長編12
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秋山くん

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「今でも、あれは何だったんだろうと思う話がある。小学校低学年の時に体験したんだけど、今でも若干トラウマになってる」

秋山が同級生の家で体験した事を話してくれた。

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「クラスにスズキという奴がいて、そいつは成績優秀でクラスのみんなとうまくやっていた。休み時間になるといつも難しそうな本を読んでて、誰かと話したり校庭で遊んだりしてなかった。虐められたりしてないんだけど、あまりスズキと関わろうとする人が居なかった。俺が知らないだけで仲いい人が居たのかもしれないけどね」

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秋山はクラスメイトの何人かにスズキの事を聞いてみたのだという。

その中の一人から情報を得ることができた。

「前もスズキと同じクラスだった奴で、スズキとは仲が良かったらしい。休み時間に一緒に遊んだり、

放課後に遊ぶ時もあったって言ってた。でも、今は一切近寄らないようにしてるって言うんだ」

相手にしつこく理由を聞いてもなかなか答えてくれなかったのだという。

苦虫を噛み潰したような顔をして黙るクラスメイトを前に秋山がどうしたものかと考えていると、遠くから視線を感じたのだという。

その視線の先にはスズキが居た。

瞬きせず微動だにしていない様子が、爬虫類のようだと思ったのだという。

数秒互いをじっと見るとスズキの方から視線を外し、手元の本に目を移した。

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shake

ガシッ

突然目の前のクラスメイトに肩を掴まれた。

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「いきなりなにすんだよ」

この時何故か秋山は声を潜めて喋った。相手も続いて声を潜めて言った。

「あいつとは関わらないほうがいいよ、他のみんなみたいにそっとしておこう。気になるのは分かるけどさ」

「なんで?スズキと何かあったのか?」

「今は、なんていうか、話せないよ。話せるようになったら話すよ、思い出しても大丈夫になったらね」

「ふうん」

スズキと関わらないよう必死に説得するクラスメイトの顔は本気であった。

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「駄目だと言われると余計気になる、好奇心には勝てない」

秋山はどうやってスズキに近づこうか考えたのだという。

その日は特に何も行動せず、帰りの会が終わりみんな教室から出て行った。秋山は一人廊下を歩いた。

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music:2

「秋山くん」

下駄箱の近くにスズキが立っていたのだという。スズキの表情は見えず、秋山が答えるのを待っているようだったのだという。

「秋山くん」

「なに」

「青木くんとなに話してたの」

「別に」

「僕のこと話してたよね」

「......」

「秋人くんと、話してたよね」

「知らないよ!」

秋山はスズキから離れようと、反対方向へ歩いた。スズキは何か叫んでいたが無視して歩き続けたのだという。

一度も振り返らず歩き続け、いつの間にか上級生の校舎に来ていた。

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music:3

「おい、ここは5年生の校舎だぞ」

「あ、すみません!」

背の高い上級生らしき生徒が立っていた。日焼けをしていて少し強面の生徒だったのだという。

秋山がその場から逃げ出そうと背を向けようとすると後ろ襟を掴まれた。

「逃げんな、動くな」

その生徒は、じたばたと暴れる秋山を自分の後ろにやり、まるで盾になるような姿勢をとったのだという。声を出そうとするたびに、うるさい、静かにしろ、と言われ秋山は困惑した。

「まだだ、まだ、変なのがいる」

生徒が前に立っている為何が起きているのか分からなかったが、なんとなく何かを警戒しているのは分かったのだという。

少し時間が経った後、自分の目の前から生徒が離れた。秋山は何があったのか聞いたが、答えてくれなかったのだという。上級生の校舎には来るな、一人でうろうろするな、と言い残しその生徒はどこかへ行ってしまった。

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次の日から度々、秋山はスズキに声をかけらるようになった。

朝と帰りの挨拶、他愛のない会話。初め、スズキに対し言いようのない違和感を感じていたが、時間が経つにつれて薄れていった。ふたりはなんとなく”友達のように”仲よくなっていったのだという。

時々青木や他の生徒に心配されたが、秋山は特に気にしなかった。

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ある日の授業後、秋山はスズキに家に遊びに来ないかと誘われた。

これはチャンスかもしれない...青木がスズキに関わらないほうがいいと言っていた理由が分かるかもしれないぞ...噂によると、スズキの家には怖い秘密があるとか...

