天然狼と猫又1〔雪月花シリーズ〕

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天然狼と猫又1〔雪月花シリーズ〕

「あー、平和だ!そして暇だ!」

自分の持ち事件を解決した後って、凄く平和で暇なんだよなあ。でもまたそれがいいんだけどね。

欠伸をひとつして、昼寝でもしようと畳に寝転がった。

「湊君。ちょっと来てください。」

…む。

「何だよー、マスター!」

マスターはこちらの気持ちを分かっているのかいないのか、いつもと同じ動きの少ない表情でこちらを見た。

「お客様がご指名です。」

「僕に指名?…あー。」

こんな時に指名するなんて、あの人しかいない。

僕はムスッとしながらカウンターへと歩いた。

「何ですか猫間さん。」

彼はニヤッと笑って、こちらに手を振った。

「禄郎君!お疲れにゃーん♪」

「お疲れにゃーん♪じゃないですよ、休憩中だったのに…。」

彼はごめんにゃー、と全く反省していないような返事をしてまた笑った。

「にゃー、今日は僕から君に頼みがあってね。聞いてくれにゃーか?」

「イヤです」

「実はにゃ、」

「イヤですってば!」

だが、猫間さんは僕に構わず話し始めた。

「知り合いに大神さんていう人がいるんだけどね、どうやらその人がにゃ…。」

そして彼は僕の耳に口を寄せた。

「…ええっ!?お、狼男ぉー!?」

「しっ、声がでかいにゃっ!!」

いやいや、これが驚かずにいられるか!?身近な人の知り合いが狼男だったなんて!てかそもそもこんな大人の男がにゃんにゃん言ってる方が目立つわ!

「そんなの現実にいるの?害はないの?猫間さん襲われないの?」

「焦るにゃ、質問が多い、落ち着け。それだけなら問題はにゃい。」

問題大有りだろ!…でもここはひとまずツッコむの我慢。

「彼は…。いや、夜また来るよ、彼を連れて。そうすれば分かる。」

「えっ、途中で止めないでください。気になります。」

すると彼は口の端を吊り上げ、チェシャ猫の様に笑った。

「という事は…僕の頼み、聞いてくれるんにゃね。」

く…。こ、こいつ…。

「わ、分かりました。その代わり絶対来てくださいよ、気になりますから!」

猫間さんは満足げに、

「そう来なくちゃ!」

フッ、負けたぜ…。

あー…。まだかな。猫間さん遅いな。

結局、僕は昼からずっとカウンターに立って彼を待っていた。

「あー、禄郎君!悪かったね、遅れて。」

「あっ、猫間さん!もー、ずっと待ってたんですよ!」

やっと店にやってきた彼を迎え、あらかじめとっておいた席へ招く。

「とりあえず水くれにゃ。ネコミルクでもいいにゃー。」

「そんなのありません!…で、連れの方は?」

彼はちらっと店の入り口を見て、

「春作君!おいで。」

ドアを開けて、遠慮がちに入ってきたのはかなりガタイのいい青年だった。

「は…はじめまして。大神春作です。」

彼はぺこりと頭を下げて、カウンターへと歩いてきた。

「ようこそ、Bar・雪月花へ。僕、湊禄郎と申します。」

僕は微笑を浮かべ、会釈した。落ち着きのある、マスターのような大人の男…なのは外見だけ。心の中では、意外と怖そうな狼男にビクビクしていた。

「で…。狼男さんなんですよね?」

僕は悩みを聞き出そうと彼に話し掛けた。すると、彼はみるみるうちに顔を紅潮させた。

「し、失礼な!初対面の人間に向かって狼男とは!」

「…はあ?」

不審に思って猫間さんに目配せすると、彼は少し肩を竦めた。

どういう事だ?

疑問に思う僕の表情を見てとったのか、大神さんは気まずそうな表情をした。

「あ…すみません。でも、あまりに頻繁に言われるもので。つい腹が立っちゃうんですよね。…名字のせいでしょうか?」

ははは…と乾いた笑い声を立てる大神さんに、構いませんよ、と微笑して、

「ところで、ちょっとよろしいでしょうか…?」

ばつが悪そうに笑っている猫間さんを、店の端へ連れていった。

「…どういう事ですか、あれ?彼が狼男の知り合いじゃなかったんですか?」

猫間さんは悪戯っぽく舌を出した。首に巻かれた鈴がチリンと鳴る。

「彼は紛れもない狼男だよ?ただ、本人にはその自覚が全くにゃいんだ。」

「え…えぇ~!?」

そんな事って…あるのか!?

「普通分かるでしょ、自分の体の事くらい!」

猫間さんは首を振った。

「いやー、彼はどうやら元は普通の人間で、いつなのかは分からにゃいがこの体質をもらってしまったらしい。」

うーん…。確かに、狼男っていうのは襲った人間も同類にしてしまうものだとどこかで聞いた。

「で、でもさ。変身したら分かったりしないの?」

「変身した自覚もにゃいし。そもそも狼になっている間の記憶もにゃい。」

「そうか…。」

そして、猫間さんは片目を瞑った。

「そこで禄郎君!君、彼に自分の正体を理解させてあげてくれにゃいか?」

「え?何で?」

「彼が自分の正体を知らないと、色々大変にゃんだ。知らないうちに変身して、知らないうちに人を襲うかもしれにゃい。」

「そうか…そうですね。」

これは…意外と難事件かも?

