長編12
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取り残され

最初に言っておきますが、実話なので(?)緻密な伏線や秀逸な展開、衝撃のラストなんかはありません。

処理不能な恐怖を味わった体験を書きたかっただけです。

それは5年程前、パチンコ屋での会話から始まりました。

「兄ちゃんたち、ア○ビの密漁やんないか?」

仲の良い常連のオッサンが話しかけてきました。

「密漁?儲かるの?」

食いついたのは仲間のAです。

「キロ3000円で買うぞ。」

どうやらオッサンは仲買人が本職だったようで、まだ若く無鉄砲な感じだった私達に、軽い話しの種として持ちかけてきました。

「キロがどのくらいの量かもわかんないっての」

これは仲間のB

「場所は教えてやるからさ、兄ちゃん達なら10キロはいけるよ」

オッサンの根拠は全く不明でしたが、とりあえず私たちは詳しく話しを聞く事にしました。

オッサンが言うには・・・

○○半島に(有名な温泉地の近くでした。)夜中に行けば、まず見回りも来ない場所がある。

大がかりな設備はいらず、シュノーケルで十分。

とってきたらすぐ電話をよこせ。

海水を入れる大きなクーラーボックスを忘れるな。

といった事でした。(話には関係ないので忘れて結構です。)

夏にパチンコするしかない位暇だった私達は、刺激を求めてAとBと私の3人で、土曜日の夜中に教えられた場所へ向かいました。

都内から高速で2〜3時間程車を飛ばすと目的地でした。

「おいおい・・・」

Aが絶句していました。

そこは周辺に全く明かりも無い真っ暗な切り立った20mくらいの崖で、懐中電灯をたよりにこの崖を降りて行けば、海の藻屑になってしまう確率がかなり高そうでした。

「無理」

全員一致でした。

「とりあえず酒でも飲んで車で寝て、朝から海水浴に変更だな」

ポジティブなBの意見で主旨を変更し、車で途中にあったコンビニまで戻り酒を大量に買い込みました。

「まぁ明るくなれば崖降りられるんじゃないの?さっきの場所の近くで酒盛りしよう」

私の意見で車をまた先ほどの場所に向けて走らせました。

飲んで騒ぐつもりの私たちは人気の無い広いスペースを求め、先ほどの場所を通り過ぎてどんどん細い道へと入って行きました。

国道からかなり外れた崖沿いの道路には外灯も無く、鬱蒼と繁る道沿いの木々や荒れた道路は中々の雰囲気を醸し出していました。

「そこでいけそうじゃない?」

Bが木々の間の砂利道の奥を指差しました。

少し逸れた砂利道を入ると、木々に囲まれた広い平らなスペースがありました。

車なら数十台は停められそうな広さです。

そんな訳で私たちはそこに車を陣取り、車のライトのもとで酒盛りを始めました。

途端

「うわっ!」

全員が叫びます。

大量の蚊です。

「車のライトによってきてんだよ!消せ消せ!」

真っ暗です。

正確には晴れていたので月明かりはありました。

でも酒盛りできる明かりではありません。

「木を集めて焚き火しよう」

Aの意見で3人で乾いた木を探し始めました。

ある程度集まった木に火をつけると、何だかキャンプファイヤー気分になってしまい、目的が全く果たせなかった事は完全に忘却し、3人で車座に座り酒を大量にあおりました。

盛り上がって来た頃に火が燃え尽きかけてきたので、Aの提案でゲームをやる事になりました。

ゲームと言っても所詮酔っ払いなので「時計回りで、前の人より遠くの薪を取ってくる」だけです。

どんどん遠くなる薪拾いは盛り上がり2週目の私の番になりました。

直前のBはかなり遠くの藪の中で薪を取ってきました。

私はこの広いスペースの逆端まで行けば、Bの距離を越えるだろうと思い歩き始めました。

酔った頭でボンヤリと

「こんな広い平らなトコって何なんだろ?」

と考えつつ、焚き火の明かりを尻目に端に向かって歩いていきました。

実際このスペースは50mプールより大きいくらいの広さがあり、かといって全然凸凹も無い感じです。

こんな所にこんな大きな駐車場が必要とも思えません。

と徐々に端に近づいて行くと、地面を照らす私の懐中電灯の明かりに大きな黒いものが照らされました。

「?」

それは地面にポッカリと口をあけたコンクリートの階段でした。

「なんか地下室の階段があるぞ!」

私の声に2人が集まり、階段を見て大盛り上がりです。

階段を10段程下りた所に、すごい錆のドアがありました。

「行くしかないでしょ(笑)」

AとBが二人がかりでドア押しました。

何年も開けた事に無いような、高音の擦れた響きを出しながらドアは開きました。

