長編9
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一日未満の彼女

なんだ?この沈黙は?

深夜の後輩A子からの電話。

電話をとったものの挨拶を交わしたきり未だ向こうから何も応答がない

もう30分以上ずっとこんな感じだ。

今日A子とある出来事があったせいもあり早く電話を切りたい。

数分感覚で

「どうした?なんかあったんか?」

と聞いてみるも、ずっとこの調子である。

何が何だかわからないが俺はかつてないほどの緊張感を感じていた。

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この緊張感はイオンでバイトしていた時、窃盗犯に間違われ警察署で状況説明させられた時と同じくらい、いやそれ以上だろうか。(犯人が見つかり、疑いは晴れた。)

俺は流石に耐えられなくなり、謝って電話を切ろうと考えた。

すると向こうから嗚咽が聞こえ始めた。

急展開に戸惑う俺。

「え、どうした??泣いてるのか?」

しばしの沈黙のあと

「せんぱ~い、、好きなんです、、!」

「え!?は!?」

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なんで??

知り合ってからまだ一週間くらい。人間が人に恋を抱く時間にしてはあまりに短い。

一目ぼれというものが世の中にはあるようだがそれはありえない。謙遜とかそういう意図は一切なく鏡を見ると自分の容姿がいかに平凡なものかわかる。勘違いできるほど能天気な性格でなく加えて非モテ男の象徴「童貞」である。

俺は意味が分からないので彼女との出会いから今までを振り返ってみることにした。

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ーある日のことー

俺はサークルで月に数回行われる定期ライブにボーカルとして参加していた。

ライブといっても所詮学生がする、客も少ない内輪で盛り上がって終わり、最後に飲み会やって現地解散みたいな味気ないものであったが。

俺はいつかのこのライブでA子と出会うことになる。

A子はお客さんとして参加してくれていた。

髪は短く、身体はかなりのスレンダーで、芸能人でいうと能年玲奈(代表作、あまちゃん)似のいかにも大人しそうな風貌であったが周りが引くほどのヘドバンを披露していて、

ライブ後、バンドメンバーの話の話題になった。

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「あの子、凄かったなww見た目からは想像できひんぐらい激しすぎやろww」

メンバーで一番アホなドラムのやつが笑いながらいう。

「まあ、多少イッてる感はあるけど楽しんでもらえて何よりやん?」

ギター担当でサークル随一の優男イケメンがそういうと、みんな彼の意見に同調した。

俺も彼の意見と同じで第一印象はちょっと変わった子程度であり、楽しんでくれたようで満足していた。

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ライブ会場を出るとA子が自分たちに駆け寄ってきた。

ヘドバンの姿からは想像できないあどけない笑みで

「楽しかったです!かっこよかったです!私もサークルに入っていいですか?」

と本当にうれしそうに述べる。

自分としても、こんなに褒めてくれて断る理由がない。むしろ歓迎である。

サークル会長である俺は快諾した。その際どの楽器を担当したいのか聞くと、

「何もしません。ただ一緒にみなさんのライブや他のイベントに参加させてもらうだけで結構です。」

なるほど、そういう参加者もアリだなということで彼女もこれでサークルの一員となった。

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その後、他のメンバーと混ざる形で彼女も共に居酒屋に行き、帰り道が、

俺と途中まで一緒だというので帰宅を共にした。

彼女は初めのヘドバンの狂気を感じさせた印象から一転し、社交的な性格で人懐っこく話しやすい人物であったので居酒屋での会話で早くも他メンバーと打ち解け、概ねみんなから高評価をえていた。

自分もそのうちの一人であり、良き後輩が入ってくれたことに喜びを感じていた。

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帰り道、A子と他愛もない会話をしていると自分の最寄り駅に着いたので、俺は別れを切り出した。

「今日は来てくれてありがとう。これからよろしく。」

「はい!とても楽しかったです。○○先輩が優しい人でよかったです。これからよろしくお願いしますね!」

○○とは俺のことだ。

なんだ、普通に礼儀正しくて可愛い女の子ではないか、素直に俺はそう感じていた。

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しかし、その夜から俺は早朝、朝、昼、夜、深夜問わず大量のラインを受信することになる。(A子はバイトをしているので、その時間帯はさすがに送られてこなかった)

内容はしょうもない、普通の他愛もないものであったが

この子いつ寝てるんだ?

