長編18
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宮田さんから聞いた話

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私が会社の接待の席で、ある年配の方から聞いた話です。

その方は、宮田さんと言って地方の出身の方でした。

お酒を付き合っている内に、宮田さんが、

「いやぁ、今夜は楽しい夜だねー。

あ、そうだ。

君に、面白い話をしてあげようか?」

と、かなりご満悦な顔で言いました。

「はい、是非。」

「とは言っても、

面白いと言うよりかは、

少し、不気味な話なんだけどね。

君が怖い話は得意なら、、、

それでも良かったら、聞くかい?」

私は、興味が湧きまして、

「是非、お聞きしたいです、」

と答えました。

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「あれは、私が小学校時代、、、。

私の出身は田舎でね、

ランニングに短パンで毎日遊び回ってて、

服を汚して帰っては、よく母に叱られたものだよ。

当時、私には2人の親友、

いや、悪友かな、が居て、

いつも3人で、イタズラばかりしていたもんだよ。

しかし、私の村にはね、

親からもキツく言われている程の、

『絶対に近づいてはいけない家』

って言うのがあったんだよ。

まぁ、この村には到底、似つかわしくない、

立派な洋館だったんだけどね。

何故こんな建物がこんな田舎に、

って言う程、そこだけ異世界だったね。」

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そうして宮田さんの記憶は遡る。

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「おーい!宮田ー!

ランドセル置いたら、裏山集合なー」

「分かったー」

「お前もだぞ、茂木!」

「分かってるさー」

そう言って、リーダー格の林は、自分も急いで家に帰った。

「遅い!」

遅れてきた茂木に、林は苛立っていた。

どちらかと言うと茂木は、鈍臭いタイプだった。

「まぁ、良い。

で、今日は何するべ?」

3人で面白そうな遊びを考えていた。

すると、茂木が言った。

「なぁ、あの洋館に行ってみねぇか?」

先程の遅刻の挽回か?と思ったが、

オレも林も、返事に戸惑った。

あの洋館に対しては、

オレ達の中では、暗黙のルールの様に避けていたからだ。

「オレ、この前、

母ちゃんと隣のババアが話してんの、

聞いちゃったんさねー。」

茂木が、優越感たっぷりに言うので、

「何をさ!?」

と2人で聞いた。

「あの家さー、

かなりのお金持ちが住んでたらしいんだけど、殺人事件があったらしくてな。

召使いっつーの?殺さたんだってよ。」

「何でさ?」

オレが聞いた。

「その召使いって、すんげーお喋りでさ、

ある事ない事を話しまくるんだとよ。

そんで、それがイヤで他の召使いが、

どんどん辞めてって、

あの家の人が困ったんだと。

そんでさ、ここからが怖いんさね。

家のヤツらがさ、

お喋りな口は閉じておかなきゃっつって、

その召使いの口を糸で縫ったらしいんさね。

で、暖炉の煙突の上から、その召使いを突き落としたらしいんだけど、

証拠隠滅、っつーの?

運悪く頭が下になっちゃってさ。

その後、暖炉に火をつけた時に、

頭から焦げて行っちゃたみたいでな、

でも、口は縫われてるべ?

叫べないだろ?

そんで、煙突の中で焼け死んだって、

話らしいんさ。

なぁ、行ってみようぜ!」

そして茂木は、更に優越感たっぷりの顔をした。

オレと林は、黙っていたけど、

茂木にバカにされるのも癪に障る。

林が言った。

「おぅ、行ってみるべ!なぁ、宮田?」

オレは正直、行きたく無かったが、

ビビりと思われるのもイヤだし、

なんせ茂木にバカにされたくないのもあり、

「そうさな、じゃあ、今から行くんべ!」

と、虚勢を張ってしまった。

小学生男子特有のノリと言うか、、、。

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誰も近いた事の無い洋館の前に、オレ達は立っていた。やけに不気味さが増す。

