10年前に札幌にいた時の話
夕方、急遽網走へ出張が決まった。しかも明日の午前中には網走にいないといけない。
もともと行く予定だった同僚が仕事中に事故に遭ったため、俺が代わりに行けということだ。
事情が事情なので、仕方ない。
早めに仕事を切り上げ、列車で行くことにしたが、網走へ行く特急の本数が少ないので夜行に乗るしかなかった。
札幌駅から列車に乗り込み座席に座った途端、どっと眠くなった。
急な出張でドタバタしたからだろう。
列車が札幌を出発したと同時に寝てしまった。
…どのくらい眠っていたのだろう。
起きた時は車内は消灯していて、どこかの駅に止まっていた。
窓越しにホームを見ると
「生田原」
と文字が見えた。
列車は1分くらいしてから動き出した。
眠気がなくなりしばらく起きていたら、誰かが奥から来るのが見えた。
車掌さんかなと思ったが、
違った。
薄汚れたシャツを着て、泥だらけで無精髭を生やした男だった。
その時は汚い格好しているなぁとしか思わなかった。
男は俺の反対側の窓際の座席に座った。
あまりジロジロ見ない方がいいと思い下を向いた。
しばらくすると列車はトンネルに入った。
轟音が鳴り響く中、ふとさっきの男が気になり男が座った座席の方を向いたら、
その男が俺の隣に座って俯いていた。
思わず、体がビクッとなった。
なんなんだこの男は?
そう思いながら、男を見ていると
何かを呟いている。
耳を澄ましてみると…。
「……めた」
とかすかに聞こえる。
「…ぜ…めた」
「…なぜ…しを…めた」
「…なぜ私を埋めた」
作者退会会員