中編4
  • 表示切替
  • 使い方

呪いの仏像

私が中学の頃、学校の敷地内にあった郷土資料館を取り壊すことになり、課外活動という口実で片付けを生徒たちですることになった。

郷土資料館といっても管理人は居ない、展示というよりは古いものが乱雑に置いてあるただの倉庫だった。

持ち主がわかる展示品はすでに返却され、あとは処分する物ばかりだったので、生徒たちが片付けに駆り出されたというわけだ。

片付けをしていると親友のAが、

「すごいものを見つけた」と興奮した様子で話しかけてきた。

Aの指さす方へ目をやると、農機具の残骸の向こうに赤子くらいの大きさの何かが古い布に包まれて転がっていた。

近くで確認すると、その布には墨で何かが書かれているようだったが、色褪せて所々破れていたので何が書いているかはわからなかった。

「もしかしてこれ。河童か鬼のミイラが封印されているのかもよ」とAは言ったが、そういう話はテレビや雑誌の中だけだろうと、その時は相手にしなかった。

当時、テレビでは心霊やオカルト系の番組を頻繁に放送していて、Aはそういった類のものが好きだった。私もたまに見ていたが内容については懐疑的だった。

郷土資料館の片付けは、午後の授業を2日つぶして終わった。

片付けが終わった日の放課後、部活が終わって帰ろうとすると部室の前にAがいた。

「面白いものを見せたい」というので私のことを待っていたらしい。

嫌な予感はしたが、Aの言う見せたいものが気になったので付き合うことにした。

荷物を一旦自宅に置いて、母には適当に理由をつけて夕飯も食べずに家を出た。

自転車に乗り20分ほどでAの家に着いた。Aは外で待っていて手には懐中電灯を持っていた。

自転車を置き、Aの案内で後ろをついていく。

Aの自宅の裏には鶏を放し飼いにできるほどの広い庭があり、その隅に小さな社が祀られていた。木の格子戸が付いた社は、何年も手入れがされていない様子だった。

信心深かった祖母が亡くなってからは、家の者も寄り付かなくなったという。

Aが格子戸を開けると、郷土資料館で見つけたあの布に包まれた何かがあった。

薄闇の中、懐中電灯に照らされたそれは、オカルトに懐疑的な私が見ても不気味だった。

「あのまま捨てるのはもったいないから持って来た。中身が気になるから一緒に開けるのを手伝ってほしい」とAは言う。

断ろうと思ったがAの勢いに負けて仕方なく、そして若干の興味もあり「懐中電灯で照らすだけなら」ということで了承した。

ぼろぼろの布を慎重に外していくと、釘が無数に打ち付けられた木が現れた。釘も本当に釘かどうかわからないくらいさびて黒くなっていた。

そしてその木をよく見ると人工的な模様が彫られているようだった。布をすべて取り終わると、その模様が人の形をしていることがわかった。仏像だ。錆びた釘は仏像の頭、両目、胸、腹の場所に刺さっていた。

Aの方に懐中電灯を向けると、そのとたんAが急に嘔吐した。驚いた私はAの背中に手をやったが、その手は払いのけられた。

仏像を社に戻し、今日は気分が悪いから帰ってくれとAは言った。

はじめて見るAの雰囲気に気圧された私は、何も言えずそのまま岐路についた。

次の日からAは学校に来なくなった。

1週間経っても学校に来ないAが心配になり、様子を見に行くことにした。

しかし玄関に出てきたAの母親に「体調がよくないので会えない」とだけ言われ、結局Aに会うことはできなかった。いつも明るいAの母親も憔悴している様子だった。

帰ろうとしたとき、ふとあの仏像のことが気になった。

裏庭に回る。夕暮れのなかに浮かぶ小さな社。閉じた格子戸に手を掛ける。思っていたより固い。

力を込めて開けると、どさっと地面に何かが落ちた。

鶏だった。頭に釘が刺さった状態で死んでいた。

その1か月後、Aの母親が死んだ。

大人たち噂によると精神を病んで千枚通しで自分の首を刺したという。

親子3人暮らしだったA一家は、母親の葬式もあげないまま父子揃って行方がわからなくなった。

1年後、Aの家が燃えた。

放火という噂も流れたが、こんな田舎の町でそんなことが起こったことはこれまで一度もなかった。

Aの家があった場所は更地になり、数年後、工場が建った。

鋼材関係の加工工場だったが、工場が出来て半年もしないうちに従業員が機械に挟まれて死んで、会社もすぐに潰れた。

次にできたのは地元の工務店の事務所だったが、従業員が灯油をかぶって焼身自殺をした。

それから30年近くその場所は空き地だったが、どこかの会社が買い取りビルを建てることになった。

工事中、地面を掘り返すと2体の白骨死体が出てきた。

地元新聞の紙面には、親子の白骨死体という見出しが躍った。

時間が経ち過ぎて身元は分からないらしい。

鶏の死体を見つけた岐路、車に跳ねられそれっきり光を失った私の目に、Aたち親子の姿が映った。

Concrete
コメント怖い
0
6
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