中編6
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人の家庭

皆さんには、

昔よく遊んだけど今は全然会っていない友達とかいますか?

ふと、思い出して懐かしくなりますよね。

今はどんなことしているんだろうとか、逢ってみたいなとか、考えたりしますか?

私には、懐かしむことはできても、もう会えない友達がいます。

小学生のころから、私はあまり周りの人間とは合わなくて、

友達はまったくいませんでした。

悪趣味だったということもあるかもしれません。

オカルトやらアニメやら写真やらが趣味で、

周りからは完全に浮いていたと思います。

ですが、昔から一人だったので、

寂しいとか、悲しいとかはあまり感じませんでした。強がりでなく。

ただ、昔を思い出して、

思い出がほとんどない私の人生は、”空っぽ”だなと正直思います。

最近そんなことばかり考えていて、ふと思い出したことがあります。

それが、あっちゃんとの思い出

高校生になってからも全然友達が出来なかった私。

しかし、高校2年の1学期前半。

やっと一人同じ高校の同学年である、

あっちゃん、という子と仲良くなれました。

彼女とは、幸い、趣味も雰囲気も合致しました。

合致したからこそ仲良くなれたのですが。

かなり大規模な学校で、クラスも十数もあり、

彼女とは図書室以外でほとんど会うことはありませんでした。

当時の私は、いつも図書室で本を読むことが日課で、

彼女もいつも独りで図書室にいました。

彼女は、いつも同じの窓に近い席に座って、

寂しそうな時々外を眺めている姿が印象的でした。

友達もいないようで、同じ匂いがしたからかもしれない。

何となく仲良くなれそう…

そう思っていました。

受験をすでに意識していた私は、

そのプレッシャーと一人戦っていたのですが、

こんな時支えになる友達がいたらどんなに楽だろうかと切に思っていました。

一人が嫌だと思ったのは、その時が初めてかもしれません。

その時から、彼女を強く意識し始めました。

自然と家に帰る時間も遅くなり、

閉校時間ギリギリまで図書室にいることが多くなっていました。

そんな時、勇気を振り絞り初めてあっちゃんに声をかけました。

「何読んでるの?」

後ろから声をかけられて少しびくっとした彼女は、

本の表紙を私に見えるようにして、

「こ、怖い本…ははっ…」

たったこれだけの、こんなたわいもない会話を、

何日ぶりにしただろう。何か月ぶりにしただろう。

彼女と私は、

いままで一人ぼっちだった時間を取り戻すかのように、

ずっとしゃべり続けました。

彼女の声が、彼女の表情が、彼女の存在が、心地よかった。

それからは、毎日図書室で会いました。

特に会う約束をするわけでもなく、彼女はいつも通り来ていただけなのですが。

私はあっちゃんと会うことだけが学校へ行く目的となっていました。

唯一の友達でしたが、相談事をすることは一度もありませんでした。

あっちゃんも、悩みは自分で抱え込んでしまうタイプだったと思います。

微妙な距離感のまま、逢えばたわいもない話ばかり。

でも彼女は悩みだらけだったと思います。

彼女の腕や足には、

根性焼きのような円いやけどや、あざがたくさんありました。

いじめを受けているんだとその時は思いました。

「悩んでることがあったら、言ってね?」

と私が言うと、

彼女は

すこし驚いたように、そしてすぐに笑顔になって、

「ありがとう…」

といってぽろぽろ涙を流しました。

私は自分の無力さを感じ、

悔しくて、私も泣いていました。

そんなある日、彼女が死にました。

朝、校舎の裏にある木で首つり死体となって見つかったのでした。

遺書もなかったそうです。

私は、信じられませんでした。自分の生きる糧が無くなった気分でした。

出来たら私も追って逝ってしまいたかった。

あっちゃん、あっちゃん…

放課後、あっちゃんがいつも座っていた椅子に座って、

