長編8
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香港の、一味違う僕

ずいぶん昔に、友達二人と香港に行ったときの話です。

バイト仲間三人組でした。

僕以外の二人は細身ですが身長がとても大きく、Y君は187cm、S君は182cmで、とても目立ちました。

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しかも二人ともタトゥが入っていて、Tシャツの袖から見えていました。

Y君は帰国子女でタトゥは日常の様でした。

S君は少し前にバンドをしていた様で、その時に入れたものでした。

二人とも、怖い「刺青」の様なものではなく、ト音記号や星などのイラストちっくなデザインでしたが。

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そして二人は全身黒ずくめのファッションでした。

帽子も黒、Tシャツやパンツ、靴も黒。バッグも黒でした。

Y君は原宿系ブランドが好きで、Tシャツに何万もつかう人でした。

S君はハイブランドが好きで、これまた高い服を着ていました。

身長の大きな二人が全身真っ黒、腕にはタトゥ。目立たない訳がありません。

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僕はといえば、二人の間に入ると子供の様に見える程の身長の差で、「並んで歩きたくない」といつも思っていました。

その時は半ズボンに赤いTシャツを着ていたから、なおさらチビっ子感がありました。

屋台に行っても、お店に行っても「あのお兄さん二人は芸能人?」なんて、店員さんが僕に聞いてくる始末…。

ちぇっ。

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三人で意見を出し合い、それぞれ行きたい場所を言い合い、スケジュールを立てて行動しました。

2日目の夕方、僕のリクエストの番になりました。

それはブルース・リーのグッズショップでした。

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「いまどきブルース・リーのグッズ欲しいヤツが居るとはねぇ…」

「僕の友達のおじいちゃんが『青三さん』って名前でさ、みんなこっそりブルー・スリーって呼んでたな」

なんて無駄口たたいて、乗り気じゃありません。

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「なんだよ。みんなの場所も文句言わず行ったろ。一緒に行こうよ」

「いや、行かないって言ってる訳じゃないから。行こ行こ。はぁ…」

乗り気じゃない二人を引っ張り、電車に乗って移動します。

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「あれ…」

調べた住所に到着したのですが、全然違う店でした。

釜飯屋の様な飲食店になっていました。

「なんだよ、無いじゃん」S君が言います。

「おかしいな…。ネット情報でここって書いてあったのに…」

「どうすんだよ」Y君に責められます。

「ちょっと聞いて来る!」

店に入って店員さんに確認しました。

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カタコトの英語で何とか情報を聞き出した僕は、自慢げに話します。

「移転したらしい。住所書いてもらってきた!」

「行くの?」

「うん。港の方に大きなお店としてオープンしたっぽい。タクシーで行こうよ」

「…タクシー、お前持ちな」

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小さな漁船みたいな船がたくさん停泊している、寂れた小さな港に付きました。

店もまばらです。

「おい…。本当にここ?」心配性のS君が聞いてきます。

「タクシーの人に住所渡して来てもらったんだから、間違いないと思うけど…」

タンクトップをたくしあげ、お腹を丸出しにして散歩しているおじさんに聞いてみます。

「えー…。あー…。ウェア イズ ディス アドレス?判るかな。どこ?」

と、店員さんに書いてもらった住所を見せます。

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振り返って指差しながら、何かを言ってくれています。

「あっち?あっちね。判りました。ありがとう。しぇーしぇー」

海を見ながら雑談してる二人に、得意げに言います。

「判ったよ。あっちだ!」

と指差された方に向かいます。

たしかに数店舗のお店が見えてきました。

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…しかしそこはコンビニでした。

再度お店の人に聞いたら、たしかに数年前はブルース・リーショップだったが、潰れたとの事。

「さ、どうすんの?こんなヘンピなとこまで来させて」

「…。あの。まぁでも、普通の旅行じゃ来れなかったろ?こんな場所。ご飯でも食べて街に戻ろうぜ」

僕は平然を装って強がります。

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本当に地元の人しか行かない様なご飯屋さんがあったので、思い切って入ってみました。

お客さんは誰もいません。

外国人だと判ったからか、お店の人の態度がものすごく丁寧で腫れ物に触る様に対応してくれました。

「なんか俺らにビビってるみたいだな」Y君が言います。

「いやぁ。日本語も英語も判らないからでしょ」と僕。

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数種類のおかずと大きなチャーハン、汁なしの混ぜ麺みたいなのを頼み、シェアして食べていた時でした。

ガラの悪い若者4人が入ってきました。

広東語で話しながら奥の席に行きます。

その時、ぼくたちにも気付いて話しかけてきました。

広東語なんて判らないのでポカーンとする僕たち。

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あちらの4人は顔を見合わせてヒソヒソ会話をしたあと、再度僕たちに言葉少なに話しかけ、会釈して奥に行きました。

「なんだ?知り合いだと思ったのかな」

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「いやぁ、美味しいね」

食べていると、またガラの悪い若者が、こんどは6人入ってきました。

「おい…なんだよこの店」S君が言います。

「たしかにイヤだな。早く食べて帰ろうぜ」とY君。

「そうだね。たぶん地元の若者のたまり場なんだろうね」

すると、やっぱりその6人も、ぼくたちに話しかけてきました。

「いやだから判んねぇって」とY君。

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奥の4人が、その6人に何かを伝えています。

それを聞いた6人は、無言のまま僕たちに会釈をして奥のテーブルに行きました。

「なに、なにぃ。もう…」S君はチャーハンをかき込み、早く帰ろうと言います。

その後もガラ悪お兄さんが次々と現れ、最終的に満席になったその店は、異様な雰囲気でした。

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何か違和感がありました。

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善く善く廻りを見たら、その違和感に気付きました。

ガラの悪い若者たちの服装が、全員真っ黒だったんです!