誰も、最初の1歩を踏み出さない。

「茂木よー、お前が言い出しっぺなんだから、お前が先に行けよ」

林が言った。

「え、だって入るとこ何処にも無えべ?」

すると林が、洋館を囲っている鉄格子の柵の辺りを何やら探り始めた。

「ほら、あった。茂木、早う行けよ」

そこには、やっと子供1人が入れるくらいの抜け道と言うか、隙間があった。

茂木はかなり抵抗したが、渋々、その隙間から中に入って行った。

その後に、林、そして、オレ。

中は思った以上に広かった。

玄関まで、何十メートルあるだろうか。

そして、玄関まで来たオレ達は、

かるく恐怖に包まれてた。

いくら悪ガキとは言っても、まだ小学生。

すると林が、玄関のドアノブに手を掛けた。

『ギィィー』

何十年も開けらた事が無かったかのような、

軋む音が響き渡る。

林は、家の中に1歩足を踏み入れた。

続けてオレが、そして、最後に茂木が家に吸い込まれて行った。

中は、かなり暗い。そして、埃がすごくて、

みんな噎せていた。

「で、茂木。どこに煙突があるんさ?」

「そこまでは、オレも知らないよー」

「じゃあ、探すしか無ぇべ」

暖炉は1階にあるはずだと、

オレ達は、無駄に彷徨った。

しかし、肝心の暖炉の部屋が見付からない。

なんせ部屋の数が、膨大だからだ。

遠くから洋館を見た時、確か左側に煙突があったな、と思ったが、いざ家に入ってしまうと、方向が全く分からない。

そこで林が言った。

「こんなんじゃ、埒が明かない。

手分けして探すんべ。

見つけたヤツは、大声で叫ぶ。いいな?」

オレと茂木が頷き、それぞれに散らばって行った。

オレはある部屋に入った。

そこには立派な家具が並んでおり、誰かの肖像画みたいのが壁に掛けられていた。

部屋の向こうに、ドアがあった。そのドアを開けてみる。また、立派な家具が並んでおり、更に向こうにドアがある。

オレはまた、ドアを開ける。

急に部屋の感じが変わった。

なんと言うか、、、

あまり居たくない雰囲気だ。

左側にドアがあったので、すぐにそのドアを開けた。

そこは、今までの華々しい部屋とは違って、

急にどんよりした空気が流れていた。

よく見ると、汚れたテーブル、汚い壁。

ゴミなのか、よく分からない物も散乱している。

ネズミの死骸らしき物もあり、

何よりも、かなりの異臭で吐きそうになった。

オレは鼻を摘むと、更に向こうにあるドアを開けようとした。

オレがドアノブに手を掛けた瞬間、

「うわーっ!!」

と叫ぶ声がした。

茂木か林だろう。

オレは急いで、声の方へ向かった。

途中、誰かにぶつかりオレは横転した。

林だった。

「なんだ、林か、

なぁ、さっきの声、聞いたんべ?

あれ、茂木だよな?」

「うん、そうだろうな。急ごうぜ、」

オレと林は走りながら、茂木を呼んだ。

「茂木ー!何処におるんさーっ!?」

暫く走ったが、茂木の声は聞こえない。

オレ達は焦り、探しまくった。

すると、ある部屋の前に辿り着いた。

オレが部屋を開けようとした時、

林がジェスチャーする。

(待て)

林は、ドアに耳を近づけている。

(何をしているんだ?

早く茂木を助けないと!)

オレは気が気では無かった。

しかし、林は微動だにせず、暫くドアに耳をあてていた。

そしてある瞬間、オレの手を引っ張り駆け出した。

何が何だか分からない。

玄関の外に出た時、やっと林はオレの手を離した。

「一体、何なんさ!?

茂木はどうしたんだよ!?