絶望に打ちひしがれ、涙が止まらなかった。

座っていた席から、

窓から、あっちゃんが死んだ木が見えるのです。

彼女は、私と出会う前から死ぬ気だったのかもしれない。

あの木で死のうと決めていたのかもしれない…

私はそう思うと、よけいに虚しくて、また泣きました。

皮肉なことに、

お通夜で、初めて、あっちゃんのうちに行きました。

一通り終わって、彼女のお母さんと話をしました。

いつも、あっちゃんは私の話をしていたそうです。

おばさんはとてもにこやかで明るい人でした。

自分の娘が死んで悲しいはずなのに、

無理して笑って、娘の友達に悲しい顔を見せまいと思ったのでしょう。

笑顔で私に接してくれました。

次の日、お葬式も終わり、

彼女は本当にこの世から居なくなりました。

虚しかったです。

その後も毎日私はあっちゃんの家に、

お線香をあげに行きました。

その度に、おばさんは私を笑顔で出迎えてくれました。

「あっちゃんの部屋見ていく?」

とおばさんが言ったので、

私は、はいと、

あっちゃんのこと今からでも知りたいと思って、返事をしました。

勝手に見ていいよ、というのでひとりで見させてもらいました。

あっちゃんの部屋は、整然としていていました。

ぬいぐるみや、洋服棚や、置物も無く、

机とベッドがあるだけの、

それ以外は何もないという印象の感じの部屋でした。

電気も点けないで、カーテンの閉まった薄暗い部屋で、

あっちゃんはもういないんだと感じ、

また、涙が出てきました。

その時でした。

からだが、ずんっと重くなったかと思うと、

視界が暗くなり、意識が遠のいていきました。

- - - - - - - - - - - -

私は夢を見ていました。

お風呂に入っているようで、裸でした。

足もとから首下まであざだらけで、

腕から背中にかけて、点々と、根性焼きのようなやけどがある。

私は服を着て、お風呂場から出ると、

あっちゃんのお母さんが鬼のような形相で目の前に立っていて、

いきなり私の顔面を殴りつけました。

「いつまではいっとるんじゃ、金の無駄なんだよクズが!」

と言って、私の髪をつかんで、振り回すのです。

何度も何度も振り回すのです。

痛くて怖くて、「やめて」、「やめて」、「ごめんなさい」と叫ぶのですが、

一向にやめてはくれません。

「うるさいんじゃ、黙れ屑。お前なんかお前なんかなぁああ!死ね。死ねしねしね。」

とおばさんはその間も、

罵り続けます。何かに取りつかれたような顔で。

何分かしておばさんが落ち着いて、

私は自分の部屋に戻り、

悲しくて悲しくて、泣き疲れて、

布団の中で明日が来ませんようにと願いながら、

静かに静かに眠るのです。

- - - - - - - - - - - - -

そこで目が覚めました。

私は泣いていました。

今寝ていたベッドは目の前のベッド。

あっちゃんのベッド。

あっちゃんが後ろにいるような気がして、

振り返ったけど、そこにいたのはおばさんでした。

「遅いからどうしたのかと思って。。寝ちゃったのね」

と優しい笑顔で、立っていました。

私は、夢のおばさんの顔が鮮明に思い出されて、

その笑顔がとても不気味でした。

「すいません、もう帰ります」

帰り際に、テーブルの上の灰皿に吸いがらが何本かあるのが視界に入りました。

背中がずきずきとしましたが、

そそくさと家を出ました。

あっちゃんは虐待をされていたのでしょうか。

あっちゃんはそれを私に伝えたかったのでしょうか。

数ヶ月後におばさんも自殺して、その家はもぬけの殻となり、

しばらくして取り壊されました。

-最近、ふと思い出した思い出でした。

記憶の片隅に追いやられて、色褪せた記憶でしたが、

もう忘れたと思っていたのに、何年も経っても、

まだ私の中では整理がついていないようです。

怖い話投稿:ホラーテラー SHさん  

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