中編4
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歌の古本

古本屋で小学校の時に使ってたのと同じ歌の本を見つけて、なんだか懐かしいような気分になって思わず購入。『あの青い空のように』や『グリーングリーン』といった当時好きだった歌が昔と全く同じ体裁で掲載されていて、家で一曲一曲思い出しながら歌ってみた。

当時一番のお気に入りだった『気球に乗ってどこまでも』の頁を開いた。右下に余白があり、そこにいたずら書きがされていた。いかにも小学生が少女漫画を真似て書いたようなヘタッぴな絵で、男の子と女の子が描かれていた。

男の子の方には「さとるくん」と書いてあった。シャツに「3」と書いてあった。女の子の方には何も書いていなかった。僕はちょっと笑った。僕の名前もさとるだ。ほとんど消えてしまっていて読めなかったので気にしていなかったのだが、もう一度裏表紙の持ち主の名前を見てみた。

○木(本?)△子。

小学生の時にそれと似た名前の女の子はクラスに二人居た。一人は高木秀子。名前は覚えているが顔はほとんど覚えていない。もう一人は仲本順子。こっちは良く顔を覚えている。なぜなら初恋の相手だからだ。

僕はちょっとドキドキした。妄想に近いある可能性を思ったからだ。もちろん、古本屋は小学校から程遠い都会にあるし、歌本は恐らく日本中に出回っているものなので、ありえないことなのではあるが、あの仲本順子が僕のことを絵に描き、音楽の授業中にいつも見ていたとしたら・・・。

なんだか甘酸っぱい気分になりながら、次のページを開いた。次のページは『大きなのっぽの古時計』だった。その余白にも男の子と女の子の絵があった。テーブルで一緒に御飯を食べている絵だった。テーブルの上には御飯と味噌汁と魚が描かれていた。

次のページは『翼をください』。男の子と女の子、そして赤ん坊が描かれていた。どうやら元の持ち主は結婚を夢見ていたらしい。

次頁は『この道』。男の子と女の子の絵が描いてあるのだが、女の子の顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。クラスメートにいたずらされたのか、それとも自分でやったのだろうか?

次頁は『早春賦』。男の子は描かれておらず、女の子が泣いていた。テーブルの上に芋虫のようなものが描かれていた。一体何が起こったんだろうか?想像が膨らんだ。

次頁は『あの素晴らしい愛をもう一度』。悪趣味にも、葬式の祭壇のようなものが描かれていた。もう男の子も女の子も居なかった。歌本のいたずら書きはそれで終わりだった。

まさかとは思いながら卒業アルバムを引っ張り出してみた。仲本順子・・・、久々に写真でみてもいまだに胸がときめく。初恋だからしょうがない。やっぱり可愛い。

高木秀子も探してみた。が、見当たらなかった。5年のときにクラスが変っていたはずだが、他のクラスにも写っていなかったし、名簿にも無かった。

気になって仕方が無かったので、当時PTA役員をやっていた母親に高木秀子を覚えているかどうか聞いてみた。

「覚えてるよ。でも、ほらあの子亡くなったでしょう、5年生のとき、事故で。」

すっかり忘れていた。そういえば女の子が亡くなってちょっと騒ぎになったことがあった。あれが高木だったのだ。母親は続けてこう言った。

「でも、ホントは自殺だったらしいわよ。警察の方で事故扱いにしてくれたんだって。かわいそうにねぇ」

それは初耳だった。嫌な予感が急に現実味を帯びてきた。

居ても立っても居られず、当時のクラスメイトの岡村に電話をした。岡村も自殺の噂は知っていた。全然関係ないことだけどと、彼はこう言った。

「そういえば、長島監督、大丈夫かね、お前ファンだったじゃん。いつも背番号3のジャイアンツTシャツ着ててさ。」

言われて思い出した。僕自身は全く興味なかったのだが、そういえば巨人ファンの父親が買ってきたTシャツを良く来ていた。そうするとやはりあの男の子は僕で、女の子は・・・。いや、まさか。

急に怖くなって手にしていた歌本を放り投げた。

「俺たち、あの子に悪いことしたよな。良くいじめてたじゃん。顔に習字の墨汁ぶちまけたりしたっけ。お前なんか、給食の中に毛虫いれたりしてさ。覚えてるだろ?」

もちろん忘れていた。そして、歌本は間違いなく高木秀子のものだと確信した。

おそらくは俺ら・・・いや、俺のせいで高木は自殺したんだ。うぬぼれかもしれないが高木は俺に好意を抱いていたのだろう。だがその相手からの非情な仕打ち。彼女は相当なショックだったに違いない。

俺は今更ながら罪悪感を感じた。部屋の隅に転がっている歌本を拾い上げた。ふと、最後のページが2枚重なっていることに気がついた。どうやら糊付けされているらしい。

嫌な予感がした。だが俺の手は自分の意と反してページを開こうとする。

ページが敗れないよう慎重に糊付けを剥がしていった。

そこにはこう書いてあったのは今まで書いてあった絵ではなく、乱暴に殴り書きされた文字だった。

「ずっと、さとるくんのそばに・・・」

どういうことだ、これは?高木は俺を恨んでいたんじゃないのか?

突然、部屋の電気が消えた。すると後ろから刺すような視線を感じた。

まさか・・・そう思った時、背後に気配を感じた。すると耳元で、今にも消えそうなか細い声でソレはささやいた。

「やっと気づいてくれた・・・」

その後、何が起こったのかまったく覚えていない。気がついたときには夜中だった。

あの声が高木秀子だったのかどうか定かではないが、俺は彼女だと確信している。おそらく今も、これからも俺のそばにいるのだろう。

俺は、いつか彼女に取り殺されるかもしれない。毎日そんなことを考え、恐怖しながらすごしている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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