中編6
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赤ちゃん人形

2歳の子供を亡くした。

産まれた時から身体が弱く、気を遣いながら育ててきたが、病には勝てず、病死してしまった。

妻は産んだ私の責任、私が悪いと自分を責め続け、うつ病を発症し、入院。

病院でも自殺未遂を繰り返し、私には手におえない状況が続いた。

月日が立ち

症状が緩和されてきたとこで、退院。

自宅療法が始まった。

しかし、私は仕事が忙しく、面倒を見る事ができず、帰宅するといつも真っ暗な部屋で、ブツブツと下を向き何かを呟く嫁を見てきた。

意思疎通も取れず、私もおかしくなりそうになっていた。

そんな中、新聞広告で目を引くものがあった。

お飯事に最適、赤ちゃん人形!!

しっかり泣いて、言葉も喋る!

こんな謳い文句が書いてある通販の広告を見つけた。

購入者のレビューだろうか。

その中に妻が笑うようなった。

このレビューに心を惹かれた。

そういえば約1年も妻の笑顔を見ていなかった。

半信半疑になりながらも、主治医に相談してみた。

主治医「時期的にも良いかもしれません。しかし、リスクがありますよ……?そこまでにならなきゃいいのですが……。」

「リスクですか?」

なんのリスクがあるかが分からなかった。

主治医「まあ大丈夫でしょう。状態は回復傾向にあるので試して見ても良いと思います。」

助言をいただき、

その日のうちに注文。

1週間後赤ちゃん人形が届いた。

大きなダンボールに密閉された赤ちゃん人形を出してみる。

なんだこれ。ガッカリした。

よく子供が持っている赤ちゃん人形とほぼ同じような物で、おまけに可愛くない。

これであの値段は無いだろ……。

後悔をしていた。

電池を入れて電源をONにする。

すると

おぎゃーーーーー!!!!!

突然大きな声で泣き始めた。

びっくりしてほおり投げてしまった。

説明書にはなだめるためには全身を撫でると静かになると書いてある。

言われた通りにすると、キャッキャと笑い始めた。

それがどう映るかは人それぞれだが、無表情で泣き、笑う人形。私は不気味に思えた。

ままー、ぱぱー。

精巧に作られており言葉をよく喋る。

ただ、機械音の様な感じ。

状況に応じていろんな言葉を話し、放置すると泣く設定になるらしい。

とりあえず電池を抜いて、明日妻に見せてみようと

ダンボールに戻し、その日はそのまま寝ることにした。寝室に向かうと妻はとっくに寝ており、涙を流しながら、「ごめんね」とうなされながら寝ていた。

どのくら時間が経ったのだろう。

飛び起きる様に目が覚めた。

時間は午前4時半。

赤ちゃんの泣き声がリビングから響いていた。

しまった!電池を抜き忘れたか!

いや抜いたはず!とリビングに向かうと

「いい子だねー。たくちゃん。あ、泣き止んだ泣き止んだ!寂しかったのかなー。ごめんねぇ。」

大事そうに赤ちゃん人形をあやしてる妻がいた。

異様な光景に言葉が中々出なかった。

「あ……それな、主治医の先生と相談して、買ってみたんだ。本当のたくちゃんじゃないけどお前が前みたいに戻ってくれればと思って……。」

たくちゃんとは亡くなった子供の名前だ。

妻「なんで、リビングなんかにほっとくのよ!?

ずっと泣いてたのよ!?信じられない!!