秋山は数秒沈黙して考える振りをし、快諾した。この時スズキはとても嬉しそうであったのだという。

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約束の日当日、秋山は学校から帰宅すると直ぐに待ち合わせ向かう準備をした。家を出る前に、紙にスズキくんの家に遊びに行く旨を書き、テーブルの上に置いた。

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

秋山は鍵をかけると家のポストに入れた。

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待ち合わせ場所には既にスズキが待っており、寄り道せず二人は真っすぐ家に向かったのだという。

歩きながら他愛のない話をしているとスズキの家に到着した。

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「凄い!立派な家だな~!スズキん家はお金持ちなんだね」

「そんなことないよ」

閑静な住宅街の中でスズキの家は目立って豪華な造りで、世間でいう裕福な家庭の家であったのだという。

庭には犬小屋とその奥に中型犬が入れそうな大きさの古臭い檻が捨てられるように置いてあるのが見えたのだとう。スズキに、犬を飼っていたのかと聞くと、首を横に振った。

家に入るとスズキの母親が迎えた。高級そうな洋服にエプロン姿、ドラマでみるような裕福な家庭の奥様風であったのだという。玄関も広く、見たことのない外国の置物や人形が沢山置かれていた。

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リビングに通され中に入ると、そこもまた高級な家具が揃っていた。普段の自分とはかけ離れ過ぎている部屋と言葉で表せない違和感によってなんだか帰りたい気持ちになったのだという。

それを察したのか、スズキのお母さんは沢山のお菓子を持ってきた。スーパーやコンビニでは見たことがないお菓子が鮮やかな装飾がされている箱の中に詰まっていた。それから、紅茶やジュース、色々なケーキをのせたケーキスタンド、子供が喜ぶものが用意された。秋山が驚き喜んでいると、スズキのお母さんは嬉しそうに笑ったのだという。秋山は喜んで出された物を食べていたが、スズキはお菓子やケーキには一切手を付けなかったのだという。

甘いものが好きではない、そういうとスズキはトイレに行ってくると言い部屋を出て行った。

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「あの子、甘いものが嫌いなの。秋山くんが嬉しそうに食べてくれるの、嬉しいなあ」

「食べ過ぎてすみません...こんなに豪華なお菓子食べたことがないので、嬉しくて...つい」

「いいのよ、いいの、沢山食べてね。沢山あるから持って帰る用に後で包んであげるからね」

「やったー!嬉しいです、ありがとうございます!」

「ねぇ、秋山くんは下の名前はなんていうの?」

「優です」

「優くんていうのね、私の名前はユウコなの、私達名前が一文字違いね」

「そうですね、ちょっと似てます」

秋山がケーキを食べていると、スズキのお母さんが、いい子いい子と言って頭を撫でた。少し驚いて相手を見ると、寂しそうな顔で笑っていたのだという。

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「ねぇ、優くん今日このあと夜ごはん食べていかない?」

「え、でも...」

「お母さんがもう、お夕食の支度してるかな?」

「いいえ...お母さんは夜遅くまでお仕事してるので...夕食は自分で...」

「そっか...今日ここへ遊びに来ることは伝えてあるの?」

「学校から帰ってきたら誰も居なかったので、手紙に書いて置いてきました」

「そっか...お父さんは何時頃返ってくるの?」

「お父さんはいません、お母さんと二人暮らしなので」

「そっか...だったら今日泊まっていかない?お家に1人だと寂しいでしょう?」

「でも...」

「ねぇ、今夜お泊り、いいと思わない?」

shake

「うん、泊まって行ってよ、秋くん」

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いつ戻ってきたのか、秋山の後ろにスズキが立っていた。リビングのドアを開ける音はしなかった筈、音を立てずに入ってきたスズキは不気味な薄ら笑いを見せたのだという。

