短編2
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親子の鬼

小学三年生のとき、田舎のショッピングモールで──。

私は、鬼をみた。

その日曜日、私の姉はショッピングモールへの買い物を心待ちにしていた。

私自身は乗り気ではなかったのだが、一人で留守番するのは心細かったので両親と姉と共に車へ乗り込んだ。

一時間ほどの運転でショッピングモールの駐車場に着くと、姉は嬉々とはしゃぎ車を降りていった。

「じゃあ、ここで待ってる」

私は両親にそう言った。

というのも、移動中にあまり乗り気でないことを伝えており、ゲームをしながら車内で待っているという話にまとまったのである。

というわけで私は、一人で待つことになった。

そのはずだった。

しばらくして、お父さんに抱っこされて姉が戻ってきた。

泣きじゃくって、足は血だらけ。

お父さんの話では、はしゃぎながら階段を上ったせいで踏み外したという。お父さんはハンカチで止血を試みていたが、思いのほか深く擦りむいたようだった。

そこに遅れて、薬局のビニール袋をひさげたお母さんも戻ってきた。

そのとき、私の視線はお母さんの背後の親子に釘付けだった。

父親と娘、仲睦まじげに手を繋ぎながら歩いている。

─のであるが、その父親の額に一角が生えている。

それはお伽話で見たような鬼のようだった。

娘には一角は生えていない。もしかしたら生えていたのかもしれないが、私には見えなかった。

やがて、その親子は車に乗りこんで駐車場を去っていった。

姉につきっきりのお父さんとお母さんはその話を信じてはくれなかった。

私の見間違いだったのだろうか………。

そう思うようになった数年後のある日、別の鬼をみた。

朝食を食べ終わって登校する支度を始めようというとき──。

「下校途中の女子児童を誘拐したのちに殺害した犯人■■に死刑判決が下されました」

ふと、テレビに目を向けた。画面に映る死刑囚の額には──。

一角があった。

「当然の結果でしょうね。この犯人はその女子児童の肉を全部平らげるという猟奇的な思考をもっていますからね」

──。

あの日、駐車場で見かけた父親と娘。あれは本当に、親子だったのだろうか。

今でもときどき、思い出す……。

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