再掲「エターナルチェイン」

長編15
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再掲「エターナルチェイン」

いつものドライブの終点。夕日の綺麗な海辺の駐車場で、私は亮太のプロポーズを受けた。

「僕と結婚してください」

こんなセリフ…一昔前のドラマみたいな、白々しい展開だと今まで思っていたけど、いざ自分がされてみると、感動で思わず胸が詰まる。

返事は勿論、「はい」一択だ。

「え…いいの!?」

「ちょっと、なんでプロポーズしといて聞くのよ!」

「そうだよな…ごめん、ありがとう!」

まさか…本当にここまで行くとは思っていなかった。だってこれは…AIが導いたものだったから。

マッチングサイト、「eternal chAIn(エターナルチェイン)」…婚活市場に現れた新しいサービスだ。

完全紹介制で、AIによるマッチング度はほぼ百%。現在の時点で、パートナーのチェンジも、離婚率も今のところゼロ%という、超画期的なサイトだ。

一回に登録できる人数は三十人。一人一人の性格や、価値観や趣味嗜好を、AIが時間をかけて分析し、その上で導き出された相手を紹介するため…紹介されたパートナーの相性は確実。

更に、会員へのサポートも万全で、婚活における焦りや不安といった、メンタルに関する事はアドバイザーがいつでも相談に乗ってくれるし、必要最低限のマナーも教えてくれる。

…これだけじゃない。会員になった暁には、エターナルチェインが提携しているアパレルやサロンといったサービスを、常時無料で利用できるのだ。

デートの予定を申告すれば、当日利用するカフェやレストランやホテルの予約もアドバイザーが引き受けてくれるし、結婚が決まれば、式場や新婚旅行の手配も整えてくれる。そして…アフターケアとして、結婚後も定期的な面談も行われる。

