中編3
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日常怪談「スリッパ」

近頃、大学の講義を終えてアパートの部屋に帰ってくると、トイレのスリッパがあらゆるところに移動している。

ある時は部屋の絨毯の手前に、律儀にもかかとを揃えて置いてあった。またある時には、トイレの中ではなく、トイレの前の廊下に置いてあった。

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僕が元どおりに戻しても、次の日大学から帰ってくるとまた別の場所に移動していた。

僕はどのようにしてスリッパが移動するのかを知りたいと思い、奮発して購入した監視カメラを、部屋から廊下までのすべてを見渡せる位置に仕掛けてみた。

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そして、今日帰ってきた時には、玄関にトイレのスリッパが置いてあった。

それはドアの方にかかとを向けてあったので、まるで客人をもてなしている印象を受けた。

僕はどきりとして、急いでカメラの映像を確認した。

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僕の悪い予感は、残念なことに的中してしまった。

僕が部屋を出てすぐにトイレのドアが開くと、宙を浮いたスリッパはそのまま玄関の前に丁寧に揃えられた。

その数分後、玄関のドアの開く音がした。正確には何者かが内側から鍵を開けて、何者かを部屋に招き入れているのであった。

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その何者かの姿は見えなかった。おそらくは、幽霊なのであろう。

そして、ドアを開けた何者かは、おそらくこの部屋に住んでいるのだろう。

つまり僕は知らぬ間に、幽霊と生活していたことになる。額に滲み出る汗を拭いながら、再び映像に意識を戻す。

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映像の中でぱたぱたと廊下を歩くスリッパは、絨毯の前までくると乱雑に脱ぎ捨てられた。

それをこの部屋の"主"が几帳面に揃えた。

それから30分後、スリッパはまたぱたぱたと廊下を歩いて、今度はトイレの前で脱ぎ捨てた。

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ドアを開けて閉めて、水の流れる音がして、またスリッパをぱたぱたさせて部屋に戻った。

そこで僕は映像を早送りにした。

早送りの映像はどんどん流れていき、数時間分が経った時、玄関へと向かうスリッパを目撃した。

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そのスリッパは名残惜しそうに何度も足踏みしていたが、ようやく動きを完全に止めると、玄関のドアは開かれ、また閉じて、それから再びスリッパはかかとをドアに向けて揃えられた。

そのまま、映像は玄関に現れた僕の姿をとらえて終わりを告げた。

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僕は、これまでスリッパが部屋の至る所に置かれていたことを思い出した。

つまりそれは、もともとこの部屋に住んでいた幽霊だけでなく、彼の友人の幽霊までもが、いまではこの部屋に住み着いていることを意味しているのかもしれなかった。

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なぜなら、僕が部屋に帰ってきた時にスリッパが玄関にないということは、友人の幽霊はまだ帰っていないということだからだ。

そこで僕は、さっき玄関で見たスリッパの向きを思い出した。

映像でも見たそれは、綺麗にかかとを揃えて、客人用だと言わんばかりに置かれていた。

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その時、玄関のドアの開く音がした。

鍵は閉めたはずなのに、いつのまにか開いていた。

それからぱたぱたとこちらに近づいてくるスリッパの音は、どたどたと大勢の、素足の足音を引き連れていた。

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僕は廊下と部屋を隔てるドアを閉めて必死に押さえたが、ドアを蹴るスリッパの足裏が、磨りガラス越しに何度も見えた。

部屋の中からは、これもまた大勢の、見えない者たちによる大笑いが小さい部屋にこだました。

Concrete
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