長編8
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「おい!関本!またかよ?

同じ事を何度も言わせるな」

「すいません!気をつけます」

はぁー。

またかよ…って自分で自分が嫌になる。

て事は、周りの人間はもっとイラついてんだろうなぁ。

とか思うと胃がキリッという。

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ドンッ---

「痛ッ!おい、どこに目つけてんだよ?気をつけろ!」

「すいません!」

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最近の俺は、本当に何もかもがうまくいかない。

少し前の俺は仕事ではエリート街道まっしぐらだった。

それが今では大きなミスを連続してやらかし、肩身の狭い役職のない雑用係。

影では給料泥棒なんて言われてる。

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少し前の俺のプライベートと言えば、道を歩けば、芸能関係者の人からスカウトされたり、逆ナンされたりと悪い気はしない事ばかりだった。

それが今では犬のフンやガムを踏んだり、ガラの悪い人にぶつかって慰謝料請求されたりと最悪な事ばかりだ。

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とにかく俺は寝不足だ。

ここ3ヶ月程、まともに寝れていない。

俺の不幸の原因はここにある。

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こんな話したって誰も信じてくれないし、頭がイカれたと思われたくないから誰にも話さない。

『夢の中で女に追いかけられて寝れない』

なんて。

これは全然笑えないマジな話で。

マジでヤバイんだ。

人間は睡眠を取らなきゃ頭が機能しない。

寝たくはないけど、眠くなるのは生理現象で。

今夜もまたあの女と追いかけっこの始まりだ。

帰宅してコンビニ弁当を食べ、お風呂に入って眠くなるまでテレビを見る。

ウトウトしてきた。

いい時間になりベッドに入る。

いざ!

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「だよなー」

そう言って頭をガシガシと掻く。

辺りを見渡すと今回は俺の家から10分ほど歩いたところの公園にいるようだ。

これは追いかけっこスタートの合図だ。

タッタッタッタッタッタッ

来た来た

タッタッタッタッタッタッ

小走りの足音が聞こえてくる。

「やべ!」

思ったより近くから現れて焦った。

俺を追いかけてくるこの女。

前髪は顔が隠れるほど長く、黒髪のロングヘアで赤黒いノースリーブのワンピースを着ていて裸足でいつも小走り。

両手はスカートをつまんでいる。

毎回始まる場所も現れるところも違う。

ただ、場所は現実と全く同じ作りで、公園や町並み、景色、全てがリアルだ。

この追いかけっこは自宅に着けば終わる。

ただそれをなかなか許さないこの女。

しかし今日はラッキーだ。

家まで近い所からスタートだ。

遠い時で2時間なんて時もあった。

電車やバスは夢の中では走ってない。

通行人もいない。

この世界に俺と女だけのようだ。

気色悪い事この上ない。

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ルールなんてものはない。

【逃げ続けなければ死ぬ】

【自宅に入れば目が覚める】

この二点だけは分かる。

だが、なぜか夢とはいえ疲れるのは現実と一緒だ。

息も上がるし、脇腹も痛くなる。

心臓も痛いし喉も乾くし汗だってかく。

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タッタッタッタッタッタッ

この女…一体誰なんだ?

顔や表情が見えないから怖さ倍増だ。

想像力が豊かな俺は髪の奥の顔を想像してはビビる。

女は小走りの癖になかなか早い。

俺もさらにスピードを上げる。

俺の家まであと100mってところか。

タタタタタタタタ

「…くっ!!」

自宅まであと少しのところで女が決まって速度を上げる。

ガチャ---バタンッ----!

