強ちありえない都市伝説の怖い話

長編9
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強ちありえない都市伝説の怖い話

この話は都市伝説の怖い話である。

俺が新社会人として会社に入ったばかりのころだ。

新入社員はほぼ全員が寮に入れられて新入社員研修とやらで約2ヶ月間缶詰にさせられた。

その寮が変わっている、というかなんというかだったのが、明らかにその寮は廃ラブホを無理やり改修したものだったということだ。

部屋は必要以上に風呂がでかく、風呂と部屋との間がガラスで仕切られており、それに無理やりスモークか何かが貼られて視線を隠していた。

その寮の最上階に、通称「VIP」と呼ばれている部屋があった。

部屋の面積が通常の倍近くあり、部屋の壁紙なども一段上等なものを使っている。

そしてその部屋は、通常使われることはなかった。

ご多分にもれず、「出る」という噂だったのである。

いや、この場合、噂ではなかったのかもしれない。

新入社員研修担当の先輩も、「VIPはマジで出るから」というときの目は笑っていなかった。

「遊び半分であの部屋にいくなよ」

先輩社員の警告を、新入社員たちは守った。

特に我々、A男、B男、A女、B女、C女そして俺の6人は忠実だった。

遊び半分などでは決してない。

かといって遊ぶ気がないわけでもない。

つまり・・・完全に遊ぶ気であの部屋にいったのである。

「かんぱーい」

研修が終わったある日、俺たち6人は例のVIPに集まった。

名目は肝試し。怪異の正体を突き止める、というのが今回の目的だ。

その方法を言う前に、VIPの間取りについて若干説明を加えたい。

今、俺たちが飲み会をしているのが大体8畳ぐらいのエントランスルーム。入り口から入ってすぐのところにある。

エントランス正面に扉を一枚はさんで、どれぐらいだろう。30畳ぐらいだろうか?かなり大きい部屋になる。

部屋の奥には浴室があり、ガラス貼りの壁が部屋とエントランスに面している(ガラスにはスモークが貼ってある)。

浴室の奥にはサウナルームがあった。

問題となっているのはエントランスから奥の部屋と浴室だった。

で、今回の方法だが、ルールとして、男女ペアで二人ずつ部屋の中に入る。

残り4人はエントランスで待機する。先に怪異の正体を突き止めたものが勝ち。というものだ。

勘のいい人にはわかっただろうが、これは肝試しがうんぬん、というよりも「一定時間異性と二人で別室行き」というシチュエーションを楽しむためのゲームなのである。

まずはじめにA男とA女が別室に入る。

残る4人は飲みを続けた。

(さて、20分後自分の番が来たらどのようなことになるかな。)

程なくして浴室のガラスから届くちらちらとした懐中電灯の明かり。

そして「きゃっ」とか「ちょっと、もうやめてよ。しんじらんない」とかいう声が、俺の妄想力をいやが上にも高めた。

約10分が過ぎた。

突然空気を切り裂くような声がして、俺はわれに返った。

悲鳴だ。部屋の中から。先ほどのじゃれ合っていたような声とは明らかに違う。

俺以外の3人も、それぞれ動作の途中のまま固まっていた。

「わああああ」

男の悲鳴が続く。どたどたという音。懐中電灯の光が激しく乱れ飛び、ガラスのスモークにでたらめな軌跡で円を描いた。

そして・・・

静寂があたりを包みこんだ。

「部屋の中、だよな」

B男の声で、俺はまたわれに返った。

止まった時間が動き出した。そんな錯覚を覚えた。

「ん、あ、ああ。なんか、やばい感じ」

自分の声がやけに遠くに感じる。

「行こう」

B男が懐中電灯を手に立ち上がった。

この場合、やっぱり俺も行くんだよね。

俺はのろのろと立ち上がりながら、ちらっとB女、C女のほうを見た。

内心、止めてほしかったのだ。

「気をつけてね」

そしてかけられた言葉は、期待していたものとは逆のものだった。

「・・・おう」

俺は観念して扉のノブを廻した。

部屋の中は、照明器具がないため電気をつけることができない。

暗闇の中に、ソファーが、妙にでかいベッドが、布をかぶったカラオケセットが俺たちの持つ懐中電灯の光に浮かび上がる。

(この部屋、ラブホ時代から手付かず、ですかあ?)