助けに行かんと、いけんやろーが!!」

林は黙ったままだった。

なので、

オレは、林の態度に腹立たしくなり、

また家の中に戻ろうとした。

「今は、、止めといた方が良い、、、」

「おい、どういう事なんさ!?」

林は、

ドアに耳を近づけていた時に、

部屋の中の音を聞いていたらしい。

そこには、茂木以外の誰かがいたらしく、

部屋に入るのを止めたそうだ。

「あの部屋から、

何が聞こえてきたんさ!?」

林は言いにくそうだったが、

暫くして、話し出した。

「宮田さ、オレの話、、、信じるか?」

オレはビックリしたが、頷いた。

「あの部屋からさ、

茂木の声が聞こえたんさね。だけど、、、」

オレは黙って聞いていた。

「他の誰かが喋ってるんだよ。

女の人がさ、、、、

『うちのお屋敷の事を話してしまう

お喋りなお口は、どれかしら、、、?』

って。

それでさ、

『そんなお口は閉じておかなきゃだわ。

みなさんも、そう思われますでしょ?

じゃあ、、、

美乃ちゃん、裁縫箱のセットを持って来てくれるかしら?』

『ぅん。』

『あと、瞳ちゃん、

暖炉の薪を持って来てもらえる?』

『ぅん。』

『こんな時に、貴女達のお父様は、何処に行ったのかしらねぇ〜。

、、、チッ、使えねーヤツだな、』

って、話し声が聞こえてさ、

そしたら、こっちに誰かが来るからさ、

一旦、走り出したんさ。」

「え、、、何それ?」

「オレも分からん!

ただ、、、

あん時は逃げたけど、茂木を助けんと!!」

オレ達はもう一度、洋館に入って行った。

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( あの部屋だ )

コソコソ話しながら、部屋に近づいたが、

どうして良いのか分からない。

2人でモタモタしていると、

オレはドアノブの下に、鍵穴がある事に気付いた。

すぐに中を覗いて見る。

そこには、茂木がいた。

茂木は椅子に身体を縛り付けられており、

その口はガムテープらしき物で塞がれていた。

茂木が、必死に逃げようと椅子をガタガタさせていたが、完全に無駄な抵抗だった。

そのうちに女性が3人、茂木の周りに集まって来た。

母親らしき女と、

その娘らしき女の子が2人。

みんな、外国の人が着るような、丈の長いスカートの服を着ていた。

母親は茂木の前に立ち、

『さて、坊や?

準備が、整いましたよ。』

そう言って、一気にガムテープを剥がした。

ビーッ!

「イヤだーっ!!

誰か、助けてー!!

宮田ーっ!林ーっ!助けてくれー!!

家に返して!!」

『ほら、

やっぱりお喋りなお口だわ。

貴女達も、良くないと思うでしょう?』

娘が2人で口を揃えて言った。

『ぅん。』

『さてと、、、

坊や?

私達は " 当たり前のこと " をするのよ、

子供が悪戯をすれば、

叱られるのは当然だし、

人を傷つければ、罰を受けなきゃ。

分かるわね?

あなたのお口は良くない事をしたの。

だから、その償いをするのは、

当たり前でしょう?

、、、じゃあ、始めましょうかしら。』

茂木は、

もはや、恐怖で声が出ない様子だった。

同様にオレも、恐怖で固まっていた。

林がうるさく耳元で

( おぃ、どうなってんだよ!?

中で、何してんさ!?)

と言っていたが、オレは無視した。

茂木の前に、女の背中が見えた。

そのせいで、茂木の姿は左側少ししか見えない。

娘の1人が、母親に何かを持って行く。

そうして、数秒後、

今までに聞いた事の無い、凄まじい絶叫が聞こえてきた。

「ギャーーーアッ!!」

林も、ドアの方を見詰めた。

声の主は、茂木だ。

その後、声にならない声が聞こえ出した。

「やた、、、やみ、てぃ、、、」

2、3分程、経ったのだろうか、

茂木の左側に向かって女は移動しながら、

何かをしていた。

オレは、更に目を凝らした。

、、、 、、、 、、、。

茂木の口は、糸で縫われていた。

かなり太い糸に思えた。

縫い目からは止め処なく、血がこぼれ落ちている。その血は床に流れて行き、

あたかも、茂木の座っている椅子の下だけ、真っ赤な絨毯が、敷かれているかの様だった。

そして、その女は、

裁縫で上手く最後で玉留めするかのように、

左口の端をしっかりと結んだ。

( ヤバい、、、

つーか、何なんさ、あの女、、、)

( なぁ、茂木は大丈夫なんか!?)