たくちゃんごめんねぇ」

妻のしっかりとした口調を久々に聞いたが、

あまりの剣幕に何も言えず立ち尽くしていた。

次の日からだ。

妻が笑うようになった。

食事は人形の分もつくられ、私が仕事の間、ベビーカーに乗せて買い物にも行ってるらしい。

妻「もー久々休みとってよねー!たくちゃんのお世話大変なんだから!育児手伝ってよー!」

「あー……。ごめんな……。有給とるか!笑」

となど言って誤魔化していたが、不安だった。

妻が元気になった。笑うようなった。

うつ病の気配すらなくなった。

それは望んでいた事。

ただ、いつまでこれが続くのか、本当にこの人形をたくちゃんと思い込んでいるのか……。

不安は徐々に増してく一方だった。

「いや、まずいですねー……。そこまでなるとは思わなかったですね……。うーん、区別ができないとは。」

主治医が頭を抱えるようにしながら言った。

主「私は、その人形を通して、本物ではないけど、

触れ合う事によって、今と昔の自分を見つめ直して、改めて新しいお子様を作りたいと思わせる予定だったのですが……。これはいけません」

主治医が慌ただしく説明する。

「早急にその生活を辞めさせないといけません。

それか人形だとわかってもらわないと、状況は悪くなる一方ですよ。」

そんな事言われても……。

後に引けない状況になっていた。

妻から人形を取り上げる。捨てる。隠す。

主治医が提案した対策だった。

なんとも無責任な話し、私も人形を買ったのが悪いがしっかり相談した。

もしこれを気に妻が自殺したら責任をとってくれるか問うと、言葉をつまらせ、下を向いた。

それからは

様子見の日が続いた。

人形が来て半年になろうとしていた。

服は毎日綺麗な物を着ていたが、人形の顔、髪は明らかに年季が入っていて、汚れているように感じた。

いつ、決行に出るか。

電池が切れたらか。

妻がいないときか。

ただ、妻が人形から離れる時間はなかった。

お風呂、トイレにまで一緒に持っていく。

今年中にはなんとか、と思っていた。

妻が親戚に会わせたいなど言っていたからだ。

それからして、

決行日は以外にも早くきた。

妻が1人で病院に行く日があった。

定期的なカウンセリングで、その時は1人で行かなければならない。

「じゃあたくちゃん行ってくるねぇー」

妻が笑みを浮かべて出ていった。

1人になり人形を改めて見る。

愛情がそそがれ過ぎたのか、1番最初に見た時より人間に近い表情に見えた。

バカだな。自分に気のせいと言い聞かせ。

電池を抜こうとした。

すると

ぱぱー

ビクッとした。

このタイミングでぱぱか……。

少し、罪悪感もあったが、気にしないようにした。

次の瞬間。

おぎゃー!!!!!!!!!

ぎゃーーーーー!!!!!!!

ぎゃあああああああ!!!!!

今まで聞いた事のないような、大声で突然泣き出した。

びっくりして、手元が狂い人形を落としても、泣き声は止まる気配はなく、泣き続けている。

恐怖すら感じ始め、とりあえず電池を抜こうと、

服を脱がし、焦った手つきで背中の電池を抜こうとした瞬間。

絶句した。

電池が入っていなかった。

う、うわぁーーーー!!!

腰を抜かしながら人形をほおり投げる。

自分の悲鳴がかき消されるほど人形は泣いている。

身体がガタガタ震えて立てない。

どうしようどうしようどうしようどうしよう

半狂乱になりながら、どうするかを考えた。

気づいた時には庭に穴を掘って、人形を埋めていた。まるで生きてる人間を生き埋めにしているように。

土が被っていく事に人形の泣き声は薄れ、赤ん坊の泣き声から悲鳴のように変わっていた。

どれくらいの深さで埋めたであろう。

辺りはシーンと静まり、人形の悲鳴も聞こえなくなっていた。

はあはあはあはあはあ……………………。

とても現実とは考えられなかった。

息を切らして今自分がした事は本当に正しかったのかを自分に問う。

いや、1番はどうして、電池なしに動いていたかだ。

考えると震えが止まらなかった。

数時間後

妻が帰宅した。

「ただいまー!!たくちゃん!!ご飯買ってきたよー!!」

妻の両肩をガシッと掴み

泣きながら訴える。

「ごめん……。ごめん!今までのは全部夢だったんだ!

たくちゃんはいない!人形だったんだ!

もうたくちゃんは戻って来ない!

また2人で子供作ってやりなおそう!

お願いだ!また幸せな生活を送ろう!!」

妻の身体を揺するようにしながら、決死に訴えた。

「あなた…………。」

妻が正気を取り戻したかのように真っ直ぐ私の目をみた。

その瞬間

「なにを言ってるの?たくちゃんなら庭で遊んでるじゃない。ほら!手振ってるよ!」

背後にある庭。

ままー。ぱぱー。遊ぼー。

聞き慣れた機械音のような言葉が

背後から響いた。

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