中編6
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お参り

8月下旬

『先生は、"幽霊"や"心霊現象"って信じますか?』

先生と呼ばれる男、ここはある大学の研究室。

「そうだね〜、俺は信じるよ。」

先生と呼ばれる男は20代後半で世間では減少しつつある喫煙者の1人だ。

『科学の一部を扱うのにそういったものを信じるんですか?』

コポコポとコーヒーメーカーからコップへと注ぎながら彼は答える。

「科学者の多くは確かにそういったものは信じないね。当然さ、生き物は念や想いといったもので存在出来ないからね。身体という質量があり、食事をエネルギーとして消費するからこそ人は存在し活動するんだから。念や想いで存在し続けることができるなら資源のいらない、ある意味科学者の夢の1つである永久機関となる。

そんなものは存在するわけがない。故に幽霊なんてものは存在し得ない。

心霊現象も似たようなもんさ。」

『確かに。そう言われてしまったら反論できないんですよね。』

「悪魔の証明。って知ってる?」

『悪魔の証明?』

「うん。"存在しないこと、起きないこと"を証明するのは、"存在する、起きる"を証明するより難しいってことなんだ。詳しくは自分で調べてみなね。」

『幽霊が存在しないことを証明することは、幽霊が存在することを証明するより難しいから先生は幽霊を信じるんですか?』

「ん〜、そこについては少し違うんだけどね。

科学で全ての事象が証明される。これは必要なことだとは思う。けど、それじゃぁつまらないと思うんだ。」

先生はコーヒーを一口飲んでいた。

『つまらない?』

「うん。つまらない。そして、おこがましいとも思う。人間は猿が進化しただけに過ぎないただ一種族さ。そんな人間がこの地球で起こる全てを解明しようなんておこがましいよ。」

『科学者であり、研究者である先生がそんなこと言っちゃいます?』

この人は本当に変わってると私は思う。

「ははっ。科学者であり、研究者だからこそだよ。もし、この地球で起こること全て解明されて本にでも纏められちゃったら俺研究することなくなって無職になってしまうよ〜」

そんなことを言いながら先生は笑っていた。

『確かに、その通りですね。』

「それにさ、どう考えてもわからない。あり得ないはずなのにあり得ている。そこに俺はロマンを感じるんだ。死んでもなお、何かを伝えたくて何かを為し得たくて存在出来ている。そんなことがあってもいいと思う。