そう感じるほど絶え間なく送られてきた。

俺が返信すると待ち構えていたといった感じで数秒のうちに返ってくるので、俺も早く返してあげないといけないのか

という焦燥感を感じ、普段より早いペースで返信した。

後にだんだん面倒になってきた俺は未読無視をするようになると今度は電話着信がたまることになり、さらにラインには

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「先輩、どうしたんですか?せんぱい、せんぱーい?」

「私のこと嫌いですか?ごめんなさい、許してください」

という感じの催促メッセージがたまる。

たまらず俺が返信を返すと、またいつものように普通の会話を連打してくる。

正に負の連鎖。どうしようもない。

かといってせっかく新しく入ってきた後輩を邪険に扱えるほど俺は、神経の図太さは持ち合わせておらず、なまじサークルメンバーのA子の評価が高かったため俺は、仕方なく彼女に合わせて返信していた。

他のメンバーはA子からの異常なライン攻撃は受けていないようであった。

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この地獄の時間はいつまで続くのだろうか。

どうにかしてうまいこと言葉を弄し、A子の行為を辞めさせることができたなら

そう毎日考えていたある日

「先輩、相談があるんで空いてる時間ありますか?空き教室で明日二人で話したいんですけど」

A子からラインが来た。

正直、行きたくなかったが、未だ状況の打開策が思いつかない俺はしぶしぶながら了承した。

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夕方の空き教室、A子と二人きりで会った。

「私、塾講やってるんですけど、数学全然わからないのに教えないといけなくて。先輩に教えてもらいたいんです。」

なんだ

そんなことか

正直このころA子に狂気を感じていた俺は、普通の要件であることにまず安堵した。だが、

「俺は英文科やし、数学は全然できひんねん。ごめんやけど他に頼んでくれへん?」

すると間髪入れず

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「先輩にお願いしたいんです!!」

「いや、、そう言われても知識ないからなあ、、」

正直、知識の有無に関わらずA子に教えるなど御免で身体がもたなかったこともあり明確に拒否した。そもそも俺に送り付けるラインを減らし勉強に集中すればいい話ではないのか。それでもなおA子は引き下がらない

「教えてくれますよね?」

「いや、、でも」

「教えてくれるよね」

声のトーンが徐々に低くなる。俺が次どう言うべきか、どう言えば彼女は引き下がるだろうかを考えていると、彼女は突然泣きだし、自分語りを始めた。

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「私は親に愛されないで生きてきました。周りの人間も必ず最後には私から離れていきます。つい最近も彼氏から突然別れを切り出されました。毎日、死にたいと思わない日はないです」

こんな感じのことを言っていたと思う。

前の彼氏は年の差20以上あったようだ。

「でも先輩はこんな私に優しくしてくれます。先輩は優しいです」

最後に彼女はこう言った。

正直特別なA子とのイベントはなく、ラインをしていただけで、会ったばかりの俺のどこにそこまで感激をするほどの優しさを見出したのか皆目見当もつかなかったが、

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彼女の不遇な過去を聞いているうちに、彼女に対して「ほっとけない、可哀想だ」という思いを抱いたことも事実だった。

今までの異常なほど俺を引き留めようとする大量のライン、電話、彼女の過去が関係していると思うと納得がいく。

狂気を感じることに変わりはないが根は非常に純粋な子なのだろう、この時そう思った。

彼女は自分を語り終え、俺の優しさを称賛したあと次に仰天の言葉を述べた。

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「先輩、抱いてください、、」

頭が追い付かなかった。なぜ勉強の教えを請うた後、このような展開になってしまっているのか訳がわからず、奇妙であった。まずここは学校の教室であるという点もわすれてはならない。