会費二百万で、ここまで手厚いサービスを受けられるのだ。会員は至れり尽くせりで、しかも外れくじを引く事無く、真っ直ぐゴールインに向かう。

ただ一つ欠点を上げるとすれば…登録者の性格を重視している為、予約順とは限らず、入会するまで三年以上も待たされる可能性がある、という事…

だが、私は運良く、半年後に会員として選ばれ…そして、晴れて亮太と結ばれる事と相成ったのだ。

「誠におめでとうございます!ついにご成婚ですね!」

専任アドバイザーのミタキさんが、弾んだ声で笑う。

「ありがとうございます…なんか、まさか結婚なんて…信じられないです」

「あなたと桜川さんとが、積極的に仲を深めていった努力の結果ですよ!…あ、今日のお洋服、とっても可愛いです!最初にお会いした時よりも、センス磨かれてますよ!」

「え、そうですか〜!?嬉しい…!」

ただ店先で眺めていただけの服や靴…数量限定のリップやファンデも、メンバー優待で、今は当たり前に手に入る。

ぶっちゃけ少し怪しんでいたけど…もうそんな不安はどこにもない。

今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しいくらいに、亮太との相性は完璧だったから。

「本日はこの後サロンに行かれますよね?」

「はい!その後は桜川さんとディナーを…」

「伺っております。クリスタルホテルをご予約されてますね!」

「そうなんです、夜景が素敵で…!」

「どうぞお食事、楽しんで来て下さいね。これからまだまだ、式などのサポートもさせて頂きますので、宜しくお願い致します!」

打ち合わせルームを出て、エレベーターのドアに映る自分の姿を見る。

「センス…かぁ」

ありきたりな量販店の服でどうにか満足していた頃とは、別世界だ。

エタチェンに入会してから、街中を歩いていると、心なしか異性の視線を感じる事が増えたし…年上の人に好印象を植え付けるのも、容易くなった。

「あら、素敵!お育ちが良いのね!」

気掛かりだった亮太の母親からも褒められたし…この先はもう、幸せまっしぐら。

理想の生活が…私を待っているのだ。

「…まあ、普通か…こんなの」

一階へ降り、私はすぐ近くにある、提携先の複合サロンに入る。

ネイル、ヘアメイク、エステ、ヨガ、ピラティス…女性の美に関するあらゆるもの全てがここにはある。

まさか、通い詰めるなんて思ってなかったな。

「いらっしゃいませ、的野様、本日はネイルですね、どうぞ…」

いつも通りに案内され、席につく。暫く経って、ネイリストが私の席に―――――

「え?」

「こんにちは、本日担当させていただく…って、え?あの…もしかして、的野さん?」

ドキリと胸が鳴る。名札に書かれた、見覚えのある苗字、そして、面影のある顔。

それは、私の大学時代の同級生、ユキノだった。

「久しぶり~!まさかこんな所で会うなんて、びっくり!」

学生時代を含めた私を知る人との再会は、正直苦手になっていた。

結婚、出産と女性が考え始める時期。そんな中…最高に相性の良い男と結婚が決まった、とSNSで書き込んだのを皮切りに、私は友人達とギクシャクし始めたのだ。

片思いだろうと両思いだろうと、恋愛を経験した事のある人間にとって、必ずどこかで相手と気持ちがすれ違い、上手くいかない事で悩み苦しむ。

かつての私も、どこかの誰かが仲睦まじくしている事に嫉妬し、イライラしながら、見えない所である事ない事愚痴っては、発散させていた。

それがまさか…自分の身に降りかかるなんて。

「ふーん、それで?お祝いして欲しいの?」

「こっちが仕事で大変なの知ってて、何?自慢?!」

親友だと思っていた子達からの、嫉妬…

そして今、また一人…ユキノが私の目の前に、座っている…

「的野さん、会員だったんだね、あ、指輪…結婚おめでとう!」

「うん…」

「もしかして、緊張してる?アロマ焚くね、落ち着くから」

「ユキノ…ここに、勤めてるんだ?いつの間に、ネイリストに…」

「それね~。当時のバイト先の店長の薦めで、専門学校行って、学び直したの。で…つい昨日まで、ウエディングサロンの方で、ネイルの担当してたのよ。私ね、出向でここに来てるんだ」

「…そう、そうなんだ」

控えめな笑顔、化粧っ気のない顔…よく見れば、昔のユキノとほぼ変わりはない。

けど…左手薬指に指輪が光っているのに気付き、思わず「えっ」と声が出た。

「ああ、これ?まあ、その『店長』が私の旦那なんだけど…今はもう立派なオジサンよ(笑)」

「へ、え…そう、そうだったの…何年?」

「もう結婚して六年かなぁ…専門通ってるさなかで…子供も出来ちゃってて、育児と両立すんの、大変だったよ~(笑)」

目の前が、かすんでくる。ユキノが??

だって…母子家庭なのに無理して大学行って、結局お金が無くなって退学して、水商売で生活してるって、周りから聞いたのに。離婚したギャンブル好きの父親から、慰謝料も大して貰えてないから、相変わらず貧乏だって…

なのに今は、結婚して子供もいて、こんなところで働いてるんだ。

バイト先って…雑誌にもよく出てる、あのネイルサロンか。昔はパッとしない店だったのに。

「的野さん、爪のお手入れちゃんとしてるね。今日はネイルストーンの調整だけで済むかも。あ、式の予定決まったら教えてね、私が担当するから!」

落ち着いて。やっとここまで来れたんだから。どうにか、私はまだ大丈夫。

「美紀子、お待たせ!早かったね」

「ごめんね。トイレ行きたくて…早めに。素敵なホテルよね!」

「早いに越したことないし、さあ、お腹空いただろ?…美紀子、爪、どうした?」

「これ?あのね…トイレしてたら、ネイルストーン全部取れちゃったの。キレイだったのにな~、残念」

「まあ…明日また、やってもらったらいいじゃん。…今日はさ、部屋も取ってるんだ」

「そうなの?フフッ、嬉しい~!」

…頑張ってね、ユキノちゃん。

三か月後、式は滞りなく終わった。

エタチェンが式の全ての手配をしてくれたおかげで、私と亮太は新居探しに時間を沢山使えたし、ネイルもドレスも、私のお気に入りで固めて、特別に、その道のプロフェッショナルに全てお願いした。