僕はカウンターへ戻り、大神さんに声をかけた。

「お待たせしました。何か飲まれますか?」

「あ、俺は猫間に誘われて来ただけなんで。お酒弱いんですよ、少し飲んだだけですぐ酔っ払っちゃうみたいでよく記憶が飛ぶんです。」

猫間さんを見ると、うんうんと大きく頷いていた。

なるほど、アルコールが入って制御が効かなくなることもあるのか。

「じゃあ、ノンアルコールのカクテルでもどうぞ。猫間さんの紹介なら、特別に個室をご用意させて頂きます。」

「え、そんな。お気遣いなく。」

遠慮する大神さんを、猫間さんが押す。

「いいからいいから!折角ああ言ってくれてるんだから、お言葉に甘えよう!」

「うーん…。それなら、お願いします。」

僕は微笑して、小さく頭を下げた。

「かしこまりました。」

一つ目の作戦はこうだ。大神さんにこっそり強ーいお酒を飲ませ、泥酔してもらい、文字通り尻尾を出してもらう。完璧!

「さあ、どうぞ。」

ブランデーのストレートです。因みに匂いは幻術で飲みやすいカクテル風にしてある。

「ありがとうございます。」

彼はグラスを一気に煽った。

「う…?こ、これ強く…ないですか…?」

流石に味までは変えられないなあ。

「そうですか?当店で一番度の弱いものをお出ししたのですが。」

「そ、そうです…か…。」

すでに顔が真っ赤だ。と、ここで早くも変化が。

(犬歯が伸びてる…。)

明らかに牙が生えている。

(最近の狼男って満月見なくても変身できるのか?)

という疑問がふと頭をよぎったが、今は関係ない事に気づいて忘れる事にした。

「う…うーん…。」

お、来たか?

猫間さんの方へ目をやると、いつになく真剣な表情をしている。やっぱりそうみたい。

「ぐあ……!」

背広のズボンを突き破り、太い尾が生える。

「猫間さん、これ!」

猫間さんは頷いて、地面を蹴った。

彼の体が宙を舞い、着地する頃には黒いハチワレ柄の猫へと変じていた。勿論尻尾は二本だ。

「禄郎にゃん、大神にゃんを押さえるんにゃ!」

あれ、にゃんにゃん率上がってない?…って関係ないか。

「え、あ、はい!」

僕は急いで大神さんを後ろから羽交い締めにした。が、残念ながら僕は大した筋力を持っていないので、簡単に振りほどかれてしまった。

「む、無理ですよ、強すぎる!」

「え、君妖狐だろ!?それくらい…。」

「僕は妖狐の中でも野狐ですから!そこまでの力はないんですよ~!!」

「にゃ、にゃんつーこった…!」

そんなやり取りをしている間に、大神さんは完全に狼男の姿になっていた。

「こ、こっえ~!!」

「そ、そんにゃああ!」

彼は完全に理性を失っているようで、僕や猫間さん、そこらの家具に攻撃し始めた。

次々と襲ってくる攻撃をギリギリで避わしながら、僕は狐の姿をとった。こっちの方が動きやすいしね。

…でも、全く手出しができない。どうしよう…。

そうこうしているうちに、僕と猫間さんは部屋の角に追い詰められてしまった。

絶体絶命!が、しかし。

グラスの割れるような音がして、狼男の巨体はびくんと痙攣するとそのままこちらへ倒れてきた。

「おわっ!」

そのまま段々と元の姿に戻っていく。

見ると、グラスの中でも丈夫なロックグラスが割れたものが落ちている。

「…?」

訳が分からないまま呆然としていると、

「全く…。騒がしいですね。何をしているのです?」

部屋の入り口に、ロックグラスの載った盆を持ったマスターが立っていた。

「…で、君の杜撰な計画を実行しようとして無茶をしていた、と。」

僕とは猫間さんはマスターの部屋で正座させられていた。

「…はい。」

マスターは、全く、困ったものですと腕を組んだ。

「猫間さん、あなたもですよ。うちの者はプロの探偵ではないのですから、このような難しい事件を勝手に依頼されては困ります。」

「にゃ、にゃはは…。」

「笑って誤魔化そうとしないでください」

「ごめんにゃさい。」

ひとしきり僕らを叱り終えたマスターは、大きく溜め息をついた。

「そうは言っても、彼を放っておく事は出来ませんね。」

「え?それじゃ、マスター…。」

彼は頷いて、

「この依頼、私が責任を持ってお受け致します。湊君、補佐をお願いします。」

「やった!やっぱりマスターはそうでなくちゃ!」

これがマスターのいいところ。

「じゃー、後は頼んだにゃー。僕はそろそろおいとまするにゃ。」

「待ちなさい」

猫間さんの背中に、マスターの鋭い声が突き刺さる。

「にゃ、にゃんですかにゃー。」

「あなた、猫又でしょう?色々能力もあるでしょうから、手伝ってください。」

「えー、僕も色々忙しくて…」

「手伝いなさい」

「…はい。」

こうして、僕と猫間さん、マスターの3人は、天然狼を救う為に立ち上がった。

ましろ君は怪我の治療でお休みだから、その分頑張らないと。

「…ところでさ、マスター。」

「はい?」

「大神さん、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫ですよ。狼男はそんな簡単に死にませんから。」

そ、そういう問題じゃないんだけどなあ…。

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ましろクンの具合はどうですか?
早く治るといいですが...

お酒の弱い狼男サン(*^m^*) ムフッ
ギャップありですね。猫間サンのニャーがかゎぃぃ♪オジサンなのに...

狼男サンにどう自覚させるかマスターのお手並みが気になります♪早く続きが読みたいです。

こんばんは〜!
第2シーズン開始ですね。
今度は無自覚な狼男ですか。
今後の展開が楽しみです♪
私的には、猫間さんがなんかやらかさないか気になる…

待ってました‼︎
狼男さん、無事に(?)自覚できるんでしょうか(^^;;