頭の中では、彼女は過去の辛い思いのせいで病んでいるんだなと理解しつつも、彼女の想いには当たり前だが、答えることはできない、

彼女に対して「可哀想で純粋な子だ」と思うことはできるようになったが恋愛感情は微塵もない。

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俺はごめん、とA子に謝ったあと、逃げるように教室をでた。

その日の深夜、普通なら人が熟睡している時間、彼女から電話がかかってきた。

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ー冒頭に戻るー

なるほど、いくら鈍感な俺でも、今までのA子の行動、言動を考察すれば彼女は俺に恋愛感情を抱いていたというのはわかる。

だが告白の返事、答えは「No」だ。まず、会ってからの期間が短すぎてA子について分かったことといえば否定的なものしかない。過去話を聞いてから、「ほっとけない、危なっかしい」ので見ておかなければならないという感情はある。しかし

何よりも、、、やはり、怖い。

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「A子、ごめんな。気持ちは嬉しいし、俺のことを慕ってくれてるのは分かるけど、お前とは付き合え、、」

「付き合ってほしいです。」

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またこれか。威圧的な低い声のトーン。

俺の言葉にかぶせるように彼女が言う。

だが俺もこればかりは譲れない。

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「本当にごめん。悪いけど、、」

「先輩は見捨てないよね。先輩ですもんね」

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電話の向こうから何かカチ、カチ、と何かを打ち付けるような、擦り付けるような音が聞こえ始めた。

刃物じゃないだろうな

まさか俺が振ったショックでリストカット、よもや自殺、

果ては俺を殺すつもりか?

普通の人間との会話ならこんなこと考えるなんてありえないが、A子の狂気を体感していた俺はどうかしていたのか、そんなことを思ってしまった。

そして

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条件反射的に告白を受け入れてしまった。

電話口から喜びの言葉が聞こえる。

「ありがとうございます!やはり先輩は優しいですね。私達はこれでずっと一緒にいれますね」

この言葉を聞いた後、俺は自分がとんでもないことをやらかしてしまったことに改めて気づき、力なく電話を切った。

これから俺はどうなってしまうのだろうか。そのことばかりが頭を巡る。

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その後もいつものごとくラインが送られてきたが今回ばかりは返す気にはなれず、俺は布団の中でこれからに思いを馳せた。

メンヘラとは裏を返せば愛情が深いこと、根は純粋で傷つきやすいこと

顔は整っていて美少女と言って差し支えないこと

彼女が辛い過去を持っていて可哀想な事

俺に対する思いは本物なのではないか

そのようなことを考え抜き、俺が何とかして過去を克服してさえあげれば、可愛い彼女にもどるのではないか

必死に自分に暗示をかけ、「A子と恋人」になったことを受け入れようとした。

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一通り考えがまとまったあと、俺は疲れからか熟睡した。

朝目覚めた後、大量のA子からのラインを最後の方だけ確認し、返信する。

いつものようにすぐにかえってくるかと思いきや中々返信がこない。

珍しいなと思いながらも自由な時間を過ごしていた。

夜、ようやくA子から一通のラインがきた。

「先輩、ごめんね。○○さんからやり直そうって言われちゃった。先輩との時間、私は幸せだったよ」

たった一通

この簡素な文章のみで俺は別れをつげられた。20以上歳の離れた男を選んだようだ。

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「そうか」

それだけ返信し、もうサークルのこととか何もかも省みずその女をブロックした。

それからその女はサークル、俺の前に姿を現すことはなくなった。

俺の葛藤とは一体なんだったのだろうか。

疲れ、怒り、安堵、様々な感情が自分の中で入り乱れる。

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ちなみにこの「一日未満の彼女」から別れのラインが来た日の深夜、私の前作である「たばこくれません?」のおばはんが現れる。

俺は二重苦を味わい、本当に厄日もいいところである。

が、今となっては笑い話であり、いずれにせよ生涯この日を忘れることはないだろう。

Concrete
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(-ω-)
なんだろね(笑)
実はオバハンはその子の親かも!
それか、彼女の年上彼氏の奥さんで彼女が原因で狂った!
で、湾曲してキャトラさんに行き着いた!
とか…
以上!邪推でした~

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