猫山先生とブレイクダンス

長編13
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猫山先生とブレイクダンス

現在の小学校では、学校によってはクラス担任の教師の他に、副担任の教師がつく場合もあるそうだが、今から20年以上前の私の小学校時代のクラスにも副担任がいた時があった。

非常に短い期間ではあったが。

小学校3、4年次の私のクラス担任は引保先生という、七三頭に黒縁メガネの男性教師で、この教師は、恩師に対してこう言うのも何だけれども、いいかげんな人物で、適当な理由をつけてはよく学校をサボっていた。

引保先生は非常に好色であり、教え子である小学生相手に下ネタばかり言う人物であったのだが、時にはコキ過ぎた、つまり自慰をし過ぎた、と言う、驚きの理由で学校を休むこともあった。

そういう訳で私のクラスは自習が多く、教頭や校長が代役の教師をすることがあったのだが、それにも限界がある。

そこで保険として、私のクラスにだけ副担任がつくことになったのであった。

「ええー。うちのクラスは皆、優秀なんで、校長先生が副担任をつけてくれはることになりました」

非常にダラけたジャージ姿の引保先生にそう、紹介された、齢30程度の男は、普段着と変わらないようなラフな格好をしていた。

男は黒 x 茶のボーダーの、薄手のサマーセーターにジーンズを穿いていて、少し茶色がかった柔らかそうな頭髪は耳までかかっており、先生と言うよりは近所の学生のような佇まいであった。

「猫山と言います。みなさんよろしく」

男はそう、聞こえるか聞こえないかくらいの、抑揚のない小さな声でクラスメイトに挨拶した。

名は体を表すというか、男は丸顔で顎が小さく、丸く釣り上がった目をしており、釣り目から低い鼻、顎にかけてのラインなどは猫そのものであった。

男は挨拶の後、クラスメイトに向かって軽く会釈をすると、質問を受け付けるでもなく、世間話をするでもなく、机の間をすっと抜けて教室の後ろに移動した。

そして予め用意していたパイプ椅子に、猫背の姿勢で座ったのであった。

よく素性の知れない、怪しげな男であったが、我々クラスメイトは各自が意識した上で、この男を「猫山先生」と呼ぶことにしたのであった。

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「今日、猫山せんせーってのが来たよ」

新しく副担任となった猫山先生について私が家に帰ってからそう母に話すと、PTAの役員で学校内の人事に精通していた母は、猫山先生が副担任になる経緯をよく知っていた。

猫山先生は元々は他の小学校の教員であったそうだが、教員になってすぐにメンタルに問題を抱えて学校を休むようになった。

そしてその後、数年の通院治療を経て、仮の職場復帰。

副担任として他の教師のクラスに、リハビリを兼ねて参加することで、完全復帰を目指していたのであった。

しかしそういう状態であるから以前の小学校をお払い箱になったのか、猫山先生は私の小学校に回ってくることとなり、私の小学校でも処遇に困って、先に述べた引保先生の事情もあり、押し付けるような形で私のクラスに回ってきたのであった。

猫山先生は私のクラスの副担任であったが、引保先生が何らかの事情で学校を休んだ場合にも担任には昇格せず、あくまで副担任であった。

つまり、猫山先生はどんな場合でも一切の授業をせず、引保先生の代わりは他のクラスの教師がしたり、教頭がしたりして、猫山先生はその代理担任の副担任として、クラスの後ろで、ただ座っていたのであった。

そんな猫山先生が担任のように教壇の机に座るのは、自習時に、ぼう、と我々の自習態度を見つめるか、引保先生がいない時の給食時に、教壇の机で給食を食べる時だけであった。

猫山先生は給食を無言でよく食べたが、特に魚料理が好きであったようで、鮭などが出てきた時は少し嬉しそうな様子であり、またいつも猫山先生はタッパーに入れたニボシを自宅から持参してきて給食時に食していたのだが、それを食べる時も先生はどことなく嬉しそうなのであった。

普段、ただ座っているだけで何も言わないので何を考えているのか分からず、優しいのか、怖いのかも分からない。

給食の時間だけが先生の素の表情が見える、ほとんど唯一の時間であった。

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そんな猫山先生が副担任となってから一月ばかりしたある日。

その日は猫山先生は学校に来ず、引保先生は来ていて、いつも通り授業をしたのだが、帰りの会で引保先生が突如として、黒板に大きく文字を書きだした。

「心」

非常に汚い字ではあったが、先生はまるで「人」という字を黒板に書く、テレビドラマの金八先生のような様子で、そうキビキビと文字を書いて、クラスメイトの方に振り返った。

