短編2
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がんぎゅえんてたい

私には4歳になる娘がいる。

最近のマイブームは空想上のお友達とお話する事。

「ヒノハ、ミムム、ブぺー。」

どうやら今日は3人のお友達とお話しているらしい。初めての子育て。最初は何が起きているのか理解出来ず戸惑った。何か得体の知れないものが娘には見えているのかと怖かった。しかし、近所のママ友達に相談したところ、幼い子供にはよくある事らしい。

『子供の心が成長している証なのよ。』

そう言われてからは温かい目で見守っていられるようになった。

「しーちゃん?今日は誰とお話ししてたの?」

「きょうは、ヒノハとミムムとブペ!」

「そっかー。何のお話してたの?」

「てらびのはなしだよ!」

「テレビ見てたのかー。楽しいねー。」

買い物に向かう道程を娘と手を繋ぎながら歩く。娘が見た事あった事を聞きながら。

「まま、がんぎゅえんてたい!」

それは、初めて聞く言葉だった。

「がんぎゅ?」

「がんぎゅえんてたい!」

どう言った意味合いの言葉か私にはさっぱりわからない。まだまだ言い間違いの多いお年頃。言葉の意味を拾うのにも一苦労だ。

「がんぎゅえんてたいってなぁに?」

「もー!がんぎゅ!」

そう叫んだっきり、伝わらない苛立ちからか娘はすっかり不貞腐れてしまった。

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あれからと言うもの、娘は度々私に例の言葉を伝えてくるようになった。相変わらずその意味は私には解らない。解ったことは、それは、おじさんが教えてくれた言葉だということ。

娘は今ダイニングテーブルの下で一人おままごとをしている。いや、娘にとっては一人ではないのだろう。ふと、リビングで雑誌を見ていた私のところへ娘が走って来て声を掛けた。

「まま、がんぎゅ!」

そう言って差し出された娘の手にはおもちゃが握られている。

「がんぎゅ?」

「こーれ!」

娘が苛立たしげにおもちゃを私に差し出しながら言う。

「がんぎゅ!」

おもちゃ…がんぎゅ…がんぎゅ…?

携帯の検索機能には引っ掛からない。

がんぎゅ…がんぐ…?

がんぐ−玩具−

何故、娘はこんな言葉を使うのか、娘にこれを教えたおじさんは誰なのか、私は急に怖くなった。

「しーちゃん…おじさん、てどんな人…?」

「真っ黒のグシャグシャ。」

「おじさん…どこにいる?」

薄暗いダイニングテーブルの下を指差し言う。

「ここ。」

私には見えない。

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mamiさん

ありがとうございます。
『がんぎゅえんてたい』は細く分けると
がんぎゅ=玩具
えん=円
てたい=とーたい=ちょうだい
になります。

母はこの意味を知って当時とても怖かったそうです笑

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