恋愛映画のセリフじゃないけど、"死んでも君の側にいる。"怖いっちゃ怖いけどそんなことがあってもいいと思う。」

『場合によっては本当に怖いですね。死を乗り越えて新しい恋愛に踏み出したのに、死んだ相手が側に入られては迷惑かもしれません。』

はい。と、先生は私にもコーヒーを淹れてくれた。

「そうそう。場合によやめて欲しいな。けど、そう思うことで、そうあることで救われる人がいる事もまた事実だろうね。人の想いとはワガママだねぇ。」

『ありがとうございます。そうですね〜。』

と、話をしていると

バンッと研究室のドアが開いた。

《お疲れ様です!!静流ちゃん!!あ!先生もいて良かった!!これ見てください!!》

と、勢いよく研究室に入って来たのはこの研究室所属で同期の小夜美。

「元気がいいねぇ〜。どうたんだい?」

小夜美は一枚の写真を取り出した。

『この写真がどおしたの?』

見せられたのはよくある川辺で遊んでいるときに撮ったであろう家族写真だった。

《ここ!私とお母さんの間に女の顔が!》

「おぉ、本当だ。心霊写真?」

先生が写真を手にとって眺めている。

見終えた先生が、はい。と私に渡してくれた。

確かに、言われた通り。女性の顔が浮かんでいる。

『この人に見覚えは?』

《あるような…》

先生はうーん。と何かを考えながら煙草に火をつけた。

ここは、今時の大学としては非常に珍しい喫煙可能な部屋である。

《この写真撮ってから妙に視線を感じたり、頭が痛かったり、変な声や音が家の中でするようになったの。》

小夜美は神妙な顔で話す。

『それは怖いね…。』

ガタッと席を立った先生は私の後ろにある棚からゴソゴソと別の銘柄のコーヒー豆を取り出していた。

《え?ほら!?今も声が聞こえる!!》

小夜美がそう言いだし、辺りを見回す。

『え?なにもきこえないよ?』

《え!?聞こえなくなった。》

そんな話をしている間に先生は、新しいコーヒーを淹れるべく準備をしていた。

「ここでもしたのかい?」

《はい!嘘じゃないですよ!?》

「大丈夫。疑ってないよ。もしかしたら、母方のお婆さんのお墓参りとかに行ってないんじゃない?」

《え?…そうですね。行ってないですね。先生何か分かるんですか?!》

「いや、何もわからないけどさ。こういうのってだいたいご先祖様が怒ってる。とかそういうのが多いじゃない。お婆さんの顔って覚えてる?」

《いや、おばあちゃんは私が生まれる前になくなったから。》

「じゃぁ、お名前は?」

《それも…》

「誕生日や命日は?」

小夜美は思い出せないでいるようだった。

《お墓参りもしてなくて、おばあちゃん怒ったのかなぁ…今週末お墓参り行ってきます!》

小夜美はそう言った。

1週間後。

《お墓参りに行ってから頭痛とか声が聞こえたりがなくなりました!!バイト行ってきます!》

そう言って小夜美は研究室を飛び出して行った。

『先生。幽霊が見えるんですか?声が聞こえたり。』

「まさか。」

『じゃぁ、何で小夜美は起こってたことがなくなったんですかね。』

「それについては、プラシーボ効果もあると思うよ。」

『え?………先生、何かしました?』

ズズッとコーヒーを飲み。

「俺がしたのは罪悪感を煽っただけだよ。」

『罪悪感?』

「うん。あれはお盆に撮られた写真だった。お盆ってのは水辺には近づいちゃいけない。

だけど、そういうとこで撮ってるならお盆休みに遊びに行ったんじゃないかな。それに、彼女も親御さんも都市部の生まれって前言ってたしね。ご両親の実家でないとこに行ってることも分かった。

お盆に遊びに行ってるなら墓参りは多分してないし、先週はお盆開けすぐだったし。」

『じゃぁ、声がするって言ってたのも?』

「あれは俺がタイマーでスマホから鳴らしたんだ。凄く小さな音でね。静流さんには聞こえないように後ろでゴソゴソ音立てたりしたんだ。」

『なるほど〜。』

「誰かに指摘され、掻き立てられた罪悪感だけど墓参りする事で解消した。これでお婆さんも許してくれるだろう。ってね、それで敏感になってた耳も落ち着いたのさ。聞こえてたのはただの家鳴りや風の音じゃないかな。何にしても、落ち着いたなら良かった。」

なんて先生は言っていた。

悪魔の証明。

墓参りに行っていない。と証明するには

墓参りに行った。という可能性を全て潰さなきゃいけない。

先生の説明には穴がある。

遊びに行って、帰ってすぐ墓参りに行った可能性もある。もし、墓参りに行ってたら先生の言うところの罪悪感を掻き立てるというのは根本的に崩れていた。

もし、証明するとしたら簡単な方法が一つある。

それは、墓の主に聞く事だ。

主が来ていないというのなら、それは本当に来ていない。

大きな穴があるのに先生は自信を持って、墓参りをしてないことを気づかせるために誘導した。

それに、「母方のおばあさん。」と言った。

小夜美の父方のお婆さんが存命かどうか私は知らない。

もし、父方のお婆さんが存命なら

おばあさん。

と言うだろう。あえて、母方の。と、つけたのは父方のお婆さんも亡くなっていると知っていたのだろうか。

否定していたが、本当は先生にはあの時何か見えていたのだろうか。

謎ばかりだ。

どれだけ考えても先生の真意は私にはわからない。

あの人のことだ

ワザと一貫しないような話し方をしたり、難しい言葉を並べて色々と煙に巻こうとしたのかもしれない。

なんて考えていると、研究室のドアが勢いよく開けられた。

【ちょっと!!また携帯にはでないし!何のために携帯持ってるのよ!!今日は買い物に付き合う約束だったでしょ?!】

と先生の友人がやって来た。

「びっくりした。あ、着信アリだわ。ごめんごめん、じゃあ俺今日は帰るね。施錠よろしくね。」

そう言って先生は連れていかれた。

卒業までにこの人の持つ謎を解明してみたい。と私は思った。

Concrete
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どちらかと言えば人怖なのかな?
久しぶりにサイトにやって来ましたが…
読んだ一作目がおもろい作品で出だしは順調です
(笑)
この後に異酒屋の短編も読んでいきたいと思います。
ではでは…

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