奥は月明かりも差し込まない、まさに漆黒と呼ぶべき黒い闇で何も見えません。

その滲み出る雰囲気と闇の圧力からか、一人一人では無く流石に全員で揃って行くことにしました。

懐中電灯を片手に私が先頭で奥に一歩入った瞬間、緊張のためか酔いが体から抜けていき頭が覚めてゆく感じでした。

そして私がみんなを呼んで、そのまま入ってしまった事を後悔していました。

3人の中で懐中電灯を持っているのは私だけなのです。

でも引き返すとチキンと思われるかも・・・などと思ってしまい、自分で言い出すのはやめました。

後ろの誰かが言い出すだろうと。

しかし後ろの2人は何も言い出しません。

多分私と同じ事を考えたのでしょう。

でも皆酔いがみるみるさめているようでした。

私が階段を先頭で下り奥まで照らすと、この場所をすぐ理解できました。

ずっと続く長い廊下。

廊下の左側に並ぶ朽ちたドア。

さらに下へ続く階段。

ホテルです。

崖沿いにホテルが建っているのでしょう。

私たちはホテルの屋上で宴会をしていたようです。

階段の先を照らすとどうやら5階くらい下はありそうですが、闇の奥には届かずわかりません。

ドアは廊下の左側(おそらく海側)に規則的に並んでいるのですが、かなりボロボロに朽ちているようです。

「すごくない?ここ」

Bが驚嘆の声をあげます。

「コエ〜よ。戻ろうぜ」

Aはかなりビビッているようでした。

「とりあえず訪問しますか」

Bは強がっているのか、本当に怖くないのか全く判断できません。

懐中電灯を持っている私を先頭に、一番手前の朽ちたドアを開けてみました。

中は窓から入る月明かりで照らされており・・・

カーペットが剥がれたコンクリートの床

朽ちて壁の中の建材がむき出しになっている壁

怖さよりも何故だか荘厳な印象さえ受ける光景でした。

次の部屋、また次の部屋とドアを開けていきましたが特に何も無く、3人の中に少しガッカリを含んだ安堵感が満ちていました。

その最上階の廊下は開け放たれたドアからこぼれる月明かりが差し込んでいます。

「もう戻って飲みなおそうか」

安堵の表情を浮かべたAが言いました。

Bが余計な事を言いました。

「・・・もう一階だけ下行ってみない?」

最上階の肩透かしで怖さが無くなっていた私達は、もう一階分下がってみる事にしました。

階段まで戻り、足元を照らしながら転ばないよう慎重に降りて行きました。

やはり廊下は漆黒の闇です。

2階目の私たちはちょっとでも長く恐怖を楽しもうと、敢えて一番奥の部屋から空けてみる事にしました。

先ほどの最上階より廊下に廃材のようなものが散乱しているようでした。

足元を照らしながら廊下の奥へと辿りつきドアを開けました。

部屋の中は漆黒の闇でした。

一瞬3人とも声が出なかったのは、想像していた状況とのギャップのためだったかも知れません。

その時Aが「何か奥に無い?ちょっと貸して」

と言って懐中電灯を私から取り上げ、奥を照らしました。

一瞬でした。

懐中電灯のボンヤリした光は、うずくまっている人間を照らし出したように見えました。

その瞬間

「▲*%$&#&$■△〜!!」

恐怖で変な叫び声を上げてAが逃げ出し始めました。

それを皮切りに3人は恐慌状態になり、私も暗闇の中で壁に激突したり、何かに躓いたり、懐中電灯の明かりが凄い勢いで遠ざかるのを必死に追いかけようとしました。

闇の中取り残されました

「ふう・・ふう・・」

完璧な闇の中に取り残され、自分の息切れしている音だけが聞こえていました。

躓いて転び足に鈍い痛みも感じます。

目を開けているのか閉じているのか

どちらを向いているのか

一体どこにいるのか

漆黒の中で私は頭が混乱していました。

恐怖のため冷静になる事もできず、かといってこの闇の中では身動きもできません。

聴覚は物音ひとつ聞き漏らすまいと研ぎ澄まされているのに、体を動かす事は全くできませんでした。

頭の中で建物の構造と自分の位置をパニックにならないよう必死に考えました。

ここは建物の奥、奥の部屋から出たはずだからここは廊下、来る時は左手にドアが並び右手は壁だったはず、左手つたいに壁を辿れば階段までいけるはず、階段まで行けば・・・

こんなの小学生でもわかる内容ですが、この時の私は簡単な思考すら邪魔をされてなかなか解答にたどり着かない状態でした。

そして私の思考を邪魔しているのは

うずくまっていた人

懐中電灯の薄明るい光の中で見たそれは脳裏に焼きついていました。

ななめ後ろの姿、ひざを抱えて頭をうなだれた姿、もしかしたら住み着いた浮浪者かもしれない、犯罪に巻き込まれた人かもしれない、マネキンかもしれない、死体だったら、死体ですらなかったら・・・