「はぁはぁはぁはぁ…勝った…」

心臓がバクバクと跳ね上がり、息も絶え絶えだ。

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「ハッ!」

…よし、今日も逃げ切った…

自宅に入ると決まって目を覚ます。

夢の中で走った時間は関係ない。

長時間走っても短時間走っても必ず朝6時。

だが、最近俺は現実に戻ったと分かっても目を開けるのが怖い。

そこに女がいたらと思うとゾッとするからだ。

ゆっくりと目を開ける。

「…ふぅ。いない…」

こんな事を3ヶ月毎晩続けているのだ。

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正直しんどい。

この追いかけっこが始まって半月で現実に支障が出始め、今では前述の通り。

心なしか夢の中での俺も疲れがたまり身体が重く走れなくなってきている。

今日は10分程度の距離だったのにあの息切れときたもんだ。

こりゃあ今度1時間とかの場所とかだったら完全アウトだ。

くそ。

そもそもあの女は一体誰なんだよ。

3ヶ月前から始まったあの夢はなんなんだ?

3ヶ月前といったら……

全く思い当たる節がない俺は旧友の今野に連絡した。

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「もしもし?関本?珍しいなー!

お前から電話なんて」

「あぁ、ちょっと聞きたいことあってな…」

「…あ、もしかしてどっかから聞いちゃった?」

「は?何を?」

「あ、いや!別に何でもないけどさ!で、どうしたよ?」

明らかに何かを隠してる様子だったが

正直俺は今、それどころじゃない。

とりあえず、今晩飲みながら会おうという話で電話を切った。

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「悪いな、時間作ってもらっちゃって…」

「いや、いいけどさ…お前大丈夫か?

少し見ない間に随分とやつれてないか?」

心配そうに俺の顔を覗き込む今野。

とりあえず乾杯して、ビールをグイッと一気に飲み干した俺。

「…俺が今から言う事、信じてくれるか?」

俺のただならぬ様子にいつもは茶化す今野も真面目な顔して頷いた。

覚悟を決めて俺は全てを今野に話した。

3ヶ月前から始まった夢。

仕事やプライベートでの散々な事。

出来る限り細かく話した。

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「それで、その追いかけてくる女が誰なのか全く分かんないんだよね…」

一通り話し終えて今野の顔をチラッと見た。

青ざめた顔で目を泳がせている今野。

明らかに何かを隠してる。

「おい、今野!何か知ってるなら教えてくれよ!」

今野は頭をわしゃわしゃ掻きむしってテーブルをドンと叩いた。

「まさかそんな事になってるなんて…」

「どう言う事だ?」

今野はまっすぐ俺を見て話し始めた。

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「…その女、夢の女は多分さっちゃんだよ。

サチって子!覚えてるだろ?」

「さっちゃん…サチ……、

ああ!ストーカー気味だった子ね!」

「…関本、悪い。

実はさっちゃん、ストーカー気味じゃなくて完全にお前のストーカーだったんだ。」

サチ、さっちゃんと呼ばれてる子は、今野の彼女の友達だ。

俺と今野カップル3人で飲んでた時に、俺に気を使って彼女さんが呼んでくれて知り合った。

番号とラインIDを交換してしばらくは今野の彼女の友達だし、邪険にもできず連絡も取り合ったりしてたけど、正直タイプじゃなかったし2人で会う事もしなかった。

何度か誘われたけど仕事だと嘘をついて断った。

ラインも俺が既読をつけて数分経つとまた鳴った。

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既読《いつもお仕事お疲れ様です!》

既読《今日も帰りは遅いのですか?》

既読《外でお食事無理なら私作りますよ!》

《大丈夫です。気持ちだけで。》既読

既読《気持ちはたくさん入ってます!》

《おかえりなさい》

《今日遅いと言ってたのに》

《女性とお約束でしたか?》

《でも大丈夫です》

《待つのは嫌いじゃないので》

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この時、いい感じになってた女性を自宅に招いた時に届いていたラインの内容…

こんな重たいラインが鳴るたびに胃の辺りがギュっと締め付けられた。

流石にちょっとヤバイと思い、ラインはブロックした。

すると俺がやってるSNS全てにさっちゃんからメッセージ友達申請が届いた。

それも全て無視していたら音沙汰がなくなったのでもう諦めてくれたのだと思っていた。

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「…さっちゃん、彼女のSNSから俺辿ってお前見つけたり、関本の住所を俺から聞き出してくれとか、関本の話を聞きたいから俺に会わせろとか彼女も結構参っててさ…」

