中編4
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二重自殺

親父が言っていた

ホテルに長く勤めると、見たくないものまで見る羽目になると

それは、自殺者の無惨な姿は、幽霊よりはるかに恐ろしく、トラウマになるという

これはホテルに長く勤めてきた親父が体験した、忘れられない事件だ

某有名ホテルでコック長を勤めていた親父は、ホテル内ではけっこうな地位の人間だった

だから、支配人不在のときはホテルの責任者という立場になる

その日も、支配人が不在だった

ある客がチェックインした、年齢は30代の男性

やたらボソボソとしゃべる、陰気な男だった

「明日のチェックアウトの時間まで絶対に、何があっても部屋には来ないでくれ

集中して仕事をしたいんだ」

それまでボソボソとしゃべっていた男だったがそのことだけは妙にハッキリと念を押した

フロントのスタッフも不思議には思ったが、作家などが泊まるときはこういうことを言う客もちょくちょくいたのでそれほど気にとめなかった

その深夜0時すぎ

男の部屋からフロントに内線がかかってきた

スタッフ「フロントでございます

どうかなさいましたでしょうか?」

男「・・・・・・」

フロント「お客様??」

男「・・・・・・・・・・・・」

フロント「どうかされま・・・」

男「チェックアウトまで絶対に部屋にこないでくれ」

男は遮るように言った

フロント「はい。承知いたしております

他のスタッフにも◯◯様のお部屋には伺わぬよう念を押しております」

男「・・・・支配人を出してくれ」

フロント「申し訳ありません、只今不在なので、代理の者をお呼びします」

親父「どうかなさいましたでしょうか?」

親父が電話に出ると

男「チェックアウトまで絶対に部屋にこないでくれ」

親父「かしこまりました

私からもスタッフに、そのように指示いたします

ご安心しておくつろぎくださいませ」

そういうと電話は切れた

フロント「あのお客様、なにかおかしくありませんか?」

親父「ホテルに勤めてれば、いろんなお客様がいらっしゃる

うちは高級ホテルだ、どんな方にも丁寧に対応するように、こちらの態度でお客様が気を悪くされては申し訳ない」

時間は午前1時を回ろうとしていた

翌朝、親父が事務室にいると、昨夜のフロントで電話対応していたスタッフが血相変えて飛び込んできた

スタッフ「◯◯◯号室のお客様が!部屋から飛び降りました!!!」

それはあの、チェックアウトまで絶対に部屋にくるなと言っていた男の部屋だった

親父「なに!?

間違いないのか?

救急車はよんだのか!?」

スタッフ「そ、それが、僕怖くて飛び降りるのを見ただけで、確認してなくて、、、」

スタッフは泣きそうになりながら言った

親父「バカ野郎!!

すぐに確認に行くぞ!案内しろ!」

二人は急いで落ちたであろう場所に向かった

しかし、

親父「どういうことだ?」

スタッフ「あの、僕、確かに、」

親父「なにもないじゃねぇか!」

そこにはなにもなかった

親父はスタッフをこっぴどく叱り仕事に戻った

それでもスタッフは確かに見たと、いいつづけていた

午前11時、男のチェックアウトの時間だ

しかしいくら待っても男は現れない

内線をかけても全く応答がなかった

仕方なく昨夜のスタッフが恐る恐る部屋に赴き扉をノックした

スタッフ「◯◯様、チェックアウトの時間でございます

◯◯様ー」

一向に返事がないので、親父が呼び出された、どうするべきかと考え

もしなかで具合が悪くて倒れていたりしたらまずいと、マスターキーで中に入ることに決めた

親父「失礼いたします

◯◯様、チェックアウトのお時間をすぎており・・・」

親父は部屋の中を見て、硬直した

そこには壁一面、床、天井にいたるまで、裸の女性の写真がびっしりとはりめぐらされていた、その異常な状況に混乱していた親父はあることに気づいた、異臭だ

部屋の異常さでわからなかったが、糞尿のような臭いがする

一緒にいたスタッフも思わず吐きそうになる

親父「◯◯様はどこだ?」

部屋の見える範囲にはいなかった

親父は中を調べる

すると、、、

男がいた、風呂場で、全裸で首を吊って死んでいた

臭いは男の足元からだった

首を吊ったことで、排泄物が全部出てしまったようだ

あまりの惨状に、親父は我慢できず、吐いてしまった

男は、確かに自殺していた、しかし飛び降りではなく、首吊りだ

もう訳がわからなかった

スタッフ「僕が見たのはなんだったんだよぉ

絶対飛び降りてたのに、確かに見たのに」

と泣きながら喚いていた

すぐに警察がきた

遺体を運び出し、事情聴取が始まった

警察の話では、男は身元のわかるものがなにもないということだった、ホテルの予約も偽名らしい

何者なのか全くわからない

親父はその客についてあったことを話した

そして、夜の内線のことを話すと、警察が妙な顔をした

警察「その時間に電話があったのは本当ですか?

別の客ではなく?」

親父「間違いありません

変わったお客様でしたので」

警察「おかしいな、検死の結果、死亡推定時刻は午後6時前後のはずなんだが、、、

検死のミスかもしれないが、いや、考えにくいか」

と首を捻る

親父は背筋が凍った

あの夜、内線なんてかけれるはずがない

ましてや、朝飛び降りるのも無理だ、そもそも男は首を吊って死んでいたじゃないか

いろいろなことが頭をよぎったがなにも結論は出ない

そして親父は思った

男が尋常でないことはあの部屋を見れば間違いない

首を吊って死んだ上に、死後も飛び降り自殺をした

二重の自殺までした男の人生に一体なにがあったのか、、、

それがわかることは、もう絶対にない

Concrete
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