中編6
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M下君の実験

M下君は、会社の二ヶ月先輩で3コ下だ。お互いに敬語で話し、釣りとお酒が大好き。

自分からはあまり言わないけど、みえるらしい。

いつものように、仕事終わりにM下君の部屋でお酒を飲んでいる時に、ふと気づけばテレビにO槻教授が出てる。

僕は今まで、M下君に霊について詳しく聞いた事がない。聞きたい事はたくさんあるけれど、なんとなく聞きにくいのだ。

「こいつどう思います?」かなり遠回しに聞いてみる。

「あー、あんまり良く知らないんですけど、一理あると思いますよ」

意外な答えだ。

「僕も、科学で証明できない事はないと思いますもん。でも、今の科学では証明できない事もたくさんあると思うんですよ。

きっと10年、50年後には霊もいるって科学でわかるんじゃないですかね?」

僕は普段のM下君とは違い、まともな意見を聞かされて少し驚いた。

とても今日のお昼に、製品を取りにきたトラックの運ちゃんから「お前、AV見るか?」と聞かれて、はいっ!と答えたら、段ボール4箱ものAVを置いていかれて、狂喜乱舞してた人間とは思えない…。

そう伝えると、

「いや、親父の仕事のこともありますし、僕なりに子供の頃からいろいろと考えたりしたんですよ…」

それもそうかもしれない。彼のお父さんは拝み屋で、どうしても宗教色も強くなるだろうし、幼い頃にお父さんの事でからかわれたりしたら悩むに決まっている。

それからM下君は、たくさんのことを話してくれた。

小学校の低学年の時は、クラスメートにからかわれる度に、泣きながらお父さんを責めたこと。

「お前の親父は詐欺師だ!詐欺師の子供!」中学校の同級生に言われ、初めて殴り合いのケンカをしたこと。

友達が言うように本当は霊なんていなくて、自分の幻覚なんじゃないか?頭がおかしいんじゃないか?って悩んだこと。

普段は仕事や霊の話を全くしないお父さんが、悩むM下君に気づいて

「霊って言ってしまうと、インチキだと感じる人もいるし、お前も言われたことがあるかもしれん。でも人は死んでも、その人の強い思いは残る。お前にはその思いを感じ、見ることができるんだよ。それは立派な長所だぞ」と言ったこと。