急に、林に声を掛けられた。

一瞬ビクッとしたが、

何時にもなく、林が冷静な口調で言うので、

オレは、今見た事を林に言いたかった。

が、しかしパニックになると不味いと思い、とりあえず黙っていた。

不意に思い出した。

( あ、暖炉、、、)

「林、行くぞ。」

そう言って、2階に上がり煙突を探した。

「林、詳しい事は後から話すから、

とにかく、あの煙突に行くんだ。

分かったか?」

林は頷き、2階にある部屋の窓から、

屋根の上に出た。

( 絶対に、煙突から茂木を落としに来る。

そこで茂木を助け出すしか方法が無い。)

オレは、林に、

" 茂木が来たら、

思いっきり茂木の手を引っ張って、

そして、逃げろ "

と言った。

林は頷いた。

( 後は、

オレがあの女達を、屋根から突き落とす。)

そう思いながら、2人で待ち伏せた。

しかし、茂木も女も来ない。

( えっ?

そんな筈、無いだろうが。

だって茂木の話だと、口を縫われた後は、

煙突から突き落とされるんじゃあ、ないのか?)

オレは焦った。

すると、暫くして、

煙突から白いものが出てきた。

" 白いもの " は、それは暖炉の煙だった。

( ヤバいっ )

「林、行くぞ、

さっきの部屋だ、急げ。」

2人で階段を転げ落ちる様に降り、さっきの部屋の前に着いた。

そして、ドアを開けた。

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「ギィィー」

不気味な音を立ててドアが開き、そして部屋の中が見えた。

部屋中を見渡す。

すると、右側に暖炉が、

そして茂木を押さえつけるように、

女と、その娘達が立っていた。

『あらあら、これは、、、。

客人が来るとは聞いておりませんでしたのよ、失礼を致しましたわ。

とんだ場面をお見せしましたわね。

クスクスッ。

それで、、、

今日は、どのようなご要件で、

いらっしゃったのかしら?』

女が、余裕たっぷりの、気味の悪い笑みを

浮かべながら、オレ達に話し掛けた。

オレ達は、茂木を見詰めながら言った。

「あのっ、そいつを帰し、、、

『あ、美乃ちゃん、

お客様に、お紅茶とお菓子の用意をしてくれるかしら?』

女は、オレ達の言葉を遮るかの様に、

急に話し出した。

そうして、美乃と言う娘は頷き、

暖炉の横のドアから出て行った。

『せっかく、

お客様がいらして下さったんですもの。

きちんと御待遇をするのは、当たり前の事ですわよね。うふふ。』

「茂木、、、

そいつを返して下さい。」

オレは、自分でもビックリするくらい、

ドスの効いた低い声で、その女に言った。

『あら?ご友人でしたの?

これは、これは、クスクスっ。

あ、失礼致しましたわ。

あなた方のご友人は、

とても良くない事、、、を、

端的に申し上げますと、

" 悪い事 " をしてしまったんですのよ?

ご存知じゃあ無かったかしら?

だから、、、

その事によって、傷つけられた私達が、

" 当たり前 " の事をしているだけですの。

だって、

" 悪い事をしたら罰を受ける " なんて事、

乳飲み子でも分かりますわ。

そうでしょう?』

そして、また不気味な笑みを浮かべた。

丁度その時、娘の1人が紅茶を運んで来た。

『あ、美乃ちゃん?

お客様はお帰りになるそうだから、

そのお紅茶は、下げて頂戴。』

娘はまた頷いた。

その時、娘は紅茶のセットを持ち、

オレ達の近くに立っていた。

オレは何気無く、娘の顔を見た。

ん、、、?

えっ、、、!?

