短編2
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俺のほうが強い

「神なんていない。絶対にいない。」

そう豪語する友人のAには、そう語る資格が認められるであろう武勇伝がある。

私とAとは小学校からの付き合いで、この話は小学6年生のときの話だ。

彼の父親が交通事故で他界した。

A自身かなりのショックを受けていたようだが、何よりもAの母親が心的ダメージを受けた。

気が狂った、などではない。もっと正常に、心が壊れていたそうだ。

Aは父親の死後、小学校卒業までの間の半年間、学校に来ることはなかった。

正確には母親の元を離れることができなかったのだ。

私が学校の配布物をAの家まで届けた時、Aが話してくれた。

「家族全員がそばにいないと飯も食わないし、一人でも家から外に出るとずっと涙を流している」

と。

そしてとうとう事件が起こった。

中学校に進学してAも学校に来るようになったが、時を同じくしてAの母親が宗教団体に入った。

Aの母親は自身の貯金の全額をその団体に寄付すると言い出した。

そこでAが立ち上がったのだ。当時中学一年生になったばかりのAが、このままではいけないと。

私はその計画の協力者兼証人として、その場に立ち会った。

中学校の近くには小さいながらも神社がある。

神社にはもちろん神がいて、現世にその身を留めるために依り代(ヨリシロ)というものが置かれる。

神社ごとに依り代は異なるが、その神社の依り代は古い古い鏡だった。

留められている神は、その土地を守る神。いわゆる氏神だった。

Aと私は深夜二時、神社の本殿に忍び込んだ。

依り代の鏡を外枠からくり抜き、それを持参したリュックにしまった。

私は証拠として一部始終をカメラにおさめた。

そしてあらかじめ同じ大きさに用意した市販の鏡を、依り代の外枠にはめ込んだ。

Aは神社から盗んだその鏡を、母親にプレゼントしたのだ。

「ほら見ろ。ただの鏡だ。神様なんてどこにもいやしないんだ。」

その後。もちろんAと私はお叱りを受け、依り代の鏡は本来の場所に戻された。

だが、Aの母親も元気を取り戻した。宗教にすがる姿はもう無く、私と会えば笑顔で挨拶してくれた。

神様より息子を信じます、と。

「神がいるなら天罰とかで俺は五体満足じゃないだろう?

でももう立派な大人だ。

神なんていないか、俺のほうが強いか、だよな」

だが、実はこれには後日談というか、裏話がある。

神社に忍び込めたのも、事前に同じ大きさの鏡を用意できたのも、私がその神社を管理している家系の子供だったからで。

私の父の話では、Aが天罰喰らわないのは、神を祀ってきた血族である私のおかげなんだとか。

だが、やはり私も神なんていないと思う。

だって、「依り代の鏡」は、今もAの家の仏壇の下に隠してあるのだから。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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