長編7
  • 表示切替
  • 使い方

首吊りミカちゃん

これは、僕が高校一年生の時の話だ。

季節は秋。

11月も段々終わりに近付いて来た頃。

nextpage

・・・・・・・・・。

僕の通っている学校には、他の高校よりも少しだけ広くて、少しだけ充実した図書室がある。

それは東棟の最上階である四階の大半を占めており、蔵書は《学術書からライトノベルまで》をモットーに様々な書籍を取り扱っている。

並ぶ本棚は何列もあり、ジャンルや年代別に複雑に絡み合い、交錯している。

そのもの凄さたるや、

《あの無駄に多い蔵書の中、林立する本棚達の一番奥に、世界の真理を記した魔書がある。

魔書は書物の妖精により護られており、その魔書を手にし、全て読み解いた者は世界の全てを知る》

等と言う、やたらファンタジックな高校七不思議を確立してしまう程である。

全く。何が魔書だ。何が世界の真理だ。

そんな物がこんな極東の島国の、これまたパッとしない高校の図書室なんかにあって堪るものか。

僕は常々そんな事を考えながら、日々その魔書とやらを探している。

だって、あって堪るものかとは思うが、無いとは言い切れないではないか。

もしあったら是非とも読んでみたいではないか。

そうしてその日も、僕は魔書探し及び面白い小説探しに精を出していたのである。

nextpage

・・・・・・・・・。

僕は読書が好きだ。

しかし、家に本を持ち帰って読むという事は、あまりしたくない。

図書室の外には危険がいっぱいだ。

家族や友人からの呼び出しの事を考えると熟読する事も出来ない。

故に、僕は読みたい本がある時には、図書室に残り、適当な席に座ってその本を読むというスタイルを取らせて貰っている。

nextpage

その日も、僕は何冊かの本を選抜し(魔書は見付からなかった)、座って読書をする席へと向かった。

電気スタンドとストーブのあるコーナーは受験生の先輩方で埋め尽くされている為、当然の如く、僕達一年坊主は図書室隅の、ストーブの温かさも届かない様な席へと行くしかない。

nextpage

しかし、穴場とはそんな所にあるのである。

例えば、棟の一番端。隣が本棚。もう隣が窓になっている個人席がそうである。回りが壁なのでほぼ個室状態で、周りを気にせず安心して本が読めるーーーーまあ、かなり寒いので、家から膝掛けや毛布等を持って来なければならないが。

だが、其処を差し引いてもその席を僕は酷く気に入っていたのだ。

nextpage

・・・・・・・・・。

モソモソと毛布にくるまりながら読書を続けていると、僕はふと、窓に何か変な影が映っているのに気付いた。

見ると、それは一本の太いロープだった。

今までは見た事も無かったのに・・・。

時折風でユラユラと揺れるが、何かが括り付けてあるらしく、風で飛ばされて引っ掛かっている訳では無い様だった。

しかし、図書室の窓は開ける事が出来ない。

窓に鼻が着くギリギリまで顔を近付けたが、括り付けられている物が何なのかは分からなかった。

丁度あと二ページで本を読み終える所だったので、僕はまた席に戻り読書を再開した。

nextpage

・・・・・・・・・。

残った二ページを読み終えた後、僕が窓の外を見ると、まだそのロープはぶら下がっていた。

僕は本を本棚へと戻し、図書室を後にした。

nextpage

・・・・・・・・・。

階段を下り、此処は三階美術室前。

あの席の、丁度真下辺りに位置している。

今日は美術部の活動は無い筈だ。

扉の向こうから何も音は聞こえて来ない。

僕はガラリと、引き戸を引いた。

nextpage

室内にはやはり、誰も居なかった。

窓の外には一本のロープ。

どうやらまだ続いているらしい。

僕は引き戸を閉め、階段を下りていった。

nextpage

二階。

書道室。

僕はまた引き戸をガラリと開けた。

ロープは其処で終わっていた。

そして、窓の外。ロープの終わりに、彼女は居た。

nextpage

・・・・・・・・・。

ユラユラと風に揺れる身体。

靡く艶の無い黒髪。

古めかしいセーラー服。

そして、首に食い込んでいるロープ。

しかし、彼女はあくまで無表情だ。苦しそうにはとてもじゃないが見えない。

顔自体も変な所は何一つ無い。廊下ですれ違っても何も可笑しくは思わないだろう。

・・・しかし。

これは、《ミズチ様フィルター》により顔の損傷が無くなって見えるだけで、実際に首吊りなんかしたら顔面鬱血状態で目玉とかも飛び出すらしい。

そして、ミズチ様フィルターが通じるのは世に言う《幽霊》のみである。

つまり。

nextpage

彼女はもうこの世に居る人間では無いのだ。

僕が近付くと、彼女はチラリと此方を見たが、すぐにまた視線を泳がせた。

僕は窓を開け、軽く頭を下げた。

「・・・こんにちは。」

「・・・。」

彼女は何も言わなかった。

喋れないのか喋らないのかは分からない。

僕は暫く彼女の前で、じっとしていた。

彼女が、ボソリと何かを呟いた。

nextpage

「シカタナイジャナイ。」

「え?」

「シカタナイジャナイ。」

独り言の様に呟く。

「・・・何が?」

自分の現状か。

自ら人生の幕を閉じてしまった事か。

はたまた他の何かか。

しかし、彼女が僕の問い掛けに応える事は無かった。

nextpage

ブツッ『下校時間です。部活動の無い生徒で、居残り届けを提出していない者は、速やかに下校するか、居残り届けを担当職員に提出してください。』

nextpage

校内放送が鳴った。

もう帰らなければ。

僕は窓を閉めようと、手を伸ばした。

「ネェ」

「え?」

僕が顔を上げると、

彼女はその虚ろな目で此方にしっかりと視線を向けていた。

nextpage

「イッショ二キテクレナイノ?」

一緒に来てくれないの?

