中編5
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ずっと待ってる。

高校3年のある夏の夜。

俺は彼女を誘って心霊スポットへ行った。

それは郊外に残された大きな廃病院で地元では女の霊が出ると噂される有名な心霊スポットだった。

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「雄太くん、そんな所に行って本当に大丈夫?」そう彼女が怯えた声で聞く。

俺は「大丈夫、大丈夫♪あんなのただの噂だから 。それに俺が一緒なんだから心配しなくて大丈夫だって。」と勝手に拝借して来た兄貴の車を運転しながら彼女の問にカッコをつけてそう言った。

その後とんでも無く怖い思いを「この俺」がするとも知らずに。

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しばらくして車は廃病院の駐車場に着いた。

アスファルトのいたる所がひび割れ、その隙間から草が伸び放題に生えている。

ふと山をバックにした、その廃病院を見上げると、それは真っ黒な塊の様にそびえ、沢山の割られた窓と錆び付いた看板があり

「いかにも心霊スポット」的な風貌で佇んでいた。

俺はその迫力にちょっと怖気づいたが

彼女が「やだ、怖いよ。本当にここに入るの?」と腕にしがみついてくるのに気を良くして

「当たり前だよ。ここまで来て入らない訳無いじゃん。離れない様に着いて来いよ。」と答えて意気揚々と彼女を連れ、病院の裏口へ回ると噂通り鍵の開いているドアから中へと侵入した。

真っ暗な通路を俺の持って来た懐中電灯が一筋の光となって照らし出す。

両脇にはCT室、X線撮影室、霊安室と様々な部屋が並んでいる。

俺はしがみつく彼女を連れ、ドアの開け放された手術室へと入って行った。

そこには小さな手術用器具などは無いものの埃を被りボロボロになった手術台や手術台を照らす無影灯がそのまま残され、何とも言えない生々しさに息を飲む。

俺は一頻り懐中電灯で隅々まで照らして見るが、特に何も異変は無い。

やっぱりただの噂だな。

そう思い気が抜けて彼女を連れて手術室から廊下に出た。

すると怯えきった彼女が上目遣いで

「雄太くん、もう帰ろ…」

と俺の腕にぎゅっとしがみついたまま彼女が言った。でも俺はそんな彼女が可愛くてもう少し探索したくなり

「もう少しだけ、後一階上を見て帰ろ。」

そう言い、しがみつく彼女を連れて二階へ上がる。コツ…コツ… と階段を上がる彼女の靴音だけが真っ暗な病院内へ響き渡る。

二階へ上がると、そこは両方の壁沿いに病室のスライドドアがずらっと並び中央にナースステーションや給湯室、トイレや壊れたエレベーターが設置されているようだった。

かつてここには多くの患者が入院していて治療を受けていたのだろう。

今や静寂と暗闇に包まれている。

一筋の光が照らし出すフロアーは土埃を被り、そこにいくつもの足跡だけが行き来している。きっと俺達と同じ様に肝試しに来た奴等の足跡だろう。

俺と彼女は通路をゆっくり進んで中央にある黒く切り取った様にぽっかりと開いたトイレの入口の前を通り過ぎた。

「何も無いけど、やっぱり夜の病院って不気味だよな。」俺がそう言うと、彼女は

「怖いよ…。雄太くん、私もう帰りた…」

まで言うとピタッと足を止めた。

ん?どうした?と思い彼女を見ると、彼女は俺の腕にしがみついたまま顔を伏せじっとしている。

俺は(ヤバい。無理強いし過ぎて怒らせたかな?)そう思い慌てて

「ごめん、もう疲れたよな。そろそろ帰ろっか?」と彼女に言った。

すると彼女は俯いたまま

「…さない…」そう呟く様に何かを言った。俺が「え、何?」と聞き返した、とその時。

shake

「返さないっ!!」と彼女はバッと顔を上げ、そう叫んだ。

「えっ?!!」俺は驚いて後ろに倒れそうになった。

その勢いでしがみついていた彼女の手から離れた俺の腕を彼女が「ガツッ」と右手で掴んだ。

shake

「絶対、返さないっ!!」

そう言う彼女は目をカッと見開き憎悪の表情で俺を睨んだ。

「あ…あ」と怖すぎて言葉にならない俺に向かって彼女は更に言葉を荒げた。

「ユウヤさん!どうして来てくれなかったの?!私、ずっーと待ってたのに!苦しくて辛くて、寂しくて!退院したら結婚しようって言ったじゃない!」

彼女の掴む手にグッと力が入り腕が痛い。

彼女は掴む手に更に力を込め

「段々、何も食べれなくなって、身体に力も入らなくなって来て…それでも、あなたはきっと来てくれるって信じてたのに!

shake

約束するって言ったじゃないっ!!」

背中にぶわっと鳥肌が立つ。

「いや…ちが…」

俺はそんな約束なんてしてない!

そう言いたくても言葉にならない。

彼女はもう見たことも無い様な恐ろしい形相で

shake

「ユウヤさん!それをあなたは裏切ったのよ!」「許さないっ!!連れていってやる!!」そう言い、彼女は掴んだ手を離すと

バッと俺に飛びかかり両手で首を絞めてきた。

ゴロンッと思わず離した懐中電灯が床を転がる。

(殺される!)そう思った俺は

shake

「違うっ!!俺はユウヤじゃ無いっ!!」

やっとの思いでそう叫んだ。

するとフッと首を絞めてた彼女の手から力が抜けた。しばらくするとその両手は絞めてた首から手を離しブラーンと力を失った。

彼女を見ると口を半開きにして目はぼんやり宙を見ていた。

しばらくの沈黙の後、俺は恐る恐るまだボーッと宙を眺める彼女の服の袖を掴み揺らし

「な、おい?大丈夫か?」そう聞くと、彼女はハッと気付いた様に俺を見て

「あ、雄太くん…?私、頭が凄く痛いの。」とそう言った。

俺の心臓は壊れそうな程、動悸を打っていた。フラフラと歩く彼女を支え病院を出ると車に乗った。

彼女は助手席に座ると、スーッと電池が切れたように寝始めた。

一体、この病院で何があったのか?

おそらくあの「ユウヤ」という男が結婚の約束をした女性が病気になり、入院をした事を期に裏切り逃げたのではないか…。

それを知らず女性は彼が来てくれるのを病床でずっと待っていたのだろう。

事切れるその間際まで。

いや、違う。彼女はきっとまだ待っている。

この廃墟となった暗い病院の中で、今でも

かつて愛した男が訪ねてくるのを。

そして今度こそ、一緒になる為にその手で

「あの世」へ連れて行こうとしているのではないだろうか。

Concrete
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