奇しくもY君S君と同じ様に…!

しかも腕にタトゥのある人ばかりです。

「おい、KOJI。早く会計してこいよ。あとで割り勘するから」

お店を出るY君S君。

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僕はお会計をしようと、お店の人の所まで行きました。

困った様な顔で作り笑顔の主人。

「ハウマッチ?いくらですか?」

すると近くにいたお兄さんが、僕の袖を引っ張り、何かを言っています。

両手でバツを作り、顔を振っています。

「え?払わなくて良いの?ノーペイ?」「イエス、イエス!」

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えぇ…。なんで?お兄さんに財布をしまえとジェスチャーされます。

別の数人のお兄さんが笑顔で僕の背中を押し、お店の外まで押し出します。

「いいの?じゃあ払わないからね。帰っちゃうからね」と僕。

何言ってるのか判らないクセに「イエス、イエス」と笑顔のお兄さんたち。

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「おぉい!すごくない?タダだったよー…って、どこ?」お店の外で待ってるはずの二人がいません。探して歩くと衝撃的な光景をみました。

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な…、なにこれ!!

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同じ様に真っ黒な服&タトゥのガラ悪お兄さんが、さらに何十人も港に集まっていたのです。

そして、Y君S君は仲良さそうに知らないお兄さんに肩を組まれていました。

「なになに。どうしたの?」と聞いたら

「判らん。『ブラザー、ブラザー』って肩組まれて…」

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威嚇的で迫力のある真っ黒お兄さんの大群を見て、地元の人たちはだれも居なくなりました。

怖いのだろうけど、ぼくたちには終始優しく、フレンドリーだったので、焦りはしませんでした。

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すると僕の所に、色付きのシャツを来た2人が歩いてきました。

「あ、初めて黒じゃない人だ」

握手を求める2人。「なに?僕?え?」と判らず握手。

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「where are you from? which branch are you in?」

あ!英語だ。ウェア アーユー フロム…。あぁ。

「ジャパン!トーキョー、トーキョー」

「Oh, are you from the Tokyo branch? This way, please.」

え…?なに?

判んないよ…。

腕を引っ張られ、どこかに行こうとしてます。

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帰国子女のY君が言います。

「KOJI、行くな。なんか東京支部とか言ってんぞ。誰かと間違えてる」

「うそ。やば。Y、ちょっとこの状況、聞いてよ」

色付きシャツお兄さんと、会話をするY君。表情が険しくなります。

「Okay, I understand. We'll be leaving soon.」

と会話を終えたY君は、振り向きざまに言います。

「おい、帰るぞ。いそげ」

「なに?え?」「ちょ…え?」僕とS君は慌てます。

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真っ黒軍団から少し離れると、地元の人が遠巻きに見ていました。

そして近付く僕たちを見ると、避ける様に距離を空けます。何?この状況。

「何だったんだよ」S君が聞きます。

「タクシーの中で説明するから。とりあえずここを離れよう」

急ぐY君。

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ようやくタクシーに乗ります。「ふぅ…」とため息を付くY君。

「さぁ。話してよ。なにがあったの?」

この出来事の顛末はこうでした。

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中国全土、また台湾や香港、そして日本にも広がる、有名な中華系マフィアの会合が、あの港であったそうです。

彼らのユニフォームは、全身黒。どんな服でも良いから、全身真っ黒が決まり。

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「あぁ。通りで…。だから勘違いして、飲食店のおじさんも、ぼくたちを見て怯えてたんだ」と僕。

「このTシャツ、4万もすんのに…」とS君。

Y君は続けます。

「あぁ。会合は持ち回りでいろんな場所でやってて、今回は偶然香港だったようだな」

「広東語が判らない俺らも、どっかの遠い支部から来たんだと思って受け入れてくれたんだ」

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「でもさ、僕は真っ黒じゃないよ。どうして何も言われなかったんだろう」

それを言った途端、笑いだすY君。

「あっはっは。それが傑作なんだよ」

「なんだよ。理由があんの?」とS君

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「実はね、ユニフォームは真っ黒、と言っただろ?でも例外もあるんだ」

「あ、そういえば握手を求めてきた二人も色付きだったね」

「うん。唯一、色を着ても良い例外。それは『支部の幹部』なんだ」

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「え!僕、幹部って思われてたの?」

「ああ。だから飲食店でもお金は要らないって言われたし、俺らと違って肩も組まれなかっただろ?」

「あ…確かに」

「握手を求めてきた二人は、台湾と、どこかの支部の幹部だった様だな。KOJIが調子に乗って『トーキョートーキョー!』なんて言うから、彼らはお前を東京支部の幹部だ…って思ったわけ」

「やば…」

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「よりによってチビのKOJIが幹部とはね」とY君。

「今日からお前の事、ボスって呼ぶわ!」とS君。

「ふざけんな!全く。もう街に戻って買い物でもしようぜ」と僕。

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それから街に戻り「ボス、タクシー代よろしく」と言われ、お土産屋さんに陳列されていたブルース・リーのキーホルダーを買って満足する僕だったのです。

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ほんの瞬間だけ、中華系マフィアの幹部になった…っていうお話でした。

Concrete
コメント怖い
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@おーいお茶 さま

ニューヨークに関するお話はアップした事はありませんが、僕のは全て体験した実話です。

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@aino さま

いつもありがとうございます。

はい…。
どこかに行くたび、なにかをするたび、ヘンな事に巻き込まれている印象です。
ボーっとして、抜けているんでしょうね…。
気を付けなきゃです…。

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@おーいお茶 さま

実話です。
まさにそれです。

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