中編3
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海釣り

 これは私が体験した話ではなく、私の父がちょっとした勘違いから体験した話です。

 私もそうですが、父にも霊感はありません。むしろ、怖がりですから、さぞ怖かったと思います。

 まだ私が、2、3歳の頃。どこかの海の防波堤に釣りに行ったそうです。私と兄と両親で。

 家族連れの多い日曜のお昼。お父さんと釣りを楽しむ、私と年の変わらない女の子がいたそうで、この子が海に落ちたのです。

 女の子が落ちたぞ!!!!誰かの叫び声に、父はまず、財布とタバコを置いて海に飛び込んだ。

 それは秋に入った頃で、水はお世辞にも気持ちいい温度ではなかったそうです。

 つまるところ、父は私が落ちたと思って飛び込んだわけですが、溺れて暴れている子供は当然私ではなく、よその子だったんです。

でも、よその子だからって見捨てるわけもなく、父はその子を脇に抱えるような格好で岸壁に戻ろうとしたんですが…

 不思議に思ったそうです。泣き叫ばないのかな?と。はじめからその子は泣き叫んでいなくて、手足をばたつかせるように、水面を叩いていただけ。

 父が大丈夫だからな!!と勇気づけた時もただ、紫になった唇の奥で歯をガチガチと鳴らすだけ。

 溺れたら人間パニックになりますょね。よく、溺れた人間助けた人が溺死してません?あれは、一緒にパニックになったり、パニックになった人間が救援の妨害を知らずにすることがあるんですょ。

 それくらいになってもおかしくないのに、女の子は黙って寒そうに震えながら父にしがみついていた。

 防波堤そばのテトラポットまで来た時、テトラポットの上には防波堤にいた大人や女の子のお父さんが立って、二人を引き上げようと待っていた。

 その時、初めて女の子は泣いて暴れだしたと言います。「あいつらが、海に落としたんだ」そんな内容の事を言ったようです。

 落とした?父が疑問に思った瞬間、首から背中にかけて、無数の手が父にしがみついてきたそうです。手は掴むばかりで、引き込もうとはしなかったそうです。

 助けて、助けて、助けて、助かりたいの、まだ、生きたい

波音と女の子の泣き声、歯がガチガチ鳴る音の合間に何者かの声なき声が聞こえたそうです。

 女の子は岸壁を蹴って、少しでも離れようとする、背中では得体の知れないものが呼ぶ。

 女の子のお父さんはすぐそこにいるというのに。不思議と、そのお父さんは、手は伸ばすものの女の子の名前を呼ぶでもなく、こっちにおいでと言う風でもなかったと防波堤にいた母。

 父は、防波堤付近からあがる事をやめ、防波堤に沿って浅瀬に移動しようかと考えた時、誰かが呼んだ漁船がやってきて、船上に女の子と一緒に引き上げられたそうです。

 女の子は船に乗ると、さっきまで泣き叫んでいた時とは打って変わって、楽しそうに岸壁に手を振ったと言います。

水に浸かっていた恐怖だと、父は勝手に理解していたそうですが、漁船に乗り込んでいた船員が言ったそうです。

 大丈夫ですか?首と背中にずいぶん、手形付いてますけど、子供の力ってすごいんですね、と。

 あの子は、海水に浸かって、自分が助けている間、まるで人形のように(動きは)大人しかったのに、岸壁に近づいた時、激しく泣いた。

 漁港には、私と兄と母、心配した人たち、それと女の子のお父さんがいた。

 ビショビショの格好で漁港に着いた父と女の子は、すぐに漁協組合の二階で着替えたり毛布に包まれたり。

 父は女の子に(助かって)よかったねと言ったそうだが、返ってきた答えに心底怯えたと言う。

 「お父さんがしたもん」

 父の腕には女の子が必死にしがみついた爪痕があったそうですが、手の回らない背中や腰の辺りにも大小様々な手形や引っ掻き傷があったそうです。

 女の子とそのお父さんは、警察へ、父は表彰のためにも…と呼ばれたそうですが、その親子に関わるのが嫌で断ったそうです。

あいにくとその親子がどうなったのかは、知りません。

怖い話投稿:ホラーテラー 美利河さん  

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