それから、秋くん、普段呼ばれたことのない呼び方に違和感を抱いたのだという。

何度も泊まることを断ったがスズキ親子は食い下がらず、秋山は二人の強い押しに負けその日泊まる事になったのだという。

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夕方になるとスズキの父親が帰ってきた。厳しそうな見た目で顔がスズキそっくりであったのだという。秋山が泊まることは知っていたようで、秋山を快く迎えてくれたのだという。

夕食の時間になりそれぞれ席に着いた。

秋山の隣にスズキのお母さんが座り、秋山の目の前にスズキ、スズキの隣にスズキの父親が座ったのだという。

食事をしている間、時折スズキのお母さんが秋山の口元を拭ったり、料理を取り分けたりした。

自分に対する行動が、なんだか赤ん坊にやるものみたいで照れくさかった。

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秋山がもくもくと食べている様子をスズキは凝視していた、料理を取り口に運ぶまでの一連の動作を獲物を見るような目でじっと見ていたのだという。

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食事が済み、少し経ってから秋山は風呂に入った。風呂場もこの家に相応しい豪華なものだったのだという。

浴室から出て着替え終わると廊下にスズキの父親が立っていた。

秋山は風呂の順番を待っていたのだと思い、その時謝ったのだという。すると、スズキの父親はそうではないと言い、少し話しがしたいとリビングに連れていかれた。

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music:3

部屋に入ると、秋山の心臓の鼓動が速くなり、キーンとみみなりがしたのだという。

ソファに二人で座り、異常に甘い紅茶を飲みながら話をしたのだという。

内容は秋山が母子家庭であることであった。他人に家庭の事を話したくなかったし、根掘り葉掘り聞いてくるスズキの父親にうんざりしたのだという。秋山にぴったりくっつくかたちで座るのにも違和感を感じたのだという。

「すみません!トイレ行きたいです!」

秋山はトイレに行くと嘘をつきその場から逃げた。

「待ちなさい!」

スズキの父親の声を無視しスズキの部屋のある2階まで走ったのだという。

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「どうしたの」

2階に上がるとスズキが部屋の前で立っていた。秋山は適当に嘘をつき、スズキの父親とリビングで話した事は隠した。

「そう、じゃあ、僕の部屋へ行こう。ほら、早くこっち」

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music:3

スズキの部屋に入ると、独特の臭いがしたのだという。特にクローゼットの方から獣臭がした。

寝るときは客室を使うよういわれ、寝る時間までスズキの持っている漫画や図鑑をみたり、一緒にテレビを観たりしたのだという。

そろそろ寝ようと考えていると、スズキが一緒にアイスを食べようと言った。

もう歯を磨いたからと断ったが、とても美味しいアイスだから食べて欲しいと言い、部屋から出ていってしまった。

アイスを取りにいくだけなのに、スズキはいつまで経っても戻ってこない。

やることもないので部屋の中を探索することにした。悪いと思いつつ、獣臭のするクローゼットを開けようとした。少し開いた所で、ものすごい獣臭がし、秋山は直ぐにクローゼットを閉めた。

とほぼ同時にスズキが戻ってきた。

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「なにかあった?」

「いや、なにもないよ。アイスを持ってくるのに時間かかったね」

「特別なアイスだからね...ふふ」

スズキはアイスが入った豪華なカップを秋山に手渡した。スズキは食べないのかと聞くと、秋山の分を作りながら食べてしまったのだという。不審に思いながら渡されたカップの中を覗いた。

バニラアイスと抹茶アイスらしきものに乳白色のソースがかかっていた。ドロッとした見たことがないソースだったのだという。

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「食べて、」

受け取ったアイスを直ぐに食べずに中身を見ていると早く食べろと急かされた。秋山はそのソースを避けて、なにもかかっていない部分のアイスを食べた。

普通のアイスだったが、あまり美味しくなかったのだという。

ソースがかかっている部分も食べるように言われたが、秋山は頑なに断った。なんとなく、食べないほうが良いと思ったのだという。

「いてててて、お腹冷えちゃって、もうアイス食べられないや。美味しかったよ、ありがとう。もうそろそろ寝る時間だから、行くね」

秋山は早口で言うと、アイスののったカップをスズキに渡し部屋から出た。

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スズキの部屋から少し離れた場所にある客室が秋山の部屋だった。一見普通の部屋に見えるが、悪い気が漂っていた。家具もなにもかも新しそうな物であるのに年季が入っているような。