新居は、私の要望が七割ぐらいを占めていたけど…亮太は了承してくれた。

実家から歩いて二十分。亮太の実家からは遠いけど…これで、私が子供を持った時は、お母さんもすぐに来れる。

「娘をよろしくお願いします」

父は、最後の最後まで亮太に他人行儀だったけど…晴れて私たちは夫婦になったのだ。何も気にはしない。

年収、趣味、思考パターン、性格…AIが全て把握して、自他共に認めるぴったりな相手。

「ごめんなさい!下の子がグズっちゃって…遅れるけど、これから向かいます!」

「ちょっと旦那のヘルプ頼まれてしまって…ええ、今日は…ごめんなさい!」

スマホを片手に、慌ただしくサロンを行ったり来たりするユキノを何度も見かける度に、私はこの結婚に自信を深めた。

「その後、夫婦生活はいかがですか?」

「何も問題無いです。上手くいってますよ」

何回か行われた面談も、このやり取りの繰り返し。そう…夫婦として成立してる。私は。

二百万。絶対に決めてみせるからって、そう言って親から貰ったお金―――――それを馬鹿にしたように、自分のなれそめを語るような人間には…ユキノには味わえない幸せが、私にはある。

「では、本日の面談はこれで終了です。お二人とも良好な関係でなによりです!この後のご予定は…旦那様のご予約で、ランチですね。どうぞ楽しんでいってらっしゃいま―――――」

ちょっと!!!なんなの!…!って…どうして!!!説明して……なんでえぇぇ!!