心臓が止まるくらいの衝撃だった。

オレは、思わず声が出そうになったが、堪えた。

娘が近くに来て、初めて分かった。

彼女の口は、縫われている。

糸が皮膚にくい込んでいる。

だいぶ前に縫われたんだろう、と思った。

じゃあ、もう1人の娘も、、、

だから、さっきから話さないんだ、

いや、話せないんだ、、、。

変な汗が流れてきた。

思わず林の手を握った。

「せっかくですから、頂きます。」

オレは咄嗟に言った。

「帰るとも言っていない客を、

勝手に帰らせるんですか?

それが、あなたの言う御待遇と言うものなんですね。へぇー。」

林も、

「オレ、帰るなんて言ってませんし。

失礼ですよね、オレ達に対して。」

と、場の雰囲気を読んだ。

まぁ、小学生の屁理屈なのだが。

女は、何とも言えぬ表情で、

オレ達を見ていたが、

突然、何か吹っ切れたかの様に話し出した。

『あら、そうですわね。

私とした事が、大変な失礼を。

では、あなた方には、ご友人の事を見守って頂く事に致しましょうか。

もっとも、それがお嫌でしたら、今すぐにお帰りになられても、構いませんのよ?』

オレは言った。

「帰りません。」

『あら〜、そうですの?

じゃあ、お紅茶でも飲みながら、

ごゆるりと。

あっ、そのお紅茶は外国から取り寄せた、

貴重な茶葉ですの。うふふ。』

茂木は、こっちを見ている。

もう出ないんじゃあ無いかってくらいの涙が出ている。全身がずぶ濡れだ。

( 待ってろ、茂木。必ず、助けるから。)

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実は、その前に林と打ち合わせしていた事があった。煙突から煙が出た後だ。

「林、たぶん、あいつらは、

茂木を煙突からは落とさない。

直接、暖炉に入れるんだと思うんさね。」

「えっ、、、

じゃあ、どうすんだべ?」

オレ達は作戦を立てた。

そうして、今、

あの部屋の中で、紅茶を飲んでいる。

暖炉の火は、かなり燃え盛っている。

「名付けて、

" ヘンゼルとグレーテル作戦 " だ。」

「宮田、何だよそれ。」

「後からグリム童話を読め。」

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そうして、考えた。

( 隙を作らせるには、、、あ、紅茶、)

オレは林に耳打ちした。

少しして、良い頃合で林が、紅茶のコップを落とした。わざと。

「あ、すみません。

オレ、手が滑っちゃて、、、。

何か拭くものありますか?

ズボンにもかかっちゃって、、、」

女がイラッとした顔でこっちを見たが、

すぐに和やかな表情になり、

『瞳ちゃん、タオルをお持ちして。』

瞳と言う娘が頷いた。

「すみません、ご迷惑をおかけして、、、

あっ!!

どうしよう、、、コップの縁が欠けてる!

ごめんなさい、オレ、、、」

林が演技した。

「こんな高そうなコップを、、、。

すみません。

これじゃあ、オレも、

罰を受けなければならないですよね、

どうしたら良いでしょうか?」

女は、怒りと驚きと、

そして、

嬉しさのあまり、かなり興奮していた。

『そ、そうですわ。

あなたも、、、

きちんと罰を受けなければなりませんわね。私の大切なコップの縁が欠けたとなれば、

あなたの大切な身体の何処かも、

欠けさせなければなりませんわね。

さて、、、

何処が良いかしら、ふふふ。』

林が不安げにオレの方を振り返ったが、

大丈夫だ、と頷いた。

『瞳ちゃん?