その言葉で少し救われたこと。

M下君の話を聞いてから、怖い話は好きだけど、霊に懐疑的だった僕の考えも少し変わった気がする。

少ししんみりして来たので、軽いノリで提案してみた。

「じゃあ、今度実験します?」

「何の実験ですか?」

「Tっちを連れて、心霊スポットに行って、そこで2人が一緒に見た霊の特徴を、フリップに書いて確かめるんですよ」

Tっちはもちろんあだ名で、本名はT田。1ヶ月くらい前に一緒にバーベキューへ行った小さくてかわいらしい女の子だ。M下君曰く、あの娘にはみえてる。

「フリップって!(笑)テレビじゃないんですから」

少しいつものM下君に戻ってきた。

「でも、Tっちが霊がみえるのを隠しておきたかったら、無理じゃないですか?それに、僕もすべての霊がみえるわけじゃないと思うし」

どうも難しそうだ…。

「じゃあ、とりあえずみんなで飯でも食って、ゆるそうな心霊スポットでも行きますか!」

ここで言うみんなとは、僕の唯一の女友達で、サバサバしてて性格は良いが、人より横に育ちすぎたK藤を含めた4人のことだ。

TっちはK藤の後輩にあたる。

「おっ、いいっすね!久しぶりに居酒屋にします?」

また、飲むのを我慢してドライバーかよ、と一気にモチベーションが下がるが、M下君のために一肌脱ぐことにする。

その日は、押し入れに積まれたAVの中から5本ほどレンタルして帰宅した。

後日、K藤に連絡すると、Tっちも「M下さんっておもしろいですね」と言ってたらしく、二つ返事でOKとのこと。

おそらく「おもしろい」の意味が少し違うので、M下君には伝えなかった…。

当日、仕事が終わってから着替えてM下君と2人を迎えに行く。

K藤には、「Y内も飲めるように地下鉄で行こうか?」と言われていたが、まさか心霊スポットに行く予定だから、車で行くとは言えない。

先に言ってしまうと、たぶん、K藤は大丈夫だろうが、Tっちに断られると思いまだ言っていないのだ。

いかに自然な流れで、心霊スポットへ行くように話を持っていけるかが重要になる。

迎えに行く車の中で、作戦会議をしておく。

お店に着いて1時間くらいたったころ、完全に酔っぱらったM下君が、

「じゃあ、心霊スポット行きたいひとー!」と言いだした。

作戦台無し…。

直球すぎだろ!と思ったが、同じく酔っぱらってるK藤はノリノリだ。

年齢的にも体質的にもお酒の飲めない、しらふのTっちは、ニコニコと話を聞いている。

どうやら大丈夫そうだ。これでわざわざお酒まで我慢して、車で来た甲斐があったというもの。

しかし、あんまり本気のところへ行くのはみんなイヤなので、K藤が知っていた、夜中に馬が走り回るというおもしろ心霊スポットへ行く事に決まった。

お店を出て、僕の愛車ヴィヴィオBISTROを走らせること2時間弱、目的の廃病院へ到着した。

遠くから見ても、馬が走り回ってそうな愉快な感じは全くない。

車から降りて、フェンスの破られているところをくぐり、歩いて病院に近づいて行く。

TっちはK藤の背中に隠れるようにしている。

確かに僕やM下君よりも広い背中だし、一番頼りがいはありそうだ。

低い階の窓ガラスはほとんど割られて、壁も落書きだらけだ。

しかし、中に入る人間もいるはずなのに、3階と4階の窓ガラスは、ほぼきれいに残っているのが逆に不気味だ。

病院の入り口まで、あと10メートルくらいまで近づいたころに、M下君とTっちの2人がほぼ同時に、

「あっ……」と息を飲んだ。

「やだっ、何!?何っ!?」とK藤がうろたえる。

「やばいっ!逃げろっ!」と叫び、Tっちの手を引っ張って急に走り出すM下君。

僕も何が何だかわからないが、あのM下君が逃げるのを見て、ものすごい危険を感じ全速力で逃げた。

後ろから「何?何!?なにーーっ!?」と叫ぶK藤の声がしたが、聞こえないフリして、必死で逃げた。

急いで車のカギを開け、エンジンをかける。

M下君とTっちも後部座席にあわてて乗り込む。

「K藤さんは!?K藤さんっ!」Tっちが取り乱している。

それから少しして、「置いてくなよ!何か言えよっ!!」と怒鳴りながら、K藤が助手席に乗った。

M下君がK藤を見て「…大丈夫っす」と言ったので、車を出す。

みんな病院が見えなくなるまで、口を開かなかった。

「一体、何なのよ!わかるように説明してよ!」涙目のK藤。

「3階と4階に、4、5人の影が見えたんですよ…。そしたら、入り口の前の草むらから、急に…」

M下君が答える。もう、落ち着いているみたいだ。

「首をグラグラさせながら、おじいちゃんが凄い勢いで走ってきたんです!」

今度はTっちが続ける。

「何それ!?っていうか、2人とも霊感あるの?」と叫んだK藤の気持ちはよくわかる。

「いやぁ、あれは憑く気まんまんでしたよ」

「私もすっごい怖くて、声が出なかったです」

後ろの2人は、ほんのり楽しそうだ。

でも、気持ちはわかる気がする…。今まで、人に言えずにいた事を共感しあえる人間が見つかったのだ。

「Y内が、私を置いて逃げて、なおかつ2人を追い抜いたこと、一生忘れないからね」

微笑ましい気持ちでいたのに、一気に冷めるような助手席からの視線が痛かった…。

怖い話投稿:ホラーテラー Y内さん  

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