「神なんていない。絶対にいない。」
そう豪語する友人のAには、そう語る資格が認められるであろう武勇伝がある。
私とAとは小学校からの付き合いで、この話は小学6年生のときの話だ。
彼の父親が交通事故で他界した。
A自身かなりのショックを受けていたようだが、何よりもAの母親が心的ダメージを受けた。
気が狂った、などではない。もっと正常に、心が壊れていたそうだ。
Aは父親の死後、小学校卒業までの間の半年間、学校に来ることはなかった。
正確には母親の元を離れることができなかったのだ。
私が学校の配布物をAの家まで届けた時、Aが話してくれた。
「家族全員がそばにいないと飯も食わないし、一人でも家から外に出るとずっと涙を流している」
と。
そしてとうとう事件が起こった。
中学校に進学してAも学校に来るようになったが、時を同じくしてAの母親が宗教団体に入った。
Aの母親は自身の貯金の全額をその団体に寄付すると言い出した。
そこでAが立ち上がったのだ。当時中学一年生になったばかりのAが、このままではいけないと。
私はその計画の協力者兼証人として、その場に立ち会った。
中学校の近くには小さいながらも神社がある。
神社にはもちろん神がいて、現世にその身を留めるために依り代(ヨリシロ)というものが置かれる。
神社ごとに依り代は異なるが、その神社の依り代は古い古い鏡だった。
留められている神は、その土地を守る神。いわゆる氏神だった。
Aと私は深夜二時、神社の本殿に忍び込んだ。
依り代の鏡を外枠からくり抜き、それを持参したリュックにしまった。
私は証拠として一部始終をカメラにおさめた。
そしてあらかじめ同じ大きさに用意した市販の鏡を、依り代の外枠にはめ込んだ。
Aは神社から盗んだその鏡を、母親にプレゼントしたのだ。
「ほら見ろ。ただの鏡だ。神様なんてどこにもいやしないんだ。」
その後。もちろんAと私はお叱りを受け、依り代の鏡は本来の場所に戻された。
だが、Aの母親も元気を取り戻した。宗教にすがる姿はもう無く、私と会えば笑顔で挨拶してくれた。
神様より息子を信じます、と。
「神がいるなら天罰とかで俺は五体満足じゃないだろう?
でももう立派な大人だ。
神なんていないか、俺のほうが強いか、だよな」
だが、実はこれには後日談というか、裏話がある。
神社に忍び込めたのも、事前に同じ大きさの鏡を用意できたのも、私がその神社を管理している家系の子供だったからで。
私の父の話では、Aが天罰喰らわないのは、神を祀ってきた血族である私のおかげなんだとか。
だが、やはり私も神なんていないと思う。
だって、「依り代の鏡」は、今もAの家の仏壇の下に隠してあるのだから。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話