「人」という字の成り立ち、というか、逸話。人と人が支えあって生きているという、あの感動の逸話を思い起こさせる様子であった。

(引保先生は何か言いたいことがあって、「心」という字の逸話について、今から説明するのだな)

(まるでドラマの中のような光景が、今、繰り広げられるのだろう)

私はそう考えて先生の話に期待した。

「心」という字には、どんな逸話があるのだろう。

「人」の字に匹敵するような、感動の逸話があるのだろうか。

しかしその時、引保先生は少し照れ笑いをして、黒板に振り返り、今、書いたばかりの「心」という字を綺麗に消してしまった。

(え? なんで消すんだよ)

(ああ、引保せんせー、恥ずかしいのか。ドラマみたいだから。急に恥ずかしくなって消したのか)

私はそう思いながら、さらに引保先生を注視した。

引保先生は黒板の前でしばし立ち止まり、再びチョークを持って、大きく文字を書いた。

「心」

(おっ。再挑戦するのか。引保せんせー、やるね。男だね。がんばって)

(恥ずかしくないよ。そのまま行け! 感動の逸話。聞かせてくれ! )

しかし引保先生は再び照れ笑いをすると、黒板に振り返り、また文字を消してしまった。

(なんだよ。またやめるのかよ)

(まあでも、大丈夫。三度目の正直。次こそ行け! )

そして引保先生は再びチョークを手に持ち、大きく文字を書いた。

「乳」

(乳? なんだよそれ。意味わからねえよ)

(下ネタか? 恥ずかしいんで、下ネタでごまかすのか?)

しかし引保先生はまた照れ笑いをして、黒板に振り返り、今、書いたばかりの「乳」という字を綺麗に消してしまった。

(なんだよ? 乳って何だったんだよ)

(余計に恥ずかしいことになってるよ)

引保先生は照れ笑いを浮かべたまま、無言で教室を出て行った。

(え? 終わりかよ? どうすんだよ、この空気)

(おーい、戻ってこーい)

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後で知った話では、引保先生が説明しようとした「心」は人の心、特に猫山先生の心のことであった。

猫山先生は新しい学校での副担任としての活動が心に負担となり、再び休養に入ったのであった。

どのような逸話を話すつもりだったのかは知らないが、引保先生は「心」という文字を解説することで、人の心の難しさについて解説したかったのかも知れない。

そうして休養に入り、学校には来なくなったはずの猫山先生であったが、その後も学校内で幾つもの目撃情報が相次いだ。

最初に目撃したのは、私の当時の親友であった古木杉くんという人物であった。

「さっき、猫山せんせー、いたよ。廊下のとこー」

古木杉くんの話では、猫山先生は暗い表情をして、俯きがちのまま、廊下をとぼとぼと歩き、意味もなく往復を繰り返していたと言う。

学校に何か用事があって来たのだろうか。

その後も目撃情報は続いて、猫山先生は、何かを探すように校庭を歩きまわっていたり、誰もいない放課後の教室で、一人、席に座っていたり、校門付近のブロック塀の上を歩いていたり、校庭の砂場をほじくり返していたり、明らかに奇妙と思われる行動を取るようになった。

そして一部には、猫山先生が何か、斧か、鉈のような、危険なものを持ちながら歩いているという目撃情報もあった。

「猫山先生のこと、もし見つけたら先生に言ってな」

子供たちの騒ぎもあってか、引保先生もそのように言って、猫山先生の行動を警戒するようになった。

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猫山先生が赴任してくるのと時を同じくして、我々の小学校では暴漢の噂が聞かれるようになった。

