短編2
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インスタント霊刀

 知人の話。

 山好きな知人は、暇さえあればキャンプ用具一式を担いで山に入る。

 川で魚釣りに興じ、野宿してから翌朝山を下りるだけ。それでもすごく楽しいらしい。

 とある山に登った時、休憩に立ち寄った神社の裏に湧き水があるのを見つけた。

 その湧き水を飲んで喉を潤して、ついでに持っていた折り畳みナイフも、その湧き水で洗った。

 それから出発。

 手頃な場所を見つけ、テントを張り、その日の夕食の魚を釣る。

 釣り上げた魚を調理して食べた後、テントに入って就寝。

 ここまでは何事もなかったのだが、異変は夜中に起こった。

 不意に目が覚めた知人は、携帯で時間を確認。夜中の2時になろうかという頃だった。

 ボフッ!

 突然、外からテントを叩く音がした。

 ビックリして起き上がる。

 音はテントの周りのそこかしこから聞こえてきた。動物か何かが悪さしてるのかと思い、大声を出してみたが、相手は動じる気配もない。

 身の危険を感じた知人はリュックサックから折り畳みナイフを取り出し、刃を起こした。

 音は幕を叩く音から、爪を立てるような音に変わっていった。

 すぐに幕が引き裂かれ、裂け目から影が入り込んで来た。

 知人曰わく、最初は人間かと思ったが、手が妙に長くて猿のようにも見えたらしい。

 その影は、両目を赤く光らせながら知人に襲いかかった。

 子供ほどの大きさなのに力が強く、知人はあっさり押さえ込まれた。

 殺される!

 知人は恐怖に駆られて、とっさにそいつの腹にナイフを突き立てた。

「ギャアアアアッ!」

 影はおどろおどろしい悲鳴を上げた。

 その悲鳴で恐怖が頂点に達した知人は、そのまま気を失った。

 翌朝目を覚ました知人が見たのは、引き裂かれたテントと、手の中でボロボロに錆びたナイフだった。まるで何十年も野晒しにされたみたいに、錆びついていたらしい。

 外に出ると、腐って所々骨が露出した猿の死体もあったそうだ。

「悪霊だか魔物だかが、猿の死体に取り憑いてたんかなぁ」

 知人はしみじみと語る。

「で、ナイフを神社の湧き水で洗った時に、そういうのを追い払う力が宿ったのかも知れん」

 そもそも、汚れていた訳でもあるまいし、何故ナイフを湧き水で洗ったのか。そう尋ねると、知人は「わからん」と答えた。

「ただ、それをするのが当然のように思えてなぁ。何でだろうな?」

 そう言って、小さく首を傾げた。

怖い話投稿:ホラーテラー 斗馬さん  

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