とにかくそれ以上考えないようにしながら身動きひとつせず、静かに他の気配と様子を伺いました。

自分以外の物音は全く聞こえず、自分を残して逃げた二人への怒りも湧き出してきて、怯えながらも少しずつ冷静さを取り戻してきました。

とにかく戻ろう

立ち上がると足が痛みましたが、堪えつつ恐る恐る左手を伸ばしながら壁を探すと、手はすぐに冷たいコンクリートに触れました。

「待てってA!」

いきなり叫び声を上げ逃げ出したAを反射的に追いかけてきたけど、Cがいない事に俺は気がついた。

Aを上の階に上ったところで捕まえた。

「いきなり逃げ出すなよ!Cがついてきてないって!」

「Bは見なかったの?・・・」

「何を?お前がいきなり叫んで逃げたからついてきたんだよ!明かりはお前しか持ってないんだぞ!」

薄暗くボンヤリと見えるAの顔は、月明かりのせいか青白くとても怯えていた。

「とにかく下に戻るぞ。Cが真っ暗の中じゃヤバイだろ。」

Aは嫌がった。

歯をガチガチさせながら頑なに拒んだ。

何を見たのか分からないが、友達を真っ暗闇に置いてきぼりにして迎えにも行かない・・・俺はそんなAに腹を立てつつ

「じゃあお前は上に戻っていいよ。俺が迎えに行く。」

そう告げて懐中電灯を奪い取ってスタスタと階段を降り始めた。

後ろでAがゴチャゴチャ言っているが耳には入らなかった。

階段を降り、暗闇を懐中電灯で照らしたが奥までは見えない。

「C!大丈夫か?」

暗闇に気圧されて少し強張った声で呼んでみた。

遠めに懐中電灯の明かりが見え、Bが私を呼ぶ声が聞こえました。

その声に心の底から安心感を覚えました。

「こっちだよ。足が痛くてうまく歩けない。」

Bは自身の足元を照らしながら、こちらに向かってきました。

懐中電灯の明かりに眩しさを感じながら

「Aは?」

と聞きました。

「あいつマジ有り得ない。いきなり懐中電灯持って逃げ出すわ、下には来ない

わ・・・」

多分Bはアレを見なかったのでしょう、アレを見た私は少しAの気持ちが理解できるためか、取り残された私よりBの方が怒っているようでした。

とにかく二人で足元を照らしながら階段に向かいました。

タッ・・タッ・・タッ・・

階段まで10mも無い距離に来たとき、前方から足音が聞こえました。

・・・・・・

緊張が走り2人とも無言で音が近づく方を凝視しました。

Bが懐中電灯を階段の方に向けます。

Aでした。

一瞬2人の間にホッとした空気が流れました・・・

すぐに打ち壊されました。

Aは懐中電灯の明かりの中、こちらを見ることもなくそのまま下の階に降りていったのです。

私達は取り残されたAに何が起きたのか全く理解できず、Aが消えた下に続く階段を見ていました。

「何かやばくないか・・・」

Bも事の異常さに怖気づいたのか、つぶやいただけで走ってAを止めには行けませんでした。

足を引きずる私とBは、恐る恐る階段に近づき懐中電灯を下に向けました。

Aの姿は見えません。

私たちは会話も無いまま2人で階段を降りました。

下の階もやはり真っ暗でした。

更に下へ続く階段。

奥へ続く廊下。

・・・パタン。

廊下の奥の方から微かにドアの閉まる音が小さく聞こえました。

私は怖くなりました。

奥を照らす光には、様々な廃材が散らばっていて、明かり無しで歩ける訳がありません。

ドアの位置だってわからないでしょう。

本当にAだったのか・・・

多分Bも同じ事を考えていたと思います。

でも音以外の手がかりが無い私たちに選択肢は無く、Bが左右交互に2人の足元を照らしながら廃材を避けつつ廊下の奥へと進みました。

「この辺だったよな・・・」

Bが足を止めたのは、奥から2番目の部屋でした。

私が頷いたのをBが見えていたのかは分かりませんが、無言でボロボロのドアノブをBはつかみました。

触っただけでドアはグラグラしているようでした。

Bが懐中電灯をドアの方に向けながらゆっくりドアを開けました。

真っ暗でした。

懐中電灯の丸い光が上下左右に動き、間仕切りの残骸や朽ちた調度品を照らします。