申し訳なさそうに俯いてる今野。

「紹介したのは自分だから、さっちゃんがストーカーになってるから気をつけろとも言えないって悩んでて。

自分でなんとかするしかないって彼女がさっちゃん呼び出したんだ。」

「…それで?」

「関本は今、付き合ってる女性がいるってさっちゃんに言ったら、知ってるって。一緒に自宅に入ってくの見たからって。

でも待つのは嫌いじゃないからって伝えたし、最終的に私を選んでくれれば問題ないって…さっちゃんは全然堪えてなくて彼女も焦って…」

ジンワリと額に滲んだ汗をおしぼりで拭き取りながら話を続ける今野。

「その彼女とは結婚が決まってるって言ったんだ。

そしたらさっちゃん目が血走って

『そんなの絶対に許さない』

店を飛び出したって…」

俺の知らないところでそんな怖い事が起きてたなんて…

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あれ?

「でも、さっちゃんて髪の毛茶髪で肩くらいまでの長さじゃなかった?」

夢の女とは違う…

「初めてあったときに関本が言ったんだろ?黒髪のロングヘアの女性が好きだって。

その日からさっちゃん髪黒くして伸ばしてたんだよ。

エクステつけたりして…」

背筋がゾッとした。

まさか本当にさっちゃんなのか?

「だとしたら、さっちゃんに伝えてくれよ!結婚なんて嘘だからって!

もうあんな夢ウンザリだよ!」

今野は俺から視線を逸らした。

「無理だよ…」

「なんでだよ!!頼むよ!!」

「…死んだんだ。店を飛び出した後…車に轢かれて…」

今野が言うには、

店を飛び出したさっちゃんを今野と彼女が追いかけたらしい。

さっちゃんが向かってる方向は俺の家。

このままじゃまずいと思ったその時、道路に飛び出したさっちゃんは車に跳ね飛ばれた。

即死だった。

轢かれた衝撃でかなり遠くまで飛ばされ、

履いてた靴は脱げ、

着ていた白いワンピースも血で染まって赤黒く染まっていたらしい。

もうあの女そのまんまだ。

「…それでな、警察がさっちゃんの荷物確認したらカバンの中からサバイバルナイフが出てきたらしい…」

眉間にシワを寄せる今野。

「…きっとお前に何かするつもりだったんだろうけど…さっちゃんはもう死んだ…だからもうこの事は関本にも言わないでおこうと彼女と決めたんだ。

…なのにお前は未だに…」

悔しそうにテーブルをドンと叩き、すまなかったと涙を流した今野。

驚いた。

15年以上の仲だが涙なんて一度も見た事がなかったから。

「…ありがとな、今野。

俺の為に泣いてくれる友達がいる事が分かっただけでも嬉しいよ」

「冗談じゃねーよ!マジで大丈夫なのかよ!お祓いとか供養とかなんかした方がいいんじゃねーのか?俺も着いてくからさ!」

今野はそれ以降ずっとお祓い行こうとそればかり言ってその日はとりあえず解散した。

お祓いも行ってみようか…

さて……

帰宅してサッとシャワーを浴びて、アルコールを摂取しているせいでかなり眠い。

早々にベッドへ。

慣れとは怖いもんで…

今夜もまたあの女と追いかけっこの始まりだ。

そんな調子で眠りについた…

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「…嘘だろ……」

気がつくとそこは自宅まで走って3時間以上はかかる海辺にいた。

タッタッタッタッタッタッ

追いかけっこの始まりだ。

Concrete
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@車猫次郎 様、コメントありがとうございますm(_ _)m
そうなんですよねー。
あえて終わりを作らない方が想像力が膨らむかなと思ったのでこんな形のお話に仕上がりました(。・・。)

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