中編6
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訓戒①

この世には見てはならないものがいくつか存在する。

どんなものか?の問いには明確には答えられないけど一つだけは知っている。

それは、処刑される人間が書いた書物らしい。

論文の研究でとある地方に行った際に聞いた話だ。

その内容はと言えば以下の特徴を持っているらしい。

 ・呼び名は不明

 ・存在した時代は不明(江戸時代初期頃?)とのこと

 ・死に行く罪人へのせめてもの慰めとして処刑の前夜に好きなことを書かせた

 ・罪人一人につき1枚の紙を渡した(裏表)

 ・刑に関わる任を負ったもののみ触れることが許される

 ・その中身は決して読むことが許されず、風呂敷に包まれ寺へと納められる

 ・寺納められた後は紐で通され、一遍の書物となる形式として保管される

 ・文書には恨みや悪意(=穢れ)がこもると考えられ、鎮魂のために長い年月をかけて供養される

もう見てはいけない理由を言う必要はないよな?

死に向かう人間が、その前夜に考えることなんて、恐ろしすぎる。

罪を受け容れて辞世の句を書いた者など一握りしかいなかったらしく、あとは死の恐怖からか

生への執着や恨みつらみが大半だったらしい。

時代がそうだったからか、文字としての体を成していないものも多かったようだ。

何で読んではいけないのにこんな話が出来るのかっていうと、

僕が話を聞いた人が当時75歳くらいの方で、この方が子供の頃に父に教えてもらったことを

そのまま教えてくれたからだ。なので僕の説明には、多少分かりやすく直してもいる。

その人の話によればこうだ。

※分かりやすくその人=Aとする

※出来るかぎりその人の話し方に近づけてみるが、話し方まで覚えてないから

 変かもしれない。勘弁してくれ。

A「その本には、おっそろしい話がつきまとっておってなぁ、そらぁそんな本、

 まともな人間は読んじゃいけんわなぁ。

 

 だども、人間ってのはやめろ言われるとますますやりたくなるもんだで、

 中にはそれを読もうとする馬鹿者もおったそうでの。

 俺の父っちゃの爺さんがさらにその親父さんから聞いたの時の話らしいから、

 ほんとかどうか分からんけどもそれを読んだ馬鹿者がおったんだと。」

A「なんでそんなもん読んだかっつうと、当時村にはえらいべっぴんの若い

 女がおったそうじゃ。 ただ、この女、この土地のもんではなく、他所から

 きた流れ者だったんじゃ」

 

A「えらいきれいな女子じゃったそうじゃからな、たちまち村の男の中で

 取り合いが始まった。

 女子はまいってしまってのう。。

 こんなとこに他所から来て、何か理由があったんだろうなぁ。 

 出て行くにも出て行けなかったんだろうなぁ。

 しばらくは村の外れの空き家に住んどったらしいんじゃ」

A「そんなきれいな女子じゃ、村の男達は夜毎夜這いをかけた。

 ただ、その女子はわかっとったんじゃろうなぁ。

 夜には家から抜け出し、どこかに隠れとったそうじゃ」

A「そんなことがしばらく続くと、よく思わない者も出てくる。

 村の女達じゃ。 

 それまで言い寄ってきた男共が全く見向きもしなくなり、嫉妬したんじゃろうなぁ。

 それに加えて相手にされない男も加わり村の大半が女子を疎ましく思ったんじゃろう。

 ある日大勢でその女に詰め寄ったそうじゃ。

 “いつまでこの村にいる気なのか”

 “ここに来たのは何故か”

 “出て行け”

 女子はほとほと困ってしまった。 というのも当時はどこに行っても

 他所者は疎まれるし、まともな地図なんて庶民がもっとらん時代だからなぁ。

 行く当てはないし、かと言ってこのままここにいてもいずれ追い出される。

 弱りきった女子はこういったそうじゃ。

 “どうぞ何でも言うことをお聞きしますから、ここにおいてはもらえませんか?

