14年04月怖話アワード受賞作品
中編6
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登下校班

知人から聞いた話です。

専業主婦のYさんには二人の息子がいた。

長男のH君は小学4年生。

次男のT君も小学4年生。

Yさんの息子は双子だった。

『行ってきます!』

その日も二人揃って元気に家を出た。

朝は近所の小学生数名の登校班で小学校に向かう。

双子の登校班は全員で7人。

手に旗を持った班長の六年生を先頭に、出発しようとした時だった。

『待って!まだ石太郎が来てない!』

双子の声に登校班のみんなは足を止めた。

「また?」

「まただね…」

「ま~た始まったよ…」

登校班の皆が口々に小声で何かを言っている。

『あ!来た来た!石太郎!早く!』

半袖シャツに短パン姿のガリガリに痩せこけた小さな男の子が登校班に近づいてきた。

『石太郎!おはよう!遅いぞ!』

石太郎と呼ばれる男の子は無言で俯いている。

本名が石太郎と言う訳ではなく、双子が付けたあだ名だった。

石太郎は今年の春から登校班に加わった小学一年生で、自分が気に入らない事や嫌な事があると、その場で立ち止まり、一切動かなくなってしまう。

何を話しかけても返事もせず、まるで石のようになってしまう。

石太郎の行動があだ名の由来になっている訳だ。

この日も、双子に朝にからかわれた石太郎は通学路の途中で動かなくなってしまった。

登校班の皆は注意するのも面倒臭くなったようで、双子以外は誰一人として歩みを止めない。

『あ~!しょうがないなぁ!』

双子は石太郎を交代で背中におんぶしながら、小学校に辿りついた。

校門の前までたどり着くと、双子は石太郎を背中から降ろした。

『ほら!石太郎着いたよ!早く動いて!』

何度声を掛けても動かない石太郎をそのままにして、双子は校門をくぐった。

行き交う人々を避けながら双子は再び振り返る。

珍しく朝から人通りが多く賑やかな校門前。

石太郎はまるで石のようにピクりとも動かなかった。

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数ヵ月後。

登校班は石太郎が来るのを待たずに出発しようとした。

『ちょっと待ってよ!まだ石太郎が…』

双子が訴えかけるも、誰も歩みを止めようとしない。

『あ!いたいた!石太郎!おはよう!』

石太郎は登校班の集合場所から少し離れた電柱の影に佇んでいた。

双子が近づくと、石太郎はその場に座り込んでしまった。

「ねぇ…いい加減にしてよ。先行くからね!」

班長達は先に行ってしまった。

双子は班長達に背を向きながら手を振り、石太郎の元に向かった。

『石太郎!また石になってるのかよ!ほら、学校行くぞ!』

石太郎は動くそぶりを見せない。

『ほら、またおんぶしてやるから!』

そう言って石太郎に触れようとした時だった。

石太郎はその場で逆立ちをすると、両足を電柱に絡めた。

『おい、何してんだよ…』

次の瞬間、石太郎は物凄い勢いで、電柱を登り始めた。

逆さまの状態で蜘蛛のように手足を絡めながら電柱を登る様は、まるで人間技とは思えない光景だった。

『石太郎!すげーな!それどうやってやるんだよ?』

石太郎の凄技を見て興奮した双子は、見よう見まねで石太郎を真似してみたが、出来るはずが無かった。

『ほら!下りて来いよ!いい加減遅刻するぞ!』

「うん」

『え?』

鈍い音と共に、双子の目の前に石太郎が落ちて来た。

石太郎は逆さまになった状態で両足を電柱に絡め、両腕を地面にだらりと伸ばしていた。

首があらぬ方向に折れ曲がり、頭はあるべき向きに向いていた。

『石太郎?大丈夫?』

両目を閉じた石太郎はまるで眠っているかのように見えた。

双子が更に石太郎に近づこうとした瞬間、石太郎は目を見開いた。

『うわっ!なんだこれ?!』

石太郎の眼窩には、プラスチック片のようなものが大量に詰まっていた。

双子が人差し指でプラスチック片のようなものをほじくると、ぼろぼろとこぼれ落ちた。

『これって…』

眼窩に詰まっていたのは、爪の切りかすだった。

怖くなった双子は、その場から離れ、登校班を追いかけた。

小学校の近くで登校班に追いついた双子は、石太郎の話をしたが、誰も信じてくれなかった。

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その夜。

「なんか、痛いなぁ」

目に違和感を感じた双子の弟は部屋の電気を付けた。

眼球に埃でもついたのかと、慎重に指でつまんで違和感の原因を取り除く。

「うわ…」

手には爪切りで切ったであろう、三日月型の爪の切りかす。

ただ、まだ目の違和感は治まらなかった。

弟は兄を起こすと、眼球を確認してもらった。

「え…なにこれ…」

兄が瞼を持ち上げると、眼球の上部から爪が生えていた。

