中編3
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村雨

僕が幼稚園に向かう道

雨の日だけ見える人がいる

その人はいつも雨の日だけ

黄色のレインコートを着て僕に手を振る

僕が手を振り返すと

母が

「誰に手を振ってるの?」と聞いてきた

僕は

「あそこの人、黄色いお服のお兄ちゃん」

「誰も居ないわよ?

もしかしてミラーに写った自分じゃない?」

「違うよ」

確かに僕も黄色のレインコートを着ていた

だけど僕じゃない

きっと母には見えてないんだ

僕はそう思った

僕は幼稚園の友達が知ってるか

聞いてみることにした

「雨の日、あそこに黄色のお服の人いるよね」

みんなは

そんな人いないよ~

見たこと無いよ~

その時誰かが言った

「いるわけないよ」

その一言に

僕はむきになって

「ちゃんといるよ!!雨の日は手を振ってくれるもん」

つい声を荒げてしまった

けど、みんなは

嘘はついちゃダメだよ

お母さん言ってたもん

ウソつき

○○くん嘘はダメだよ

みんなに責め立てられ

僕は悲しくて泣いた

本当にいるのに

みんなには見えてないからなのに

嘘じゃないのに

僕の心がそのまま表れたかの様に

急に外は大雨になった

しばらくして母が迎えに来た

いつもの様に僕のレインコートを持って

「遅れてごめんね~」

明るく僕に話し掛ける母

僕はただただ俯いて涙を拭っていた

「帰ろっか」

僕にレインコートを着せ

手を繋ぎ母はそう言った

またあの道に近付いた

なのにいつも雨の日にいる

レインコートのお兄ちゃんはいない

僕は母に泣きながら

「お兄ちゃんがいない

お兄ちゃんがいなくなっちゃった」

だけど母には見えてないんだ

僕だけが見えてたのに

立ち止まって泣く僕を慰めようと

母はしゃがみこみ

僕に

「大丈夫、大丈夫だよ」と

声をかけてくれていた

不意に僕と母は誰かに押され

後ろに倒れた

「痛っ…」

母が声に出した瞬間

さっきまで僕達のいた場所に

バイクが突っ込んで来て事故をした

それこそ誰かに押されてなければ

大変な事になっていたはず

僕と母はパニックになっていると

耳元で「押してごめんね」

そう聞こえた気がした

僕はすぐに母に向かって

「母さん今…」

「うん、母さんにも聞こえた」

母も聞こえていたのだ

きっとお兄ちゃんが助けてくれた

周りの人が救急車を呼び

バイクの運転手は運ばれていくのと同時に

近くにいたおばさんが話し掛けてきた

「あんたら、危なかったね~」

母が

「本当転けてなかったら危なかったですね」

おばさんはお喋りなのか

「昔もここで事故があってね

小さい子が亡くなったんだよ

ほら、すぐそこに幼稚園があるでしょ?

その時も雨の日でね

そうそう、僕と同じレインコートを

着てたよ

まだ小さかったのに可哀想よね、本当」

母は少し驚きながらもおばさんと少し話

話終えると僕に

「母さんもう少し早く

僕君を信じてあげればよかった」と言った

僕は

「良いんだよ、今は信じてるんでしょ」

と返した

気が付くと

先程までの大雨が嘘のように止み

日が照り始めた

「村雨だ」と母が言い

僕も「村雨だ」と言った

「あんたまだ分かんないでしょ」

「うん、わかんない」

僕と母はレインコートのお兄ちゃんに

お礼を言い

笑顔で家路に着いた

Concrete
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uniまにゃ~様、村雨と言うよりは
普段は通り雨などを使いますよね
他にも同義や類義語で驟雨や白雨、繁雨なんて
言い方もあって案外奥が深いですよ

見えないものは信じない
そんな人達の多い世の中ですからね
きっと僕君はこれからも辛い思いをすると思います

返信

あゆ様、僕の想像では成仏してくれたと思います

実は初めは悪霊にする予定だったんですが
あえて主人公を建てるために
良い霊にしてみました

返信

村雨って初めて聞きました。

急いで調べてきました(^_^)/

僕君は、お利口さんですね。
物分りが良いというか…
人の気持ちになって考える事のできる子だと思いました

悲しいことが、うれしいことになりましたね。

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