  私には行く場所なんてないのです。 どうか、どうかお願いします”」

ここまで話すとAさんは一旦煙草に火をつけてこう言った。

A「今みたいに安心して他所者がうろちょろ出来る時代じゃなかったんじゃろうなぁ。

 ここも今はそうでもないが、昔はほんに狭いところだったしの」

早く続きが聞きたい僕は「それで、どうなったんですか?」、そう聞いた。

A「読まされた」

僕「え?」

A「その本を読まされたんだ」

僕「でも、読んではいけないからお寺で保管されているって・・・」

A「村の人間が大勢で寺に押しかけてなぁ、住職も大勢から出せと言われて

 怖くなったんじゃろうなぁ。 他の者は読んではならんと言って女子を一人、

 本堂に入れて、目の前にその本をおいたそうじゃ。

 興味もあったんだろうなぁ。読んではいかんと言われていたもんを読んだら

 どうなるのか」

僕「でも、何でわざわざそんなことを・・・」

A「悪ふざけかもしれんな。怖いと言われているところへ弱い人間を連れ出して

 怖がる様を面白おかしく見るようなもんだろう」

A「女子が本堂に入り、当時で言うと一刻くらいした頃出てきたそうな。

 その時には、人が変わってしまっていたそうじゃ。 

 目は開かれたまま、どこを見るでもなく、口元は笑っていたそうじゃ」

A「さすがにそれまで騒いでいた村の者も声がでない。

 女子はゆっくり、ゆっくり皆の方にあるいてきた。 そして、皆の前で止まった。

 何も言わず、不気味な笑いを口元に浮かべたまま、どこを見ているか分からない目で

 村の者達を見回していたそうじゃ。 その中にはその寺の住職もいた。

 笑い声なのか泣き声なのか分からないような声を上げはじめた女子に

 一人の女が近づいたその時、女子が急に飛び掛った。

 

 右手の人差し指をまっすぐに、近づいた女の左目に突き刺して、

 刳り抜いて、くちゃくちゃと食べたそうじゃ。

 慌てて女子を取り押さえたが、信じられんほどの力で振りほどかれる。

 振りほどかれたら振りほどかれたで今度は押さえつけに来た男の首元に

 噛み付き、そのまま噛み千切っってはまた食べる。

 ここまで来ると、もう嫉妬やら怒りは恐れに変わっておった。」

A「そんでなぁ、恐れは人をおかしくするんじゃ。」

A「皆、手に棒を持って、全員で女子を突いたり殴ったりした。 

 みるみる内に、女子は肌は裂け、血を流し、顔は形が変わり、髪は

 剥れた皮ごと地面に落ちた。

 それでもその女子は笑い声なのか泣き声なのかわからない声を上げたまま

 あたりを走り回っていたそうじゃ。 そうすると、どうなるか分かるか?

 次第にそれは狩のようになってくる。

 少しづつ、棒を振る力は強くなってきて、終いには大人の男が思いっきり

 殴りつけるようになっていた」

僕「それじゃぁその女の人は殺されたんですか?」

A「いやいや、そんな生易しいもんではね。 そういう時の人間ってのは

 鬼にも畜生になるもんだで。」

A「やっとの思いで女子を縛り上げ、使っていなかった寺の土蔵に閉じ込めたんじゃ。

 例の本と一緒に」

僕「え? 何で? だってその本は大切に保管されて、供養されるものなんですよね?

  それに、どう考えてもその女の人がおかしくなった原因じゃないですか」

A「じゃから、言ったじゃろ。 そういう時の人間ってのは鬼にも畜生になる。」

A「単なる遊び。 どうせ殺す人間、恐ろしい本と一晩一緒にいたらどうなるのか、

 単なる興奮と興味のために閉じ込めたんじゃ。

 怒りもあったんじゃろう、呪われろという気持ちもあったんじゃろう。

 とにかく、土蔵にはその女子とその本が一晩とじこめれられたそうじゃ」

「一晩中、人の声とも獣の声とも聞こえる叫びや、笑い声が響いておったそうじゃ。

 夜が明け、村人達と寺の住職が集まった頃には声はもうやんでおった。

 縄で固めた扉を開け、恐る恐る中に入るとそこには舌を噛み切り、口元が真っ赤に染まった

 女子の死骸があった。

 そしてその横にはあの本が落ちていたそうじゃ。

 その本には新しい紙はない。罪人は1枚の紙の表と裏を使えて、罪人が書いて

 寺に納められて初めて本になるからの。あまってる紙なんてなんじゃよ。

 その女子は裏表紙に書いていたそうじゃ。恐ろしいことに、縛られているから

 手は使えず、噛み千切った舌先でもはや読み取れない文字なのか記号なのか分からんが

 何かが血で書かれていたそうじゃ。

僕「怖い話ですね。 何も悪いことなんてしていないのに、気分が悪い話ですよ」

A「そうじゃの。 ただ、これでは終わらなかったんじゃ」

僕「まだ、、、続きがあるんですか。」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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