埃がたまっているのだろう。歩くたびに懐中電灯の光に舞い飛ぶ細かい白い点が増え、電灯のラインを妙にはっきりと浮かびあがらせた。

「A男くん?どこ?いるの?」

われながらチキンな声しかでない。たぶん隣にいても「は?」と聞き返されそうな声で俺は闇の中に問いかける。

沈黙が続いた。

それは、なにか闇の塊が無言で返事しているような感覚を俺に与えた。

「・・・A男くん?」

と、

「A男!A女!どこだ!返事しろ!」

突然背後から大声が響いて、俺はのどから「わふう」とかいう間抜けな声をたてて飛び上がった。

B男が大声で呼ばったのだ。

(ちょっと、なんかおかしなのが返事でもしたらどうするの!)

俺がお門違いな抗議の視線をB男に送ったとき、

かたん

物音が聞こえた。右手の、浴室のほうからだ。

2秒ほどの硬直の後、B男がゆっくりと浴室に進む。

5,6歩進んだ後、俺のほうを振り返り、アメリカの特殊部隊か何かみたいに「こっちへ来い」と腕全体でジェスチャーした。

俺はほとんどやけに近い気持ちでB男の後に続いた。

浴室内はエントランスからの光が届くため、幾分明るい。

全体を見わたせることが、ずいぶんと俺の緊張を緩めてくれた。

見渡す限り、浴室内には物音を立てそうなものは何もない。そう、浴室の中には・・・。

B男の懐中電灯がある一点で止まった。

浴室の続きのサウナルームの木製の扉だった。

B男は慎重に扉に近づき、一呼吸、二呼吸おいてから、思い切って扉をあけた。

ぎゃあ!   ぎゃああああああああああ!!!

サウナルームの中からすさまじい叫び声が響き、俺の心臓が雑巾絞りされたみたいに縮みあがる。

どたどたがたんと言う音が聞こえ、

「A男、俺だ、しっかりしろ。俺だ」

というB男の声が聞こえた。

俺は恐る恐るB男の肩越しにサウナルームの中を覗き込んだ。

涙を流しながらがたがたと震えて叫び声をあげるA男と、体育座りをしながら顔を手で隠し、それをそのまま横倒しにしたような体勢でピクリとも動かないA女の姿が見えた。

それからしばらくして、俺たちは二人をエントランスルームまで運び込んだ。

A男は焼酎をひざに抱えたままカタカタと震え続け、A女はいまだに意識を取り戻していない。

(これからどうしようかな)

ぼんやりと俺がそんなことを考えていると、A男の口がなにやら動いているのに気づいた。

「・・・ ・・」

「ん?どうしたA男」

俺はA男の口に耳を近づける。

「・・・  が・・」

「なに?」

「セツが・・・」

「なにが?」

「セツが・・・でた」

セツ?セツってなんだ?

俺がA男を問いただそうとすると、

「よおし!」

ふいにB女が手をパン、とたたいて立ち上がった。

「な、なんだよ」

唐突な行為に俺は非難の声をあげる。そんな俺に向かって、B女はある種の決意を目に宿らせて言った。

「がんばろうね!」

????ガンバロウネ?    ガンバロウネ??

・・・・・・・頑張ろうね・・????

・・・・・・・・・・・ナニヲ?

俺が思うより早く、B女は俺の手をとり、懐中電灯を握り締めると、例の部屋の扉を開けて、俺を中に引っぱり込んだ。

「わああ!! ちょっと、嘘おおお?」

ありえない行為に、俺は絶叫した。

あわててエントランスに戻ろうとすると、B女は扉をバタン、と閉めて、俺の前に立ちふさがった。

「なに?なにしてんの?」

「ダメ、制限時間は20分なんだから」

意味を理解するのに時間がかかった。・・・っていうかまじで?マジでいってんの?

頭がおかしくなる。

なんとB女は、まだこのゲームを続けるつもりらしかった。

「大丈夫なんだよ、ちゃんとこういうの考えておいたんだから」

B女はやおらポケットから紐を取り出すと、ベッドに片方をくくりつけて、もう片方をこちらに持ってきた。

「いい?こうやって、紐をたらしておくでしょ?もしも何かが来たら、この紐を引っ張るの。そしたらそいつは足がひっかかって転んじゃうの。

名づけてワイヤー罠。どう?完璧でしょ?」

自信満々に胸を張るB女をみて、俺は怖がっていいのか、笑えばいいのか、実は突っ込み待ちなのか、かわいそうと思えばいいのか、まったくわけがわからなくなった。

(おかしい。おかしいよこの子。いや、っていうかもうなにかに取り憑かれてる?)