部屋の奥の方に光を向けたとき、思わず逃げ出しそうになりました。

人がうずくまっている。

ボンヤリと照らし出されたソレは、先ほどのフラッシュバックのように、背中を向けてうなだれ、膝を抱えていました。

Aです。

Bが駆け寄りました。

「大丈夫か!しっかりしろって!・・・」

私も足を引きずりつつ近寄りました。

Aの様子も心配でしたが、歩きながら私は別の事に気をとられていました。

誰かに見られてるきがする。

漠然とした感覚でしたが、私たち3人以外の存在・・・

前後左右上下どこからかは全くわかりませんでしたが、視線のような感覚をはっきりと感じました。

AはBに肩を揺すられながら

「うん・・・・うん・・・わかってる」

と小さく呟いています。

しかし、その相槌のタイミングは明らかにおかしく、Bの言葉へ向けたものでは無いようでした。

「ここから引きずり出すぞ!いいな!」

懐中電灯を私に渡して、BがAを脇から抱えてました。

Aの手足はダランとしていて、目はずっと何もない所を見つめています。

ドアから出るあたりで、思わずAが見ていた辺りを見てしまいました。

後から聞きましたが、Bは後ろを確認しながらAを引きずっていたため見えなかったそうです。

Aがうずくまっていた辺りに、女性が背を向けて立っていました。

光を当てていないのにはっきりと見えました。

腰まであるような長いソバージュ、長いフワッとした白いスカート。

両手で松葉杖をついていました。

慌ててドアを閉めました。

あまりの恐怖に叫び声すら出ませんでした。

駆け出しそうになるのを堪えて、Bの足元を照らします。

中々前に進まない2人に焦りながらも、何とか廊下の中ほどまで来た時に、何か音が聞こえた気がして廊下の奥を照らしました。

あのドアが少し開いていました。

開いたドアから彼女がこちらを見ていました。

顔が半分と松葉杖が片方見えました。

半分だけ見えているソバージュの隙間からジッとこちらを見ていました。

そこからの記憶は曖昧です。

足が痛いのも忘れて必死にBと一緒にAを引きずり外へ出ました。

椅子やら何やらもそのままに、車で乗り込み、猛スピードで逃げ出しました。

Aは空ろな表情で

「うん・・・うん・・・約束だよ」

と言っていました。

車が都内に近づく頃、私は最初に見た「うずくまった人」の事が少しだけ気になっていました。

「あれ?何で車に乗ってるの?」

3時間ほど経った頃、Aは正気に戻りました。

Aは薪拾いゲームをしている所から記憶が無くなっていました。

私とBは、Aには詳しい事は説明しませんでした。

今日の事はBと私の秘密にしておこうと決めました。

翌年の夏

Aは、あの半島のとある駅で目を覚ましたそうです。

最後の記憶から1週間が経っていたそうです。

その事を笑いながらAが話した時、私は背筋に寒気を感じました。

さらに翌年の夏

Aは、あの半島の道端で目を覚ましまたそうです。

やはり最後の記憶から1週間が経っていました。

去年と同じ日だったそうです。

あの出来事の日。

医者の診断は「解離性遁走」でした。

何か強いストレスやプレッシャーから無意識に遠くへ逃げていると。

Bは一昨年から仕事で東北に行ってしまっていたので、1年に数回会うくらいでした。

そこでBにメールでAの事を相談すると

「Aの記憶が1年に一回飛ぶだけだと割り切った方がいい」

といった内容の答えが返ってきました。

私は今年の夏、Aの後をつけようと思ってます。

私はどうしても気になるのです。

その年の秋にCと再会した時、Cは結局行かなかったと言っていた。

Cはそれ以来、あの廃ホテルの話をする事を嫌がるようになってしまった。

そして翌年のその日、例年通りAは一週間いなくなり、Cとは一週間程連絡がつかなくなった。

今年もその日が近づいてきている。

俺は彼らをつけるつもりだ。

何か進展や発見があったら、またここに書き込もうと思う。

それでは

怖い話投稿:ホラーテラー からくりさん   

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