なんでも、小学校の近所を不審な男がうろついており、男女問わず、下校途中などに子供たちがその男に近づくと、突然、男に後ろから何かの凶器で殴られるのだという。

幾つかの目撃情報によると、男は中肉中背で20から30代程度の年齢であり、グレーや紺のパーカーを着ていてパーカーのフードを被り、顔はよく見えないのだという。

私たちはこの暴漢に注意するよう、教師や親などから再三に渡って言われ続けていたのだが、誰が言い出したか、この暴漢、実は猫山先生なのではないかという噂が流れだした。

猫山先生の赴任の時期と一致する、暴漢の出没開始時期。

何を考えているか分からない猫山先生の以前の様子。

そして猫山先生の最近の奇妙な行動。

これらの要素がその話に真実味を与え、我々は猫山先生を恐怖するようになっていった。

「まだ、猫山先生が犯人と決まった訳やないんやから」

そう話す引保先生ですら、犯人候補の選択肢の一つに、猫山先生を加えているフシがあった。

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夏が来て、台風の時期になった。

その年は台風がよく襲来し、連日、雨の日が続いていた。

猫山先生が学校を休みだしてから、2ヶ月以上の月日が過ぎていた。

その頃、私の小学校の校内で、不思議な現象が起きるようになった。

「ミャアアァァォォォゥ……」

授業中などに、そのような猫の鳴き声が聞こえてくることがあったのだ。

寂しそうに、仲間に何かを訴えかけるような猫の声。

小学生である私たちは、たかが猫の鳴き声が聞こえただけでも、学校内なので当然、なんだ?なんだ?と騒ぎ出す。

立ち上がって教室の窓から顔を出したり、自習中などは幾人かが教室の外に出て教室の周りを探したり。

しかし幾ら探しても、校舎内に猫の姿は見つからないのであった。

「ミャアアァァォォォゥ……」

この不思議な猫の声を聞くと、クラスメイトは猫つながりで、猫山先生を思い出した。

休み時間、猫探しが一段落すると、誰からともなく猫山先生の話を始め、猫山先生が鉈を持って歩いている姿や、あの暴漢のことを連想しては、皆でその恐怖を語り合ったのであった。

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その日も、台風の日であった。

引保先生は学校を休み、クラスメイトは教室で自習をしていた。

外では風が吹き荒れ、土砂降りの雨が降っていて、強風が雨粒を強く窓に叩きつけていた。

空は黒雲が覆い、雲の間からはほとんど光が射しておらず、まだ昼前なのにも関わらず、外は夜のような暗闇であった。

何か不吉な予感がしていたのか、せっかく自習で教室に教師がいないというのに、クラス内はシンと静まり返り、誰も言葉を話す者はいなかった。

静寂が何分も続いた中、ある声がその静寂を破った。

「ミャアアァァォォォゥ……」

また、あの猫の声であった。

この時は誰も席を立って猫を探そうとはせず、ただただ静かに自習を続けた。

すると、台風による停電のせいか、突然プツッと教室内の電気が消えて、辺りは暗闇となった。

「うわ、消えた」

「電気、消えた」

暗闇のなかで、何人かが席を立とうとする音が聞こえる。

少し騒がしくなった教室内に、再び沈黙を呼び起こしたのはあの声であった。

「ミャアアァァォォォゥ……」

皆の騒ぎ声が一瞬で止まった。

暗闇と静寂の中、クラスメイト達が席に座り、無言でじっとしていると、教室の入口の引き戸のドアが、音も立てずにスーッと開いた。

入り口のドアから、誰かがヌッと入ってきた。

入ってきたのは、猫山先生であった。

暗くてよく見えないが、独特の猫背の姿勢で、猫山先生であることが分かった。

先生は重そうに、何か黒くて大きなものを口で咥えながら、教壇に向かって歩いてきた。

その黒いものからは、何かの液体が流れ出て、床に垂れ続けていた。

ドン!

ドン!

何かが、先生が入ってきた廊下側の壁に、繰り返しぶつかっている音が聞こえた。

猫山先生はその黒いものを咥えたまま教壇に向かうと、教壇の机の上にそれを置いて、口から離した。

その様子は、クラスメイトに何かお土産を持ってきて、それを皆に見せているような感じであった。

暗闇の中、皆が無言でその黒い物体を見つめ、沈黙の時が流れた。

やがて暗闇に、徐々に目が慣れてきた。

数十秒もすると、誰もがその黒い物体が、人間の首であることに気づいた。

ピカッと雷の閃光が走り、その首を照らした。

その首は男の生首で、まだ生きているのか、何かを訴えるように、ゆっくりと口をパクパクさせていた。

ドン!

ドン!