どうやら俺は腰が抜けてしまったらしかった。プルプルと首を振りながら、明らかに異常なB女から距離をとろうと後ろ向きに這いずり回った。

と、急に段に手を取られて俺は滑って頭を打った。

浴室の中に転がり込んだのだった。

「来るなら来なさいよ、許さないんだから」

B女の声が聞こえる。どうしよう。なにもかもが狂っている。どうしたらいいんだろう?

「あ、あ、あああ、」

声にもならない声を上げながら、俺は再び床にへたったまま後ろでに後ずさる。

と、

ドン!

右手の壁が不意に大きな音を立てた。

「ヒイイイ」

世にも情けない声が俺ののどから漏れ出た。でもそんなことかまっていられなかった。

ドンドンドンドンドンドン!!

壁の音は急激に数を増し俺は壁と反対方向にひっくり返る。

その先には浴槽があった。

ひっくり返った拍子に浴槽に後頭部を強打し、俺は頭を抱えてうずくまった。

壁の音はまだ続いている。

頭がしびれて動くこともできない。

だが、そのことは俺を少し冷静にさせてくれた。

今の壁の音。

壁はガラスの壁だ。その向こうは・・・エントランス。

俺はちらりと顔を上げた。間違いない。どんどんと壁をたたいている見覚えのある姿が、スモークを通して透けて見える。

A男、B男、C女だ。

とたんにすべての謎がとけてきた。なんのことはない、こいつら全員グルだったんだ。

俺をハメたんだ。

A男も、B男も、A女も、そしてトリッキーなB女も、全部俺を怖がらせる演技だったのに間違いない。

(くっそお。完全にやられた)

俺はため息をひとつつくと、スモークの壁に向かって進んだ。何かやり返してやらないと気が済まない。

スモークの壁をこちらから思いっきりぶん殴ってやろうと思った。

徐々に壁に近づいていくうち、俺は妙な違和感を覚えた。

なんというか、壁をたたく音が必死なのだ。

脅かしてやろう、とか言うより、何かを伝えようとしているような・・・。

とんでもない危機を警告するような・・・・・・。

と、不意にぺちゃり、という音が背後から聞こえた。そして風呂の水を抜いたようなごごごごという音。

やがてずずず、ずりずりと、濡れ雑巾を引きずるような音も聞こえてきた。

背後から、そう、浴槽のほうからだ。

生ぬるいこんにゃくで首をなでられたような感覚に襲われ、俺は思わず後ろを振り返った。

とたんに全力で1000メートル泳いだあとのような、焼肉を食いすぎてそのまま眠った後の寝起きのような、強烈な虚脱感が体を襲った。

視界が黒い霧に覆われたようにかすんでいる。

世界が奇妙にねじれているように見えた。

そのねじれの中心に、奴が・・・セツがいた。

「ムムン ムウーンム? ンン--」

セツは体をひねらせながら、早回しで見る植物の成長のように浴室の天井近くまで伸びあがると、

「ンー?  ン ンンンンンー!?」

と叫びながら、血走った目で俺を覗き込んだ。

よく見ると、セツは案外年でいるらしい。

目の周りの化粧が、ピキピキとわれていく。

「ンンンン?  ンンー!!!?」

セツ口がガバリと開く。

俺は初めてリアルに自分の「死」を意識した。

「ワイヤー罠へ!早く!」

B女の声がむなしく響く。

「ンンー!」

セツの顔が迫る。口の奥の、歯と呼ぶにはあまりにも鋭すぎる突起物の列が俺を飲み込もうと近づいてくる。

薄れ行く意識の中、俺の頭の中で今日のいろんな出来事が走馬灯のようにぐるぐると回りだした。

案外年でいるセツ、「ンンー!」という叫び声、B女とワイヤー罠、初めて意識する「死」

年でいる 「ンンー!」 セツの声 ワイヤー罠 「死」

としで  んー  せつのこえ わいやわな し

としで ん せつのこ わいやはな し

としでんせつのこわいはなし

「都市伝説の怖い話」    バンザーイ\(o⌒∇⌒o)/

怖い話投稿:ホラーテラー 剛毛素人さん  

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元ラブホが、社員寮?そんな事絶対ありえませんし。