短編2
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幽霊部員

N県のS高校は文武両道で知られる野球の強豪校だった。

しかし事件が起きた。2年生部員の谷川和夫がイジメを苦に自殺した。誰もいない部室で首を吊っていた。遺書には3年生から日常的に暴力を受けていたことを書いていた。

両親は必死に事実解明を学校に求めた。しかし学校は事実が確認できないの一点張りで耳を傾けなかった。

これは明らかな隠蔽だった。何故なら加害者と見られる部員は有力な左腕エースだったし親が政治力ある地主だったので学校は是が非でも無かったことにしようとした。

彼の死後、野球部で不思議な現象が続くようになった。

女子マネの朝山久美と小田由佳子が部室にいたところ、誰かがドアをノックした。久美がドアを開けたが誰もいない。暫くするとまたノックの音。「誰?」と由佳子が聞くとドアの外で「俺だよ」の返事。それは谷川君の声だった。

それと何故か13日の朝になると部室が散らかっている。野球部は部室の清掃をルール化しているし清掃当番と女子マネも一緒に掃除するのでさぼった訳でもなかった。この13日は谷川君が首をつった、つまり月の命日でもあった。

別の日の夜に2年生部員が忘れ物を取りに部室に入ったところ、急に天井の照明が消えた。停電かと思い頭上を見上げたら、ユニフォーム姿の脚だけが見えたということもあった。

谷川君の霊が無念の思いでさまよっている、誰もがそう囁きだした。

いよいよ夏の予選。しかしS高校は格下のO高校にコールド負けを喫した。エースが連打を浴びリリーフ陣も総崩れ。奇遇にもO高校のエースは谷川君の中学時代のチームメイトだった。

予選終了後、学校はイジメを認めた。加害者は3年生エースの下条浩二と控えピッチャーの上野孝之、黒田佳宏だった。下条は谷川君にエースの座を奪われる不安から谷川君に日頃から暴行し上野たちも一緒になっていた。学校側は野球部に対して無期限の活動休止と3人の停学を言い渡した。不思議にも下条ら3人はO高校との予選の日に首に違和感を感じていたという。

数年たち社会人となった朝山久美と小田由佳子が久しぶりに学校にやってきた。野球部の練習を眺めているとあることに気がついた。部員たちが誰もいないベンチに一礼している。現役の女子マネにわけを聞いた。

するとその女子マネはこう答えた。

「谷川先輩ですよ、ああやってよくベンチで練習を見てるんです」

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