突然、奥のブースから女性の喚き声が響いた。

耳をつんざくような声に驚き、私は咄嗟に、亮太の体に身を寄せる。

すぐにスタッフが駆けつけ、女性を外に引っ張り出そうとするが…女性は手足をジタバタさせながら、テコでも動くかという様相だ。

「困ります!警察呼びますよ!」

「いいわよ!呼べるものなら…呼んで…見なさいよ!…あんたらのしたこと…!話し…グッ、いやだ!はなせ…!」

突如起こった修羅場に、ミタキさんから「奥の方で待っていましょう」と言われるまで、余りの事にびっくりして、私も亮太も、立ち尽くしてしまった。

暫くして、女性は男性スタッフ数人に引き摺られながら、ようやく姿を消し、落ち着きを取り戻したものの…

「お騒がせして申し訳ございませんでした!!!」

と、その場にいたスタッフ全員に深々と頭を下げられ…何とも気まずかった。

「おいしいもの食べて忘れよう、な?」

亮太のフォローもあって、その後は予定通りカフェに向かい、お気に入りのランチセットを食べて気分は幾らか回復した。

だが…お手洗いに向かい、色直しをしようと鏡に顔を寄せた…その時だった。

後ろのトイレのドアが開き…さっき暴れていた女が、私の真後ろに立っていたのだ。

「…ひっ!!」

「…ちょっと静かにして、叫ばないで、お願い、話を聞いて…!」

女性はそう言いながら、必死の形相で私の手を掴んできた。途端に…背筋に冷たいものが走る。ヤバい人だと、直感で分かった。

「あなた、エターナルチェインの会員でしょ!?知ってるわ…早く、早く離れなさい!」

「…はぁ?あんた何言って―――――」

「一刻も早く退会して!でないと…私の友達みたいになる!」

「手を離して…!ちょっと!」

「あれは、絶対の契約なの!!もしかして、サインしたの!?」

「そんなの、とっくにしたわよ!」

そう言った途端…女は、すっと手を離した。

私を見つめる目は虚ろになり…絶望そのもの、って感じの表情へと変わる。

「あんたさ…頭おかしいんじゃないの?」

「…そう、あなた…添い遂げる覚悟なのね…?」

「だからさぁ!頭おかしいんじゃないの!?」

「そう…そうなの…皆そうなのね…」

女はそう言うと、ヨロヨロとトイレから出て行った。

振り乱してボサボサになった髪と、着古したダサいTシャツと…お世辞にもデニムなんて言葉が似合わない、傷んだジーパン。

この店に全くふさわしくない格好だし…言ってることもおかしい。

異常者そのものだ。

「どうしたの?やけに遅かったけど…」

「ううん、ごめんね…ちょっとメイクとか直してて」

「そのままでも可愛いって」

亮太の言葉で、さっきの女の事は、すぐにどうでも良くなった。

絶対とか契約とか、辞めろとか…ただの入会出来ない負け惜しみに違いない。

私は、幸せになりたいからサインした。亮太が一番、私を幸せにしてくれるなら、それでいい。

「ねえ、この後どこに行く?私、欲しかったバッグがあるんだ~」

「いいね、それ…見に行こう、そうだ、美紀子…トイレに行っている間、着信鳴ってたよ」

「ほんと?誰からだろ…?」

カバンからスマホを取り出す。お母さんからの着信だった。しかも、留守電メッセージまで…

「一体何の用…?」

通知ボタンを押して、メッセージを再生すると…途端に、母の悲痛な声が鼓膜に響いた。

「美紀子!!お父さんが…お父さんが倒れたの!い、いま病院にいて…とにかく来て!」

看護師に案内された先に、両親は居た。

個室の病床で、沢山の管に繋がれて眠る父と…その傍らで、じっと寝顔を見つめるお母さん。

「ねえ…何があったの?」

「美紀子…来てくれたのね…お父さんね、工事現場で作業中に、胸を押さえて倒れたのよ」

「え…?」

「お父さんね…借金してるのよ…うちの貯金、空っぽなの」

「はぁ!?何で?仕事は!?」

「リストラされたのよ!…でも、やっと美紀子が結婚するからって…美紀子の為にお金を…あんまりあなたが言うもんだから!」

「…私の為に借金して、返済の為に頑張りすぎて倒れたって訳?何それ…」

「どうにか搔き集めて、足りない分をお父さんが借りて…それで…」

「話が違うじゃない!!私のせいじゃないからね!私の生活はどうなるの!?子供だって、手伝ってもらおうと思ってたのに!」

「無理よ…申し訳無いけど、お父さん、介護必要になるから…」

「知らない!こいつが勝手に潰れただけじゃん」

「美紀子…!何て事言うの!あなたは!…こんな、こんな子に育てた覚えは…」

「お母様、落ち着いて下さい…」

「はぁ…看護師さん、あとよろしくお願いしますね。私忙しいんで…」

信じらんない…確かに私、頼み込んで、貰ったけど…

「美紀子、大丈夫か?」

「大丈夫よ、ね、帰ろっ!バッグ、見に行こう!…亮太?」

動かない。いつもなら私が腕を引くと、一緒に来てくれるのに…ピクリとも。

「亮太?りょう―――――」

「今の話…本当なのか…?」

「え?」

「親が、借金した金で…お前、エントリーシートには…」

「違うの!これは…だって…親が勝手に…!」

「言い訳とか聞きたくない。本当の事言え、お前、嘘ついてたんだな?」

「嘘なんて…私…怒らないで。…お願い」

「俺がなんで、お前と結婚しようって思ったか知ってんの?」

「え…だ、だってそれはAIが決めた…!私の事が好きだって、私と合うって―――――」

「はぁ?何言ってんの?どこまで自惚れてんだよ…いいか?お前が人並みの、普通の家庭で普通に育った奴だからだよ!健全な家庭環境で、経済的にも借金するようなランクじゃないって…!だから安心してお前にしたのに!」

「ふつう?…普通、でしょ?私…今だって…ほら、ユキノみたいに母子家庭で色々あった子よりも、いいでしょ?」

「…誰だよそいつ、知らねえ、どーでもいい。今のお前は、俺の普通じゃないんだよ…でもな、これは契約だからな、俺もお前もサインしたんだ。『永久保証サービス』に」

「いいじゃない!普通よりもいい暮らし出来るでしょ?」

「服だの靴だのバッグだの、エステだの車だの…あぁあもう…お前、分かってんのか!?ステータス欲しさに、絶対に離婚できないシステムに登録しちまったんだよ!!」

「なに…それ、そんな事になってるの…?」

「これだから女は…ロクに説明も読まずに、目先の欲だけで…笑える」

亮太の目は、一ミリも笑っていない。

怖くて目を伏せた。視界の先には…父親のいる病室がある。

何で、こんな所でこんな話してるんだろ?

「ユキノのせいだ…」

「あ?」

「あの子、ちょっと考えが個性的だから、面白いと思って一緒にいてあげたのに。私とかがいないと、ぼっちだったのに…いつの間に結婚とか子供とか…母子家庭の癖に、私に自慢するみたいに!」

「だから!知らねぇんだよそんな女!…まあ、ただの恋愛結婚なら、すぐに離婚出来たのにな…クソ…!」

―――――マッチングエラーです。修正してください。マッチングエラーです。修正してください。マッチングエラーです。修正してください。マッチングエラーです………

突然、頭の中で音声が流れ出す。

マッチングエラー?何?頭が痛い…苦しい…

「うるせえ…!!…怖い、やめてくれ!」

亮太が、床の上でのたうち回る。

私は…苦しみながら、ただぼんやり眺めるしか出来なかった。

落ち着いて、とか、やめて、とか…本来の夫婦だったら、そうするのかな?

