短編2
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美大生

ある日、いつものように大学で講義を受け

ふと帰ろうとした時

仲のいい友人の背中が目にとまり、そいつに話しかけた

しかし、その友人はいつもの雰囲気とは違い

暗くどんよりとした顔をしていた

何かあったのか?と聞くと友人は頷いた

そして

校内のベンチに2人で座ると友人は話を切り出した

「高校の時の友達が殺人で捕まった」

ーーーーーー

友人の話によると

その殺人で捕まった男

仮にKとしよう

Kは高校の頃にいつもつるんでいた友達で

家も近所だったそうだ

Kはサッカー部で部のエース的な存在で

県の選抜チームにも選ばれるほどだった

しかし、絵を描くことが大好きでいつも絵を描いていて、実際に絵の才能にも恵まれていたそうだ

そして、大学進学の時

Kは大学のスポーツ推薦を断り

親の反対を押し切り美大に進んだ

しかし、彼を待っていたのは悲しい現実だった

上には上がいる

美大には自分程度の才能を持った人間なんてゴロゴロいる

寧ろ自分は下から数えた方が早いほどだ

Kは絶望した

自分の才能、技術に

大学に入ってからの彼の口癖は

「中学高校からもっと絵の勉強をしていれば・・・」

だったそうだ

そして、自分の乏しい才能に苦悩し

Kは家に引きこもるようになった

Kの両親は彼が小学生の時に離婚して

父親との二人暮らしだった

家に引きこもる息子に対し、元から美大への進学を反対していた父は厳しく当たった

2人はいつも喧嘩していた

その声は近所に響き渡るほどだったそうだ

自分の才能の限界

認めてくれない親

どうにもならない現実に彼の精神は削られていった

そして

ついに事件は起こった

・・・

近くの警察署に電話が掛かってきた

それに出ると受話器から弱々しい声で聞こえてきた

「親を刺しました」

・・・

その一報を受け駆けつけた警官は

血にまみれ倒れているKの父を発見した

そして家の中を探すと

見まみれのKが

自分の部屋でキャンバスに向かい絵を描いていた

ーーーーーー

話が終わり、友人は俯いた

昔からの親友のその惨事に大変ショックを受けているようだ

Kは父を殺した時に何を想ったのだろう

何を想ってキャンバスの前に立っていたのだろう

父を殺したその手で何を描こうとしていたのだろう

到底、自分の感覚ではKの想いを慮る事は出来ない

僕はベンチの隣で俯く友人にかける言葉が見つからず

ただ黙って座っている事しか出来なかった

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