また廊下側の壁に、何かがぶつかる音が聞こえた。

クラスメイトは異様な状況の中、誰もが動けず、声も出せず、不思議とクラス内は静まり返っていた。

「シィィィィィィィィッ!!」

その時、猫山先生は教室の入口を見て、何かを威嚇するような声をあげた。

すると入口から、誰かが勢い良く教室に飛び込んできた。

「誰か」は飛び込んできた勢いのまま、教壇の机に突進して体当たりをして、その衝撃で机は横倒しになった。

机に置いてあった男の生首は飛ばされ、クラスメイトの女子の前にボトッと落ちた。

「キャアアアアァァァァァァァ!!!」

女子は叫び、その叫び声の影響か、今まで硬直していたクラスメイトは、金縛りが解けたように急に騒ぎだした。

うわああああ。逃げろおおおおお。

皆が席を立ち、次々に教室から逃げ出す。

教室へ突如、侵入してきた「誰か」をよく見ると、その「誰か」はパーカー姿で、首から上が無い、首なしの状態であった。

「誰か」は首の傷口から血を吹き出しながら、自分の首を探し回るように、教室中の机や椅子をなぎ倒しながら暴れまわった。

うわああああ。

きゃああああああ。

クラス中がパニックの中、首なし男は教室の中央で転倒し、手足をバタつかせながら、もがいて暴れ、仰向けでグルグルと奇妙に回転しだした。

その様は、薬剤を噴きかけられたゴキブリが悶絶するようであり、首のないダンサーが、懸命にブレイクダンスに興じているようでもあった。

やがて、その首なしのパーカー男は勢いを弱め、しだいにピクピクとしか動かなくなり、その後、完全に動かなくなった。

猫山先生はその猫目を見開き、ただじっと、動かなくなった男の死体を見つめていた。

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その後、現場には近くのクラスの教師らが駆けつけ、猫山先生は特に抵抗もせずに取り押さえられた。

私も含めて逃げ遅れて残っていた数名のクラスメイトは、教師の誘導で、血溜まりとなった教室を後にした。

その後の警察の調べによると、首のないパーカー男は、学校近辺に出没していた暴漢のパーカー男と同一人物であった。

パーカー男の自宅からは、小学生を襲撃するときに撮影していたビデオも見つかり、犯人であることが確定したという。

警察の見立てでは、事件の概要は以下のようなことであった。

事件当日、鉈のようなものを持って学校に侵入していた猫山先生は、同じく何らかの理由で学校に侵入していた暴漢の姿を見つけ、後を追った。

そして猫山先生は我々の教室の前の廊下で、暴漢の首に、手に持っていた鉈のようなものを振り下ろした。

暴漢の首は切断され、どういう訳か先生は切り落としたその首を口に咥えて我々の前に現れた。

首を無くして統治機能を失った暴漢の体は、突如の首の切断にパニックになって動きまわり、壁に何度もぶつかりながらも教室に入ってきて、教室中を暴れまわったのであった。

猫山先生はその後、精神病院に入院することとなり、我々の副担任でも、教師でもなくなった。

猫山先生のそれまでの通院歴やその後の経過の関係もあり、事件は大きく報道されることもないまま、関係者のみが知るだけに留まった。

「猫山先生は、悪いヤツからみんなを守ってくれようとしたんや。怖いと思ったらあかんで」

クラスメイトに事件の経過を説明する中、引保先生はそう言って、最後まで猫山先生をかばっていた。

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それから、20年以上の月日が流れた。

あの当時は小学生であった私も、今では30代の中年となった。

当時からほぼ現在に到るまで、その20年以上の月日を、ずっと精神病院に入院していた猫山先生であったが、風の噂では、最近、退院されたという。

今はもう先生は50代だろうか。

私は最近、事件当時の猫山先生と近い年になり、先生のことをよく思い出している。

先生を思い出す理由は、年齢が近くなったことだけではない。

最近、私の家の近所で、夜になると、こんな声が聞こえてくるのだ。

「ミャアアァァォォォゥ……」

まるであの台風の日に聞こえてきたのと同じような猫の声。

結局、見つけられなかったあの猫。

まさか今でも生きていて、私の家の近所で暮らしているのだろうか。

猫好きの私はこの声を聞くと、散歩がてら外に出て、声の主の猫を探している。

しかし当時と同じく、いくら探しても、猫の姿を見つけることはできないのであった。

「ミャアアァァォォォゥ……」

昨日の夜も、また同じ猫の声が聞こえた。

私は外に出て、穏やかな気持ちで、辺りを探してみた。

近所の植え込みや物陰に目をやり、猫を探す。

「ミャアアァァォォォゥ……」

探している途中、また鳴き声が聞こえた。

私は声のした方向に、ゆっくりと歩いて近づいて行く。

しかし少し歩いて、私はすぐにその歩みを止めた。

声の主が、何処にいるのかは分からなかった。

しかし私はその声の主に、何処かからじっと見つめられているような、そんな気がしてならなかった。

怖い話投稿:ホラーテラー 山下の息子さん  

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