切り替わるのは、午前1時前後からだったのだ。
理由は分からないが、そういう設定にされていたのだろう。
信号機が変わるのを確認した私は、立ち上がり、ビールを取りに冷蔵庫へと向かった。
そうして窓辺に戻り、再び向けた視線。
ビールを取りに行く間に、既に信号機は、青へと戻っていた。
しかし自動式信号機ならば、きっとまた勝手に赤へと変化する筈、そう思いながらじっと観察を続けた。
気が付くと、時計の針は、午前2時を指していた。
結局あの信号機は、午前1時に一度赤になっただけで、その後はずっと青のままだった。
もしも自動式に切り替わったのならば、たった一度で終わる筈は無い。となれば、やはり機械の故障なのか……。
その後、ベッドに入った私は、夢を観ていた。
あの信号機の夢。
深夜、赤信号で停車した私は、ふと横断歩道の右側に目を向けた。
何かがいる。
暗闇で細部は分からないが、得体の知れない真っ黒な霧状の物体が、横断歩道をゆっくりと渡って行く。
私のすぐ目の前、男とも女とも判別出来ないながら、確実に『人間』をイメージさせる気配。
全身から汗が噴き出し、ハンドルを握る指が硬直する。
恐怖から目を背けようとするが、どういう訳か、自分の意志に反して『見てしまう』。
その物体を追い続ける視線。
真っ黒な霧は、横断歩道を渡り終えて尚、そのまま真っ直ぐに進んで行く。
そして、そこにある大きな建物の中に、吸い込まれる様に入って行った。
『○○総合病院』
はっ、と目が覚めた。
悪夢を観たせいか、全身が汗でぐっしょりと濡れていた。
カーテンを開け、あの信号機に目をやる。そして視線を向けた先、朝日に照らされた総合病院に、ふと薄ら寒い感覚を覚える。
今観た夢は、一体何だったのか。
たまたま昨夜、あの信号機を観察していたせいで、あらぬ妄想を抱いてしまったのか。
それとも……。
深夜1時、横断歩道を渡り、病院へと通う『何か』がいるのか。。。
それ以来私は、深夜帰宅が遅くなった時には、遠回りをして帰る様になった。
もしもあの信号機に引っ掛かったら、そして『何か』を見て……そう思うと、どうにもあそこを通る気になれなかったから。
あれが単なる夢だったのか、それとも『何か』がそこに実在し、深夜1時にそこを横断しているのか。
きっと一生分からないだろう。そして、分かる必要も無い。
私には関係の無い事だし、出来れば今後一生、関係したく無いとも思っている。
その後転勤をし、私はその街から遠ざかったが、あの信号機は今もまだある。
怖い話投稿:ホラーテラー 流氷さん
作者怖話