私が高校生の時の話です。
私が高校生の頃、父と母と妹と私の四人の他に、祖母も一緒に暮らしていました。祖母は高齢のため認知症にかかっており、私の事を誰だか分からないくらい症状が進行していました。
それでも祖母は亡くなる直前まで私に優しく接してくれました。
あれは祖母が亡くなる少し前の話です。
祖母と一緒に居間でテレビを観ていると、祖母は急に窓に向かって話し出しました。
誰か居るのかと思い、祖母が話している方へ視線を向けるとそこには誰もいません。
祖母は誰もいないのに、ただ一方的に話しかけていました。
「おばあちゃん、そこに誰かいるの?」
「窓の外にね女の子が立ってて手招きしてるのよ。『一緒に行こう』って誘ってくれてるんだけど、私の順番はまだだから断ったとこよ」
祖母はそう言って何も無かったように、再びテレビを観ました。
私は気味が悪くなり、自分の部屋に行ってしまいました。
夕方になり、母に先程の祖母の様子を伝えたところ、認知症の症状には幻覚を見たり、幻聴が聞こえたりするらしいから、気にしなくていいわよと、軽くあしらわれました。
その日を境に祖母の幻覚と幻聴は酷くなっていく感じがしました。
そして、私にも異変が起きたのです。
高校から自転車で帰ってくる時に、自転車のブレーキが急に利かなくなり、電柱に突っ込んでしまったり、信号待ちしている時に誰かに押され転んでしまい、危うく車にひかれそうになり、後ろを見ると誰もいないというような、危険な体験が続くようになりました。ある日学校からの帰り道、急に頭が痛くなり、体がだるくて重く、フラフラになりながら何とか家にたどり着きました。
風邪でも引いたのかなと思い玄関のドアを開けると、そこには祖母が立っていました。
どんな時でも優しい表情を崩さなかった祖母が、その時は眉間にしわを寄せて鋭い眼差しで私の方を見ていたのです。
「おばあちゃん、ただいま」
私は兎に角部屋に行ってベッドに横になりたかったので、急いで部屋に向かおうとしました。
「バシン!バシン!バシン!バシン!」
祖母は私の肩を掴みながら、物凄い剣幕で私の背中を叩き続けました。
「この子から離れなさい!あんたの居場所はここじゃない!ここから今すぐ出て行きなさい!」
いつも優しい祖母が怒鳴り声を上げ出したので、私は驚いて部屋に駆け込みました。
耳を澄ますと、祖母は誰かに向かって大声を上げ続けていましたが、少し経つとその声は聞こえなくなりました。
恐る恐る部屋を出て玄関に向かうと、祖母の姿はありませんでした。
台所から物音がしたため、台所を覗いてみるとそこには祖母が居て、塩を取り出していました。
「あなた、こっちへいらっしゃい」
祖母は優しく私に声を掛けてきたので、私は祖母の近くに寄りました。
「口を開けて舌を出してごらんなさい」
私は祖母の言う通りに舌を出すと、祖母はひとつまみの塩を私に舐めさせました。
「これでもう平気よ。まだあなたの順番じゃないのにねぇ」
祖母はそう言って居間に行きました。
この日から私は危険な目に遭うことはありませんでした。
数ヶ月後、祖母は肺炎にかかってしまい入院することになりました。
お見舞いに行くと、祖母は私の顔を見て笑顔になりました。けど、私が孫だと言うのは理解していませんでしたが。
祖母が私の目を見つめてきました。
「もうすぐ順番が来るから先に行ってるわね」
私はたまらず祖母の手を握りました。
祖母は私の手をギュッと握り返してくれて、優しく微笑みました。
「次はあなたの番よ。向こうで待ってるからね」
私はその言葉にぞっとして、思わず祖母の手を離してしまいました。
今まで優しく見えてた祖母の笑顔が不気味に感じられました。
数日後、祖母は体調が急変し、他界しました。
祖母が他界した今でもあの時の言葉が耳から離れません。
たとえそれが、認知症が進行していた祖母の言葉であっても…
「次はあなたの番よ」
作者エリナ
私は今でもあの言葉が気になってしょうがありません。