その部屋もスズキの部屋同様に独特な臭いがしたのだという。

「くっさ...なんだこの臭い...」

部屋中を調べても臭いの原因を探ることはできなかったのだという。気を張りすぎたのか、不意に眠気が襲ってきた。ぼーっとした頭でベッドに入るとすぐに深い眠りに入ったのだという。

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music:2

フーッフーッフーッ

荒い息遣いと獣臭、体への強い圧迫で目が覚めたのだという。

金縛りというよりも手足を何者かに押さえられているような感覚だった。

ドドドドドドドドド

自分の心臓の鼓動が耳の中いっぱいに響く、恐怖で声が出せない。

暗闇の中、何かが自分の顔を真正面から見ているのは分かったのだという。息が顔から首筋へと移動した。この時、自分の匂いを嗅がれていると思ったのだという。体にのしかかる感じ、獣臭、秋山はもしかしたら犬の霊なのかもしれないと思ったのだという。

霊だとしても、犬なら怖くない...遊んで欲しいから出てきたのかもしれない

そう考えると怖さが薄れていったのだという。

ベロン...

突然首筋を舐められ驚いて秋山は声を発したのだという。

「ワンちゃん?」

それに対して返答が返ってきたのだという。

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music:6

「え?」

犬の霊ではなかった、人の声だった、生身の人間だと思うと一気に鳥肌が立った。

「ぎゃあああ!」

大声を出し、一瞬腕にかかる重みが緩んだ隙に相手を引っ掻いた。

ドタバタドタバタ!!!

音を立てて何者かが部屋から出て行ったのだという。

ベッドから飛び起き電気をつけ、急いで首を拭いた。

「うわああああ」

洗面台に行き、何度も何度も顔と首を洗った。

部屋に戻っても寝付けず、電気をつけたまま横になっていたのだという。

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次の日の朝、みんなで朝食を食べながら昨晩の出来事を話した。

怖い夢を見たんだろう、寝惚けていたんだろう、そんな音は聞こえなかった

誰一人として話を信じてくれなかったのだという。

その後、スズキに夕方まで遊ばないかと誘われたが用事があると言って断った。

帰る際にスズキ一家一同見送りに出てきたが、秋山は彼らの顔を見ることがきなかったのだという。最後に名前を呼ばれ、振り向いた時にスズキのお母さんの顔だけ見たのだという。

それから秋山は昨晩の悪夢に苦しむことになる。

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週末明けの放課後、秋山は青木を呼び出しスズキの家であった事を話したのだという。

青木はその話を一切否定せず、真剣に聞いてくれたのだという。

「だから言ったでしょ、あいつに関わるなって。あの家によく泊まれたね、僕だったら絶対泊まらないね」

「だって、しつこく泊まれっていうから」

「なにかされなかった?アイス出されなかった?」

そういえば変なアイスを出されたのを思い出した。あまり美味しくなかった事をいうと、青木は苦い顔をした。青木がスズキの家で遊んだ時も同じようなアイスをだされたのだという。

「あのアイス変だなと思って、家に帰って兄貴に話したら、もしかしたらと言って教えてくれたよ...聞いて後悔したから言わないけど」

「なんだよそれー教えてよ!気になるよ」

「そのうち分かると思う...」

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青木は結局教えてくれないまま話は終わってしまったのだという。

秋山がスズキの家に泊まりに行ってから、スズキとは関わらないようにしたのだという。スズキも何かを何かを察したのか、秋山に話しかけなくなった。

それから月日が経ちスズキは転校し学校から居なくなった。理由は分からないのだという。

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「ずっと忘れられないんだよ、あの夜の事。あれは霊ではなく人間だと思うんだよね。確かに人の顔を引っ掻いた感覚があった。次の日、前の晩の話をした時に、一番否定していたのがスズキの父親だった。そいつの顔見て、ああ、だからか、と思ったよ。顔に引っ掻き傷があった、右頬に。あの時俺は左手で引っ掻いた。あれは霊じゃなくてスズキの父親だと思ってる。あの時の事をまだ、時々夢に見るんだ」

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