中編3
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希望と現実

流れ出るシャワーの音と手首から滴り落ちる赤い血の音を聞きながら、優は薄れ行く意識の中で『やっぱりまだ死にたくない!!』と思い続けていた………。

時折吹く朝の風は、ほのかに秋の匂いがした。

(あ~あ、学校行きたくないなぁ……。)

憂鬱な気持ちの中、私は長い様で短かい、とても楽しかった夏休みを思い出していた。

私には2人の幼馴染がいて、この夏休み3人はずっと一緒だった。

ちょっと遠い遊園地のプールに遊びに行ってナンパらしき事をされたり、肝試しに行って、恵が『あそこ、何かいる…。でも……大丈夫、悪い人じゃないみたいだね』と突然言い出し、私たち2人はそこから泣きながら逃げ出したり、アクセサリーショップでお揃いのペンダントに3人の名前、優、美沙、恵とそれぞれの名前を彫ってもらったり………。

ぼーっとそんな事を考えていると、私の視界に祐美と涼子の姿が見えたが、2人はまるで私が見えていないかの様に私の前を素通りして行った。

(律儀に新学期もシカトですか…)

これが、私が学校に行きたくない理由、いわゆるいじめと言うやつ。

事の始まりは数ヶ月前、ある男の子が付き合っていた彼女と別れ、そのすぐ後に別の女の子に告白したことだった。

告白された女の子はその彼に友達以上の気持ちを抱いていたけど、別れた彼女と少なからず交流があったからその告白をすぐに断った。

でもどう言う結果にせよ、振られた彼女にしてみれば面白くない話なのには変わりはない。

告白された女の子の妙な噂が流れ始めたのは、それから少し経ってからだった。

噂に噂が重なり、終いには『その女の子は振られた彼女の事が気に入らないから、身体を使って彼を誘惑し別れさせた後、もう用の無い彼をあっさりと捨てた』と言う風になっていた。

その時からその女の子、優にとって苦痛の学校生活が始まった。

最初は皆から無視される程度だったが、少しずつ”それ”はエスカレートしていき、優は自殺を考えるまで追い込まれた。

しかし、優は2人の幼馴染、美沙と恵に支えられ、何とか最悪の道を進まずに済んでいた。

しかしその様な事をすればいじめの対象が美沙と恵にも及んでくる事は明らかだったのだが、そんな事になっても2人の態度が変わる事は決してなかった。

そのおかげで、優は何とか夏休みまで耐える事が出来た。

束の間の楽しい時間はあっという間に過ぎ、後3日で夏休みが終わろうとしていた日、新学期が始まりまた辛い日々が再び訪れると言う現実が、夏休みに楽しい時間を過ごした優にとっては今まで以上のとてつもない恐怖に思えた。

美沙と恵に相談していれば、あるいはその恐怖も安らいだかもしれない。

しかし、運が悪い事にそんな時に限ってどちらにも携帯がつながらなかった。

優は恐怖に押しつぶされ、学校に行く位なら…と、半ば発作的に最悪の道を選んでしまった。

「恵!!」

私は祐美と涼子の少し後ろを歩いていた恵を見つけ手を振った。

「久しぶりだね、ってこの前会ったばっかりか」

私が声をかけると、恵は少し戸惑った顔をしながら答えた。

「そう…だね」

「さっき祐美と涼子にあったけど、やっぱりシカトされちゃった。…どうしたの恵?元気ないよ?」

「……だって…だって、優が……」

それから先の言葉を続けられず、恵は黙ってうつむいてしまった。

「…そう…だよね、私も認めたくないよ」

「………」

返事の無い恵を見つめながら、私は言葉を続ける。

「バカな事したよね…、恵?どうしたの?……泣いてるの?」

下を向き、今にも泣き出しそうな恵に一人の女の子が近付き、恵の肩をそっと抱きしめた。

「美沙…」

私の呼びかけは、美沙には聞こえていないようだった。

美沙に抱きしめられながら、恵が涙を零しながら呟く。

「本当…あんた、バカだよ……優…」

「あぁ、やっぱり…。私、だめだったんだ……」

私の最後の言葉は、もう恵の耳にも届いていないみたいだった。

認めたくないけど、これが現実らしい。

(どうやら私の願いは……叶わなかったみたいね…。)

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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