中編4
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秋の電車

私が中学生の頃の話。

私の地元はかなり田舎で、公共の交通機関といえば田んぼの真ん中を通る3両編成の古びた電車だけ。

中学校の頃はそれに揺られて毎日登校していた。

しかし、ある出来事がきっかけで中学三年の秋から私はその電車に乗れなくなった。

私の所属していた吹奏楽部は三年生も10月末の文化祭まで部活を続けるのが恒例で私も例に漏れずせっせと部活に励んでいた。

その反面、高校入試までも近く、行き帰りの電車の中で単語帳とにらめっこするのが日課だった。

その日はミーティングが長引き、一時間に1本しかない電車に遅れるかと駅まで全速力で走ってなんとか一番前の車両の運転室の隣に乗り込んだ。

少し落ち着いて車内を見回すと乗客は私だけ。

普段なら顔なじみの高校生やお婆さんがぽつりぽつりと乗っているのだがどの車両にもお客は居なかった。

私は何も考えず、たまにはそういう日もあるのだろうと納得し、いつものように単語帳を開いた。

電車のガタゴトという振動と文化祭前のハードな練習とで私はうとうとしていたようで時計を見ると最寄駅まであと一駅と半分くらいといった時間。

今日ぐらいいいや、と単語帳を鞄に仕舞い、目線を上げると大分日は落ちて車内は夕日で不気味なほど真っ赤に染まり、何かが燃えるような烟った匂い。

それとさっきは気が付かなかったが入口すぐの端っこの席にセーラー服の女の子が座っている。

私とは対角線上の位置で夕日の逆光でよく見えないが多分知らない子。

たまに都会でいじめられた子がおばあちゃんのお家があるこのへんに転校してくるなんてことがあるので、ぼんやりと 転校生かなぁ、セーラー服って珍しいなぁ、東京やろかなぁ と眺めていた。

ふと気づくと何故か顔は見えないのに、女の子がにやにやと笑っているような気がした。

見ていたのがバレたようでバツが悪く目線をそらしてしまった。

目線はついそらしてしまったが、変化の少ない田舎。

たまにあることと言っても、やはり気になるものは気になる。

それに明日友達に話す格好のネタになるとも思い、私はちらちらと様子を伺っていた。

しかし、見れば見るほど何かがおかしい。よくよく見るとセーラー服は10年ほど前まで制定されていた、中学校の旧制服だった。

そしてこの田舎町でも野暮ったく感じるほど左右できちんと三つ編みにされた重そうな黒髪。

そして革の平たい鞄。

相変わらず顔はよく見えないがにやにやと笑っている(ような気がする)。

なんだか恐ろしくなった私は隣の車掌室を覗いた。

いつもは気前のいい小太りのおじいさんが車掌なのだが、今日に限って見た事のないひょろりと縦に長い30代くらいの若い人。

運転室に気を取られていたが、ふと気配を感じて振り向くと女の子が隣に座っていた。

顔はのっぺらぼうのようで、凹凸が無くつるんとしていて、目は無く、ニタァとしか表現のしようがない口だけが黒い穴が空いていた。

驚いて椅子から転げ落ち、声も出ない私の首を絞めながら耳元で何かをぼそぼそとつぶやく。

あたしうれしいあたしいえにかえりたいのあなたがいればきっとかえれるあたしうれしいいえにかえれるかえりたいかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれるかえれる

駅に着いていないのに電車は止まり、耳元で女の子は狂ったようにつぶやき続け、私は逃れようと女の子のおさげを掴み必死に振り回して藻掻いた。

運転室に助けを求めようと目線を向けるとひょろりと長い車掌も女の子と全く同じ顔でこちらをニタニタと見下ろしていた。

その後の記憶は断片的にしかないのだが、気がつくと隣の線路をいつものおじいさん車掌の乗った電車が通り抜かして行き、気がつくと私はいつも降りる駅のベンチに座っていた。

そして手には細くてネコっ毛の私のものとは絶対に違う黒くて太い、艶やかな髪が数本絡まっていた。

それからというものの私はその電車が怖くなり、卒業するまでは父親が通勤するのと一緒に車に乗せてもらい学校に通った。

高校は迷わず県外の全寮制の高校に志願変更した。

高校を卒業した後地元に帰ってきてから、おじいちゃん車掌に聞いた話。

そんな車掌は記録にある限り雇ったことが無いとのこと。

そしてそもそも、あの線路は単線で追い越しは不可能なこと。

そしてこの町で1人だけ今でも行方知れずの少女がいること。

その電車は数年前に利用者の減少で廃線になり、もうあの電車を見ることはない。だが、あの強烈な夕焼けと手のひらに残る髪の感触はいつまでも記憶にこびりついたように取れない。

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うわ、これ実話なのか!こんな体験したら怖くてヤバい!
話は怖いけど、田舎の電車と夕日とお化けに風情を感じてしまいました。ちょうど逢魔が時でしょうか。