短編2
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人形村

少し昔。

長野県のI市という町に赴任した。

そこに取引先で、田舎の雄って感じのスーパーがあり、佐伯さんというオジサンチーフがいた。

若僧の俺はこの人に散々絞られ、叱られた。

恨みもしたけど、ポカばかりの俺を決して見捨てず、厳しく育ててくれた大恩人だ。

I市から異動した俺だったが、3年経ってまた戻ってきた。

過疎になりつつあるこの町を、恩返しの意味も含めて盛り上げたる。

これまで売上を確実に上向かせてきた、今の俺なら出来る。

そう思って赴任したが、佐伯さんは少し前に癌で亡くなっていた。

今までこの町に顔も出さなかった自分は恩知らずのクズだと恥じた。

佐伯さんのお宅で線香を上げ、庭をみると佐伯さんの愛犬のドンがいた。

甲斐犬の血を引くゴツイ犬だ。

正直苦手なのだ。

俺は佐伯さんのお宅をお暇して、思い出に浸りながら周辺を散策することにした。

すると奥さんが、ドンをついでに散歩させてくれと仰った。

断りきれずに散歩に出た。

考えてみれば互いに大切な人を失ったもの同士、通じあう気持ちが有るかもしれない。

この辺りは市の中でも外れで、山中でちょっとした盆地みたいになっている。

もう日が暮れ始めていた。

こうなると日没は早い。

散歩の途中で山道みたいなところを通っていたら、洞穴があった。

昔佐伯さんが俺を軽トラの荷台にのせて走ってくれた時に見たことがある。

確か戦争中に子供が防空壕の真似をして掘ったもので、崩れるかもしれないから入るなと言われたな。

何だか興味がわいて、ドンを入り口にマテして、中に入ってみた。

えらく先まで通路がある。

こんなもの、子供が掘れるのか?

いぶかしみながら進むと、道が上向いてきた。

やっと出口につくと、丁度日没したところだった。

みるみる周囲が暗くなっていく。その中で見えたものは、えらく前時代的な集落だった。

木造家屋ばかりで、人が住んでいるようには見えない。

(もしかしてこれは、廃村というヤツでは…)

そうしている間にも闇は深まり、建物の輪郭がかろうじて判別できるくらいになった。

やばい。これじゃあの洞穴は真っ暗闇になっちまう。

引き返そうと思ったときにはもう遅かった。

来た道は暗闇の中で、洞穴の出口すらもう分からない。

星明かりしかない暗闇の恐怖というものを初めて知った。

思わず、

「ドン!」

と犬の名前を呼んで助けを求めてしまう。

続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 触さん  

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