中編4
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押しボタン式信号機

深夜、帰宅の為に車を走らせていた時のこと。

アパートのすぐ手前の横断歩道で、赤信号に引っかかった。

誰か横断するのかな?

それは、押しボタン式の信号機。

なので当然、誰かがそのボタンを押さなければ、信号が赤に変わることはない。

が、周囲を見渡しても、どこにも人影は見当たらず……。

誤作動か?

その時は、さして気にせずそのまま帰宅した。

が、その後も深夜にそこを通ると、誰もいないのに信号が赤になることが屡々あった。

何故あの押しボタン式信号機は、深夜になると誤作動を起こすのか?

不思議に思いながら、考えついた結論。

それは、

『夜になると自動式に切り替わる信号機』

昼間は押しボタン式で、夜になると、定期的に赤になる信号機。

実際そんな信号機もあるし、あの信号機もそうなのだろう、そう考えた。

で、たまたま赤になるタイミングで、私の車ばかりが引っかかる……何とも運の悪い話だ。

その信号機は、アパートの窓から見える位置にある。

仕事が休みの夜、私は自分の推理を確かめるべく、窓からその信号機を観察してみた。

夜になれば自動的に赤に変わる筈、そう考えながら。

が……。

いつまで待っても、信号機はずっと青のまま。

時刻は夜の10時過ぎ。もしも夜間、自動式に切り替わるなら、とっくにそうなっていてもおかしくない時間帯。

なのに、その日に限っては、ずっと青のままで。。。

自動式になるのは、もっと深夜になってからなのか?

私がいつも赤信号に引っかかるのは、仕事が遅くなった、残業帰りの午前1時前後。

もしもその時間帯に自動式に切り替わるとしたら、その目的とは一体何なのか。

信号機を管理する公安委員会は、一体何を考えてそんな設定にしたのか。

様々な憶測を頭に浮かべながら、遂に迎えた、午前1時。

じっと見つめる視線の先、あの信号機は……。

赤に変わった!

やはりあの信号機が自動式に切り替わるのは、午前1時前後からだったのだ。

理由は分からないが、そういう設定にされていたのだろう。

信号機が変わるのを確認した私は、立ち上がり、ビールを取りに冷蔵庫へと向かった。

そうして窓辺に戻り、再び向けた視線。

ビールを取りに行く間に、既に信号機は、青へと戻っていた。

しかし自動式信号機ならば、きっとまた勝手に赤へと変化する筈、そう思いながらじっと観察を続けた。

気が付くと、時計の針は、午前2時を指していた。

結局あの信号機は、午前1時に一度赤になっただけで、その後はずっと青のままだった。

もしも自動式に切り替わったのならば、たった一度で終わる筈は無い。となれば、やはり機械の故障なのか……。

その後、ベッドに入った私は、夢を観ていた。

あの信号機の夢。

深夜、赤信号で停車した私は、ふと横断歩道の右側に目を向けた。

何かがいる。

暗闇で細部は分からないが、得体の知れない真っ黒な霧状の物体が、横断歩道をゆっくりと渡って行く。

私のすぐ目の前、男とも女とも判別出来ないながら、確実に『人間』をイメージさせる気配。

全身から汗が噴き出し、ハンドルを握る指が硬直する。

恐怖から目を背けようとするが、どういう訳か、自分の意志に反して『見てしまう』。

その物体を追い続ける視線。

真っ黒な霧は、横断歩道を渡り終えて尚、そのまま真っ直ぐに進んで行く。

そして、そこにある大きな建物の中に、吸い込まれる様に入って行った。

『○○総合病院』

はっ、と目が覚めた。

悪夢を観たせいか、全身が汗でぐっしょりと濡れていた。

カーテンを開け、あの信号機に目をやる。そして視線を向けた先、朝日に照らされた総合病院に、ふと薄ら寒い感覚を覚える。

今観た夢は、一体何だったのか。

たまたま昨夜、あの信号機を観察していたせいで、あらぬ妄想を抱いてしまったのか。

それとも……。

深夜1時、横断歩道を渡り、病院へと通う『何か』がいるのか。。。

それ以来私は、深夜帰宅が遅くなった時には、遠回りをして帰る様になった。

もしもあの信号機に引っ掛かったら、そして『何か』を見て……そう思うと、どうにもあそこを通る気になれなかったから。

あれが単なる夢だったのか、それとも『何か』がそこに実在し、深夜1時にそこを横断しているのか。

きっと一生分からないだろう。そして、分かる必要も無い。

私には関係の無い事だし、出来れば今後一生、関係したく無いとも思っている。

その後転勤をし、私はその街から遠ざかったが、あの信号機は今もまだある。

怖い話投稿:ホラーテラー 流氷さん  

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