中編3
  • 表示切替
  • 使い方

予備校

これは、大学4年生の冬、私が予備校の受付のアルバイトをしていた時に体験した出来事です。

私が担当していたのは衛星通信授業(個別ブースでイヤホンをして、モニターで授業を見るタイプのものです)の受付で、生徒さんが来校したら名簿にチェックを入れてからブースを案内する、非常に簡単で退屈な仕事です。

そのため、生徒の出入りがない時間や、受講生がいない時はとても暇で、大学の課題をしたり、読書をして暇をつぶしていました。

その日は2月の上旬で、受験シーズン真っ只中。毎年この時期になると生徒は生活リズムの矯正や、風邪を引かないようにするため、夕方には帰宅します。

そのため夜の授業を受講する生徒はほとんどおらず、受講生がいない日も少なくはありませんでした。

しかし受講生の有無に関わらず受付のシフトは最後の受講が終わる時間まで入っているため、その日も私は誰もいない教室の受付カウンターに一人で座って勉強をしていました。

「プルルルル、プルルルル」

内線が鳴りました。

「今、生徒さん何人来てる?」

社員のAさんからの電話でした。

私が今は誰もいないと伝えると、「え、本当に?おっかしいなぁ。」と言って電話を切りました。

その時はあまり気にせず、勉強に取り掛かりました。

今思えば、この時Aさんの言う通り本当に「おかし」かったのかもしれません。

それから30分ほど経った頃でしょうか。またAさんから内線がかかってきたのです。

「あのねぇ、田中さん(私の名前を田中とします)。今、生徒がどんな時期か分かってる?暇なのは分かるけどさ、あんまり長話はダメだよ。その子にも早くブース戻るよう言ってね。こっちからはカメラで見えてんだからね。」

そう一方的に怒られ、内線は切られたのです。

背筋が凍るとはこういうことを言うんだと、この時初めて体感しました。

私はツー、ツー、と無機質な音を繰り返す受話器を耳に当てたまま、しばらく動くことができませんでした。

生徒?どこに?いつ?

私はずっとこの受付に座っていましたが、生徒は1人も来ていませんし、もちろん私は誰とも話してなんかいません。

私がゆっくりと受話器を下すと、すぐに内線が鳴りました。

咄嗟に受話器を耳に当てると、再びAさんの声が。

「ちょっとねぇ、田中さん、早く…」

「生徒は誰も来てません。この教室にいるのは私だけなんです!」

Aさんの言葉を遮るように私は叫びました。もう半分パニックでした。

すると「えっ」という驚いたような声の後すぐに内線は切れ、私はあまりの恐怖にすぐに荷物をまとめ、教室を出て本部の部屋に向かいました。

その途中、私のいた教室に向かうAさんと会い、本部でAさんと少し話をしました。

Aさんの話によると、最初に内線をかける前、教室に入る女の子を防犯カメラの映像で見たそうです。

しかし私がその授業時には生徒が来ていないと伝えたため、訝しく思っていたそうです。

そしてそれから15分ほどした後、再びカメラの映像に目をやると先ほどの女の子がカウンターの前に立ち、私と話しているように見え、それが10分以上続いたため注意の内線をかけたそうです。

もちろんそのような女の子どころか、生徒は誰もいませんでした。

その日は少し早めにバイトを終わらせてもらい、私はその日づけでアルバイトを辞めました。

後から知ったのですが、受験シーズンに鬱になり、自ら命を絶つ受験生は少なくはないようです。

受験シーズンになると、受験に未練を持った霊が予備校に集まるのかもしれまけん。

受験生の方や、予備校でアルバイトをしている方は、気をつけてください。

Concrete
コメント怖い
1
10
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信