そう、彼女は言った。

「残念ながら。ごめんなさい。」

僕は深く頭を下げながら言った。

「貴女の所へは行けないんです。」

彼女は、そっと目を伏せた。

「・・・・・ソウ。」

その様子が何だか悲しげだったので、僕は鞄に入っていたチュッパチャップスを取り出した。

包装紙を剥き、彼女の口許へ差し出す。

「どうぞ。・・・貴女の所へは行けなくても、また、貴女に会いに来ますから。そうしたら、また話をしましょう?」

彼女は、差し出されたプリン味の飴をじっと見つめていたが、軈てコクリと頷き、ゆっくりと口を開けた。

飴を口の中に入れ、一礼し、窓を閉める。

「それじゃあ、さようなら。」

今日を出る時振り向くと、彼女は片手で飴の棒を支え、もう片方の手を振っていた。

僕も手を振りながら、引き戸を閉めた。

nextpage

・・・・・・・・・。

しかし、その次の日から彼女は現れなくなってしまった。

nextpage

・・・・・・・・・。

ついこの間、ピザポがある《噂》を教えてくれた。

それは、《首吊りミカちゃん》という物で、一種の都市伝説の様だった。

独りぼっちが辛くて首を吊ったミカちゃんと言う女の子が居て、彼女は色々な学校を転々としながら、道連れになってくれる友達を探しているらしい。

・・・という何とも安っぽいというか、有りがちな話だった。

僕はボンヤリと話に相槌を打っていた。

ピザポは得意気に続ける。

「で、ここからが大切!ミカちゃんから逃げる方法なんだけどさ・・・。」

「おお。」

nextpage

「ミカちゃんの持ってる白い棒を奪って、投げ飛ばすんだって。」

「・・・・・どういう事だそれ。」

そう僕が言うと、ピザポは詳しく説明を始めた

nextpage

・・・・・・・・・。

んーと、まず、そのミカちゃんてのは、白いプラスチックの棒・・・ほら、棒付き飴の奴ーーーを持ってて、それを両手でしっかりと握り締めている・・・らしいんだって。これは前置き。

で、何でか知らんけどミカちゃんはその棒をかなり大切にしてて、それを奪って、投げ飛ばすと、その投げ飛ばされた棒を必死に探し始めるんだって。

で、ミカちゃんが棒を探している間に逃げる、と。

nextpage

・・・・・・・・・。

「でも、何故に飴の棒何かを大切にしてんだろね?」

ピザポが不思議そうに首を傾げた。

僕の頭には、ずっと前に飴をあげた彼女の顔が浮かんだ。

まさかとは思うが・・・。

「なあピザポ。その《ミカちゃん》とやらは、どんな格好をしてるんだ?」

「あ?・・・確か、今時無さげなセーラー服で、頭は黒髪ロングだって聞いたけど・・・。」

ピザポがまた不思議そうな顔をした。

僕がこういう話に食い付いてくるとは、思っていなかったのだろう。

僕は口を開いた。

「・・・ピザポ。」

「え、何?どしたのコンちゃん。」

そして、何故か慌てているピザポに言う。

「・・・帰りに、買い物に付き合って欲しいんだが・・・。」

nextpage

・・・・・・・・・。

その日の帰り道、僕等は雑貨屋に立ち寄り、リラックマのストラップを購入した。

このチョイスはピザポの

「取り敢えずクマさん系は鉄板だって!」

の一言で決まった。

もしこれを読んでいる貴方が、

「高校生でリラックマとかwwwwマジねぇわwwww」

等と思ったら、それはピザポのせいである。

僕はキイロイトリにすべきだと言ったのだ。

nextpage

・・・・・・・・・。

購入したリラックマは、今も僕の通学用鞄の中に入れてある。

もし、ミカちゃんが彼女だったとして、持ち歩いている棒が僕のあげた飴の棒だとするなら。

次は、もっとちゃんとした物を渡してあげたい。

nextpage

夕暮れ時の窓辺。

彼女の姿は、まだ見えない。

nextpage

・・・・・・・・・。

もし、貴方の前に《ミカちゃん》が現れる事があったなら、驚かず、落ち着いて彼女に伝えて欲しい。

《その飴を貴女に渡した人が、貴女に会いたがっていた》と。

Concrete 59189e6fb4d79119a63e92183ffb92aeb8f46031afd97d5db060811ce15c35e6
閲覧数コメント怖い
2,5376
12
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

チェリールゥさんへ
ありがとうございます。
ですよね!プリンですよね!(・∀・)
ストラップはまだ、鞄の底に入っています。

欲求不満さんへ
ありがとうございます。
怖さは欠片も無い話ですが、これからも伝えて行きたいと思います。
良かったら、お付き合いください。

hikaさんへ
ありがとうございます。
食べ物は、食べられる人と食べられない人が居る様です。
違いはよく分かりませんが、きっと何かが違うんでしょう。
もし会えたなら、宜しくお願いします。

怖くないけど惚れたので怖い付けました
やっぱプリンですねー!
ストラップ、渡せたらいいな
個人的にはリラックマよりコリラックマ派♪

この感じ大好きです。

怖くないけれど、こういうお話好きです(*´◡`*)

お菓子食べられるんですね…
ちょっとだけ驚きました。

棒を投げられてしまうミカちゃん、可哀想です…コンちゃんに貰った事が嬉しかったんだろうに(;_;)

私は高校生じゃないから会えないかもしれないけど、もしも会えたらば伝えたいなと思います^ ^

充分、優しいと思いますよ!!