中編3
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ソファ4

冷たい空気が体内に入り込み、心臓を締め付けてくるようで苦しい。

理解が追いつかない。

必死で整理しようとも手掛かりがなさすぎる。

訳の分からない場所に閉じ込められ、見知らぬ土地に放り出された。

ただそれだけの話だった。

月の光のお陰でなんとか周囲を見やるだけの光量がある。

ボロボロではあるがなんとか形を保って、地面に突き刺さっている十字架。

薄い霧と同居によって不気味さが増す。

一歩一歩神経を研ぎ澄ませ、慎重に前に進む。

ざくっざくっと土に付着している霜を踏みならしながら歩くも、景色が一向に変わらない。

普通に考えればここは墓地なのだろう。しかも日本のではない。

十字架の前で腰を下ろして、観察をする。

「何か書いてある」

ぼそっと呟き、手で付着している土を払い落とす。

文字がほとんど潰れているがこれはローマ字だろう。

やはりここは日本ではない。

それに年期も大分入っている。

この不可解な現象に頭を悩ませていると

ゾゾゾゾゾゾっと全身に鳥肌がたった。

背の方から気配を感じるが恐怖で体が硬直して動けない。

音はないが確実にその気配は近づいてきているのを感じる。

心臓の鼓動が早まる。全身に血流が駆け巡る。手の指先が震え始め、この寒さにも関わらず額からは脂汗が湧き出てくる。

どうやら、その気配が俺の背中の真後ろに到達したようだ。

振り向けない。いや振り向いてはいけない。

左の耳元に吐息を感じる。

どうやら俺の顔の真横まで顔を近づけられているようだ。

目が動かせない。それを視界に入れることを本能が拒む。

ここで俺の人生は終わってしまうのだろうか。

どれくらいの時が経っただろうか。

いやおそらくは一瞬であったはずだ。

その一瞬が途方もない時間に感じた。

するとスッと気配が消えた。

徐々に恐怖から解放され、心臓の鼓動が通常のリズムを取り戻し始めた。

指先を動かすと問題なく動く。

ゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向いた。

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そこにはこの世界の住人ではないであろう存在があった。

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「・・くん、・・・ねぇってば、起きてよ」

誰かが俺を呼んでいる声が聞こえる。

「ん・・」と徐々に重い瞼を引き上げていく。

朧げな輪郭の焦点が合わさっていく。

明美・・?

そこには目から涙を零している明美の姿があった。

「あれ?一体・・、・・・ここは?」

「よかった・・・目覚ましてくれてよかった」

落ち着いてから俺は明美からことの経緯を聞いた。

夜に胸騒ぎを覚えた明美は俺の家にやってきたとのことだった。

部屋に俺がいないことに気づいて探そうとしたところ、ソファの中からドンドンと何か殴りつけているような音が聞こえて逃げようとした。

ドアを開けようとしたその時、叫び声が漏れ出てきた。俺の声で。

中にいるのが俺だと分かり、無我夢中でソファをこじ開けるとその中にいた。

起こしても起こしても目を覚まさず、震えたり、硬直したりとどうして良いか分からず、ずっと声をかけ続けていたとのことだった。

俺はソファを見やる。

そもそもどうやってソファの中に入れるんだろうか。

少なくても誰かがそうしない限り、自分一人で入ることなんてまず無いだろう。

では誰が?

なんとなく俺は勘付き始めている。

スマホを取り出そうとした時、手にズキッとした痛みを感じた。

血が凝り固まった手でスマホを掴み、大学時代の友人の携帯番号を押した。

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翌週の休日。

それまで俺は実家から会社へ通っていた。

親には信じて貰えなさそうだから本当のことを話すことはやめたけども。

今日は自宅で大学時代の友人、さとると駅前で落ち合うことになっていた。

さとるはオカルトマニアである。どこまでのマニアかは分からないがネットでも一部の界隈では有名らしい。

俺は駅前につき、キョロキョロと見やると見覚えのある男性の姿が目に入ってきた。

ナチュラルなのか人工なのか分からないパーマは金色に輝いている。

ちょっと神経質そうである切れ目。

スッと綺麗に通っている鼻筋。

血色の悪い薄い唇。

「おっそいよ〜。待ちくたびれたよ〜」とそこにはさとるの姿があった。(続)

Concrete
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