父親も、お母さんもそんな関係で…牽制し合ってたのかな?

私、ずっとお母さんの方しか興味無かったから、分からない。

―――――マッチングエラーです。消去対象に変更します。マッチングエラーです。消去対象に変更します。マッチングエラーです。消去対象に変更します。マッチングエラーです………

「うう…う…助けて…みき、こ…」

「りょうた…わかった…わかったから…」

何で泣いてるんだろう?今まで、父親の為に涙を流した事も、流す理由も無かった筈なのに。

私の足は勝手に、病室に向かって戻って行った。

管まみれのひどい姿。苦しいよね?今、楽にしてあげる。

私の幸せを思って―――――

―――――マッチングエラーです。消去対象に変更します。マッチングエラーです。消去対象に変更します。マッ―――――

待合室に戻ると、それまで暴れていた亮太が、静かに立ち尽くしていた。

マネキンみたいに…微動だにせず、私に背を向けて。

遠くでは、母らしき女性の悲鳴が、廊下を伝って聞こえていた。

「……亮太…?」

私の声に気づいた亮太が振り返る。穏やかな笑顔の…いつもの亮太だ。

「ごめんな美紀子、酷い事言って…でも、もう大丈夫だ!俺達、ピッタリの夫婦だよな!」

―――――マッチングエラーが修正されました。消去モードを解除。永久保証サービスを継続致します。マッチングエラーが修正されました。―――――

永久保証サービス、という声が、鼓膜に余韻を残す…

音声は、暫くしてパッタリと消えた。

「桜川様、お待ちしておりました。では、いつも通り面談を開始させて頂きます」

「よろしくお願いします」

「データを拝見する限りですと…お二人のマッチング度の差に、今の所問題はありませんが、そのような認識で宜しいでしょうか?」

「はい、問題無く出来ていますよ、やはりAIの見立ては正しかったですね」

「そうですか!ありがとうございます。…奥様も、同じ認識で宜しかったですか?」

「…美紀子、美紀子?」

「…はい…そうです…」

「ありがとうございます!では、引き続き永久保証サービスを更新させて頂きますね!今日はこの後…お買い物のご予定でお間違いないでしょうか?」

「ああ、車を出しておいてくれ」

「勿論でございます!気を付けて行ってらっしゃいませ!」

―――――あなたの将来に、一筋の光を!エターナルチェインは、あなたと運命のパートナーを永遠に繋ぎ留めます!―――――

「ねえ、亮太…欲しいバッグがあるんだけど…」

「ええ…?そういうのは別の日にしてよ…今日は、俺の車見に行くんだからさ」

父の借金は、ゼロになった。

その代わりに、お母さんは鬱になって精神病院送りになったけど…もう、顔を見る事も、会う事も無い。

私は笑っている。笑顔を絶やさない。彼にぴったりの妻…どんなに心が死んでいても、私達という夫婦の、ステータスは維持される。

AIが、そう判断したのだから…

「今朝未明、東京都〇〇区○○川の河口付近で、男女二人の水死体が発見されました。警察によると二人は夫婦とみられ…事件性は無いとの見解を示しており…」

「…都内のタワーマンション内で、夫婦の遺体が発見されました。争った形跡は無く、警察は自殺と断定―――――」

「神奈川県某所にある高級ホテルの一室で夫婦の遺体が発見された事件で…検死の結果、二人共に脳内の血管に損傷が見つかったとの事です。医師による見解では、事故だと―――――」

「気を付けてくれよ?美紀子…俺達だって、一歩間違えたらこうなるんだからな?」

「うん…きをつけるよ」

「ねえ、ミタキさん、あなたの担当しているパートナー…」

「ああ、桜川さん?」

「…大丈夫?」

「さあ…ねぇ?私達はAIの判断に干渉出来ない決まりだし。あの夫婦の生活にも興味無いし」

「いいのぉ?それで(笑)」

「いいのっ、あ、ねえ…今日、飲みに行かない?」

「ごめん!まだこれから…新規入会希望者の手続きしないといけないの」

「そっか、じゃ、また今度ね!…ていうか、私もこれから、エントリーシートのチェックがあるんだったわ…」

「なんだ~!ねえ、どんなのが来た?」

「ええと…『年収一千万…家庭環境健全…優しい人』…だって…」

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