指で眼球から生えた爪をつまむが、びくともしない。

「切るしか無いな…」

兄は引き出しから爪切りを取り出し、爪切りで眼球から生える爪を挟んだ。

【パチン】

眼球から生える爪は眼球から数ミリの箇所で切り離されたが、根元にまだ爪が残っているせいで違和感が収まらない。

兄は悩んだ挙句、いつもの方法で弟の爪を取り除く事にした。

「に~ちゃん。どうするの?」

「こうするんだよ…」

兄は弟の瞼を思いっきり持ち上げ、眼球をあらわにすると、爪の生える箇所に噛み付いた。

お菓子の袋が開かない時は、歯で噛み千切って開けていた為、兄からしてみればこれが最も確実だろうと言う判断だった。

次の瞬間。

双子の部屋から絶叫が聞こえた。

泣き叫ぶ声に飛び起きた両親は、双子を見て愕然とした。

弟は目から血の涙を流し、兄の口元には弟の眼球の一部が付着していた。

立ったまま、まるで石のように動かなくなった弟の醜く潰れた眼球からは、薄汚れ、血にまみれた爪の切りかすがこぼれ落ちていた。

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「それで?その双子はどうなったの?」

「すぐに転校して引っ越したよ。精神病か何かで転校先でも問題を起こして今は病院にいるって噂だよ」

「石太郎は?」

「石太郎も確かに初めは登校班にいたんだけど、ある日、いつものように動かなくなった時、双子におんぶされて学校の前まで運んでもらったらしいんだけど…」

「うん」

「その時、双子に降ろされた場所が道路のど真ん中だったみたいで、石みたいに固まっていた石太郎はそのまま車に撥ねられて即死だって」

「うわ…」

「石太郎が死んだ後も、双子はいつも登校班が出発しようとするたびに、石太郎が来てないって騒いでたんだってさ。あまりにショックで石太郎の死を受け入れられなかったみたいだよ」

「そりゃね…」

「通学路でも石太郎が登校班にいるかのように、話しかけたりしてたんだってさ。ただ…」

「ただ?」

「石太郎が死んだ後ね、通学路で班長がおじいちゃんに話しかけられたんだって『おはよう。後ろの男の子3人、いつも楽しそうだね』って双子を見ながら。双子のいる登校班、双子と石太郎以外は全員女子だったんだってさ。それを聞いた女子達はみんなその場で大泣き。大変だったらしいよ」

「おじいちゃんには見えてたのかな?」

「きっと、そうなんじゃないかな」

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下校班の二人組みの女子が怪談話で盛り上がっている時だった。

「ねぇ」

背後から呼びかけられ、振り返った二人組みの女子は叫び、その場で泣き出した。

二人の目の前には、首があらぬ方向に曲がり、後頭部がぐちゃぐちゃに割れ、逆立ちをした小さな男の子がいた。

「おんぶ、してよ」

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小学四年生という年齢を考えますと、石太朗あるいはその両親が加害者で双子は被害者にしか見えませんね。

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爪ー!
てか、グロいなぁ

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ぉもしろかったっ

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短い内容ながらも楽しませていただきました。来月の新作も楽しみにしています。

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さとるさんの作品はやっぱ面白いですわ

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さとるさんのお話、楽しみにしてました。
最後、鳥肌でした。

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確かに二度読みすると色々と辻褄が合いますね!面白い!

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全部分かった後にまた読むと、別の面白さがあっていい。

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全然石太郎に同情できん!
むしろ双子可哀想!(;д;)

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さとるさんのお話、いつも背筋が凍りそうです!(◎_◎;)
巷のホラー関係の書籍顔負けですね…

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