台所から、1番に切れ味が良い物を持って来てくれるかしら?』

瞳は黙って頷いた。

『コップの縁が、少ししか欠けてなかったから、あなたも少しだけで済むわね。』

その時、オレが言った。

「おぃ、順番から行くと、そっちの方が先だろ?」

と、茂木を見た。

女は茂木に視線をやり、

『まぁ、、、そうですわね。

でも、こちらの方が、

早く片付けられますから。

私、要領が良いと、よく言われますの。』

( ヤバい、流れがズレてきた )

オレは、自分の中で様々なパターンを考えた。しかし、どれもこれも上手く行くとは限らない。2人を救うには、、、

そして次の瞬間、

オレは、テーブルをひっくり返した。

その部屋にある物全てを、

めちゃくちゃに壊して行った。

「オレが1番の悪い子だろうが、違うか?」

オレは挑戦的な目で言った。

女は、ヒステリックな顔をして、

オレに近づいて来た。

『そうね、あなたが1番 、、、

" 当たり前の事 " をされなければならないわね。』

オレは女に引きづられて行った。

その時に、茂木と林に目配せをした。

( 早く逃げろ )

今、女の標的はオレである。

茂木と林が逃げるには絶好の機会であった。

2人は躊躇し、何度も振り返りながら、部屋を出て行った。

( さて、意地悪魔女をどうするかな、、、)

「オレへの罰は、何なんさ?」

女は黙って、オレを見ていた。

それが、なお一層、恐怖を感じさせた。

暫く沈黙が続き、

( あー、友達助けるとか、

カッコ良い事しなきゃ良かったなー)

などと思ってると、

急に女が、狂ったかの様に、笑いながら喋り出した。

『あなたは、、、

そうですわね〜、キヒヒヒ、、、

" 八つ裂きの罰 " を、

受けるべきですわね、ウフフフッ、

何せ、全てを、、、クククク、、、

めちゃくちゃにしてしまったのですから、

キキキキ、、、

それは、あなたも、、、クスクス、、、

ね? 分かりますでしょ?

キヒヒヒ、、、

まず、、、

そうですわね〜。

腕と足とを全て、千切らなければなりませんわね!キキキ、、、

その後は、

それを暖炉にくべて、薪の代わりにしましょうかしら?クスクスっ、

そして、次は、、、キキキ、

あなたが薪になる番ですわ。

何だか冷えますのよ、この部屋。

なので、ククク、とても助かりますわ!

キヒヒヒ、、、キャキャキャ、、、

あぁ、愉快だ事!!』

オレは、

心底怖かった。

軽く失禁していた様に思う。

こいつは完全に頭がイカれてると思った。

林達が、警察に連絡してくれていれば良いが、それまで持つかも分からない。

女は、娘に何やら指示を出し始めた。

娘2人は、部屋を出て行った。

( くそ、どうすっかな、、、

あー!!

もう、一か八かやってみるしかないさね。)

「ねぇ、おばさん!」

『お、おばさ、、、』

女は逆上していたが、

「暖炉の火ってさ、そんな弱いんだ?

へー、なんか、熱くなさそうさね。」

女が暖炉の方に目をやった。

『何を言ってるの?

火は燃え盛っているわよ?』

「ふーん、

まぁ、オレにとっては有難い話だけどさ。」

その言葉を鵜呑みにしたのか、

すぐ様、女が暖炉の様子を伺いに行った。

『あなた、何を言ってるの?

ちゃんと燃えてるじゃないの!

かなり熱いわよ!?

そんな口を叩けるのも今のうちだわね、』

その瞬間に、

オレは、女を思いっきり暖炉の中に突き飛ばした。

そしてさっき、

部屋をめちゃくちゃにした時の、

そこら辺に散らばっていた椅子やカーテン、

とにかく手当り次第、暖炉にぶちまけた。

女が暖炉から出てこようとする度に、何かをぶちまけ、出られないようにした。

暖炉からは凄まじい声が上がる。

-------------------------------

私は、以前に聞いた事があるんです。

人は火達磨になっても、

すぐには、死ねないと。

その苦しみを暫くの間、味わうのだと。

だから、相手に恨みを持つ人間にとっては、

その相手の前での焼身自殺は、かなりのインパクトがあるらしいです。

火達磨になっても、

生きている内は、喋れるらしいですから。

--------------------------------

その声を聞いた娘2人が、走って来た。

オレが投げた、暖炉の前のガラクタを取り除いている。

オレは無我夢中で走り出し、家の外に出た。

汗はびっしょりで、いや、変な脂汗と言うのだろうか。

「おぃ、」

急に声を掛けられて、オレは心臓が飛び出た。

見ると、林と茂木が玄関の脇に座っている。

「どうしてこんな所にいるんさ!

逃げろっつったべ!?」

「、、、。

だけどさ、宮田が気になってさ、

ここにいたんよ、、、」

「とにかく逃げるべ!

茂木も、早く病院に行かなきゃだろ!」

3人で逃げた。

門の柵もくぐり抜け、ダッシュで走った。

そして、1番近くにある家はオレの家だった。

転がり込むようにして、家の中に入り、

出てきたおかんに、

「茂木を、茂木を、早う病院に、、、」

おかんは泣いている茂木を見て、一瞬目を見開いたが、すぐに何処かに出て行ってしまった。

それからすぐに、家の前に救急車が止まった。茂木は救急車に乗せられ、そして病院へと運ばれて行った。

オレと林は、何も言えずに震えていたが

おかんは、凄い剣幕だった。

恐る恐る、オレは経緯を話した。

おかんは黙ったままだった。

「でも、、、

でも、最初は、

茂木が言い出した事なんよ?」

オレは、思いっきり平手打ちを食らった。

「どうしようもない阿呆だ、あんたらは!

友達が道を外れそうになったら、それを止めるのが友達さね!

何を言い訳にしてるんさ!!」

オレ達は、もっともだと思った。

そしたら泣けてきた。

「どうしよぉ〜、もぎ、大丈夫かなぁ〜」

2人でわんわんと泣いた。

すると、おかんがオレ達を抱いた。

「大丈夫、茂木くんは、大丈夫やさかい。」

separator

2週間後、オレと林は、茂木のお見舞いに行った。

茂木は嬉しそうだった。

口の糸が外れて、また喋れる様になったものの、話す時にどこか引きつっている様な、ぎこちない口の動かし方をしていた。

そして、上唇と下唇にある糸が通された穴の傷跡は、痛々しく残っていた。

オレ達は、他愛もない話をし、

「また来るから、」と言い、林と病院を後にした。

帰り道はお互いに、無言だった。

separator

それから暫くして、茂木が退院した。

唇の周りには、まだ傷跡が残ってるものの、

茂木は全然気にしていない風だった。

そうして、3人で遊ぶ日々がまた訪れた。

「今日は、あっちに行ってみようぜ!」

などと、無邪気に遊ぶ日々だ。

あの日の出来事など無かったかの様に。

そう、オレ達は振舞った。

そうするしか無かった。

あの後、

あの洋館がどうなったかなんて、

考えたくも無い。

みんな、出来る事なら、あの日の記憶を消し去りたかったに違いない。

separator

ある日、

ふと洋館の方に目をやった。

煙突から白い煙が出ていた。

えっ、、、?

オレは目を擦り、もう1度見た。

白い煙など、どこにも見えなかった。

「おーい、宮田ー!」

林と茂木が呼んでる。行かなきゃ。

separator

「どうだったかね、私の昔話は。

楽しんでもらえたかな? ハッハッハ!」

宮田さんは、更にご満悦の様子だった。

私は黙っていた。

何故なら、、、

宮田さんの口の周りに、

何ヶ所もの傷跡が、薄らと残っている事に気付いてしまったからだ。

(一体、何処までが真実なんだ?

宮田さんは、茂木なのか、、、?)

「どうしたんだね?怖かったのかな?」

宮田さんに声を掛けられて、

私は、ハッと我に帰った。

「あ、はい、、、

すごく怖かったです。」

「そうかね、そうかね、

そりゃあ話した甲斐があったよ。

ハッハッハッハ!

では、ちょっと私は失礼して、木村さんに挨拶をしてくるよ。

あの人は、どうも苦手なんだがね、

ハハハ、、、」

そうして、宮田さんは席を立った。

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